12試合目で掴んだポストシーズン先発初勝利! 遂にジンクスを打ち破ったデビッド・プライスの忍耐力

アストロズ戦でポストシーズン先発初勝利を飾ったデビッド・プライス投手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 最後の打者がレフトフライに倒れると、5年ぶり13度目のワールドシリーズ進出を決めたレッドソックスの選手たちが次々にグラウンドに押し寄せた。歓喜に沸く選手たちがお互いの健闘を称え合うように熱いハグを繰り返す中に、やや大人しめに安堵の表情を浮かべながらハグに応じているデビッド・プライス投手の姿があった。

 シリーズ王手で迎えた第5戦の先発を託されたのがプライス投手だった。ローテーション通りならクリス・セール投手が登板するはずだったのだが、数日前に腹痛で入院していた体調を考慮して第6戦へスライドされ、その代役として指名されていた。第3、4戦には緊急登板に備えてブルペン待機し、第4戦には9回にブルペンで投球練習を行い肩もつくっていた。しかも第5戦の先発が正式発表されたのは第4戦終了後。決して盤石で臨んだ登板ではなかった。

 それでも立ち上がりから気合いの投球を披露した。1、2、4回と走者を許す場面があったが、この日は一度の連打を許すことなく強力アストロズ打線に勢いに乗らせる場面を与えなかった。味方打線も1ー0で迎えた6回にラファエル・デバース選手の3点本塁打が飛び出し点差を広げると、その裏を3者凡退で締めくくり、最高のかたちで中継ぎ陣にマウンドを譲った。

 「今日は自分がこれまでグラウンドで体験した中でもとびきり特別なものの1つになった。本当に特別だ」

 息子を抱えながら記者会見場にやってきたプライス投手は、「この試合はあなたにとってどういう意味をなすものか?」と聞かれ、静かにこう答えた。ここまでポストシーズンで2試合に先発し、いずれも5回をもたずに降板していた。メディアからは「先発から降ろすべきだ」という批判も起こっていた中で成し遂げた好投。しかも自身にとって先発投手として掴んだポストシーズン初勝利だった。プライス投手にとっても格別な思いがあったはずだ。

 プライス投手のポストシーズン・デビューは、MLBデビューを飾った2008年のレイズだった。当時は先発陣が揃っていたため、中継ぎ投手としてポストシーズンのロースター入りしたのだが、レッドソックスとのリーグ優勝決定シリーズでは3試合に登板し、1勝1セーブの好投を演じ、チームのワールドシリーズ初出場に貢献。さらにワールドシリーズでも2試合に登板し好投を演じており、当時は“大舞台に強い投手”という評価を受けていた。

 ところが翌2009年からレイズの先発陣の大黒柱になってからは、その評価が徐々に変わっていった。2010、11、13年とポストシーズンに進出し、エースとしてポストシーズン4試合に先発したものの、いずれも敗戦投手になっている。その後もレイズを離れ、タイガース、ブルージェイズでもポストシーズンに登板してきたが、2015年の地区シリーズで中継ぎ登板で勝利投手になっただけで、先発した試合で一度も勝利投手になれていなかった。今年を含めると、この日の登板前までポストシーズン11試合に先発し、成績は0勝9敗。メディアならずともプライス投手の勝負弱さを感じていたはずだ。

 「(第4戦でブルペン入りしたことで)何かを掴むことができ、それを今日の試合に持ち込むことができた。それが大きかった。

 マウンドでもいい感じだった。ずっと自分自身にこの勢いを維持し続けろ、と言い続けた。次の打者を意識するな、次の投球を意識するな、とにかく目前のことに集中するようにってね。今夜はそれがすることができた。ようやく報われた気分だ。だから今日は本当に特別な気持ちなんだ」

 前日のブルペン入りを見事プラスに変え、ようやく先発としてポストシーズンという舞台で自分の役目を果たすことができたのだ。その表情から充実感が滲み出ていた。

 「今日のデビッドは制球力がすべてだった。ここぞという場面では球威も上がっていた。試合序盤はチェンジアップを多投していたし、前回の登板とは明らかに違っていた。デビッドについてはクラブハウスの外でいろいろいわれ続けていたが、自分はまったく気にならなかった。実際前回の投球も悪いとは思っていなかった。

 確かに成績はよくなかったし、ポストシーズンで最も酷い投手だといわれているのも聞いていた。だからといって自分はメディアとやり合うつもりはない。とにかく今日のデビッドの好投が素直に嬉しいし、これで新たなページに進むことができた。我々はデビッドと一緒にワールドシリーズに進出するんだ」

 周囲の雑音に耳を傾けることなく、プライス投手を先発として起用し続けたアレックス・コーラ監督。この日の好投でようやくメディアの批判を沈めることができた。

 だがプライス投手の仕事はこれで終わりではない。先発として初めてマウンドに立つことができるワールドシリーズの舞台が待っている。

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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