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ナイキ広告の反応に世代格差 騒動から垣間見られる現在の米国社会構造

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
サンフランシスコの繁華街に登場したコリン・キャパニック氏を起用したナイキ広告(写真:Shutterstock/アフロ)

 米国最大のスポーツ用品メーカーのナイキが、今年30周年を迎えた同社の「just do it」キャンペーンに、公式戦の国歌斉唱時に膝つき行動を始めた元NFL選手のコリン・キャパニック氏を起用したことで全米中に論争を巻き起こす結果となった。同キャンペーンは先週末から展開を開始し、すでに主要都市にはキャパニック氏の広告も掲示されている。

 そんな中、米リサーチ企業の『Harris Poll』社がナイキに対する意識調査を実施し、その調査結果をESPNがレポートしているのだが、ナイキの株価が下落したり不買運動が起こるなどの批判が目立つ中で、若者を中心に多くの支持者がいることが判明した。

 今回の調査は2026人の米国民を対象に行ったもので、昨年12月に実施した同様の調査と比較検証している。

 まず「ナイキ製品なしの生活は考えられない」というナイキ愛用者は前回調査の33%から9ポイント減の24%まで落ち込んでおり、キャパニック氏起用がマイナス面に作用しているのは明確になっている。だがその一方で、「もうナイキ製品を購入しない」と答えた人が21%だったのに対し、「これからもさらにナイキ製品を購入する」と答えた人もほぼ同等の19%存在しており、今も揺るぎないナイキ支持者がいることが理解できる。

 特にナイキ支持者は若者男性層に多く、この層に限っては「これからもさらにナイキを購入する」と答えた人は29%に達している。さらに18~29歳の男性は、ナイキに対していいイメージを抱いている人が前回調査より6ポイント上昇している。またキャパニック氏起用に関しても、男女ともに13~34歳の若者層に支持者が多かったという。

 一方でナイキに対して批判的な立場の人たちの中には、「ナイキ製品からロゴを外した」人が5%、「ナイキ製品を廃棄した」人が7%、「友人に自分と同じ行動をするべきだと伝えた」人が12%存在している。この点から極端にナイキを排斥しようとしている過激的な人たちは存在しているが、少数派であることが理解できるだろう。

 また今回の一連の騒動について、ドナルド・トランプ大統領の対応について理解を示している人が30%だったのに対し、逆にナイキに好感を抱いている人は40%と上回っている。社会全体的に俯瞰すれば、若者を中心にトランプ大統領支持者よりナイキ支持者が多いということのようだ。

 こうした若者層はスポーツ用品を最も消費する層であるとともに、キャパニック氏らのアスリートを最も支持する層でもある。つまりナイキは今回のキャンペーンで批判を受けながらも、同社がターゲットにしている若者層からの支持を着実に獲得することに成功したといえるだろう。

 これは米国の社会構造を反映した結果ともいえる。現在もトランプ大統領とトップアスリートの間で対立構図が続いているが、実は若者層はアスリート支持者が多いのだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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