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NPBにとって野手登板は今なお高い障壁なのだろうか?

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
イチロー選手も2015年に野手登板を果たしている(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【5月22日朝に「野手登板」がトレンドワードに】

 MLB関連の最新情報を入手する上で、現在では米メディアの公式サイトのみならずX(旧Twitter)の公式アカウントも重要なツールになる中、日々Xを使用する時間が増えているが、5月22日の朝もいつものようにXを使っていると、トレンドワードのひとつに「野手登板」が目に留まった。

 ちょっと気になり検索してみたところ、前日のソフトバンク対楽天戦が21対0という大差の試合になり、楽天がMLBのようにリリーフ投手を温存するため試合終盤で野手を登板させなかったことがネット民の間で話題になっていたようだ。

 ちなみに楽天は22日の試合でも12対0で大敗しているが、やはり野手を登板させることはしなかった。

【MLBで登板経験のある野手は実に900人!】

 ネット民を騒がせているように、確かにNPBではMLBのように野手登板が定着していない。最近では巨人の原辰徳前監督が、2020年8月6日の阪神戦で増田大輝選手を、さらに2023年9月2日のDeNA戦で北村拓己選手を登板させているが、なかなか他チームに波及していない。

 逆にMLBでは2022年に野手登板が増えてしまったことから、2023年から野手が登板できるルールを厳格化し、逆に制限しているほどだ。それでも今シーズンもブルワーズのジェイク・バウアー選手、ツインズのウィル・カストロ選手などが投手として起用され、ジャイアンツのユーティリティ役を務めるタイラー・フィッツジェラルド選手に至ってはすでに3試合も登板している。

 MLB関連の記録を専門に扱う「Baseball Reference」によれば、これまでMLB史上登板経験のある野手は900人を数えるという。この中には2015年10月4日のフィリーズ戦で登板を果たしているイチロー選手も含まれている。

【今やNPBでもリリーフ投手起用は重要な戦略要素】

 前述通り原前監督が野手を登板させた際も、NPBでは賛否両論渦巻く論争に発展するほど、野手登板を嫌悪する勢力が相当数存在している。

 確かに降格オプション権を有している若手選手以外、自由に26人ロースターの入れ替えができないMLBとは違い、1軍出場選手の登録及び抹消が自由に行えるNPBでは、野手を登板させる必要性が低いかもしれない。

 だが昨オフにロッテの吉井理人監督の新著「聴く監督」の構成を担当させてもらった際、投手コーチ時代からリリーフ投手の起用法に定評のある同監督は、リリーフ投手の起用状況やコンディションにより試合ごとに起用できる投手と休養させる投手を分けていることを確認することができた。

 吉井監督のリリーフ起用法が示しているとおり、今やNPBでも先発完投型投手がほぼ影を潜める中、すでにMLB同様にリリーフ投手の起用法がチーム戦略上の大きな要素になっているはずだ。

 ならば勝敗が決している大差の試合で、リリーフ投手を温存するというMLB流の考えがNPBでも受け入れられるべきだと考えるのは自分だけなのだろうか。

【MLBでは野手登板はファンを喜ばせる重要なツール】

 中には誤解されている方もおられると思うので念のため説明しておくと、野手登板は大差で負けているチームのみが採用する戦術ではないということだ。例えばドジャースのデーブ・ロバーツ監督などは、大差で勝っている試合で度々野手を登板させリリーフ投手を温存させることで有名になっている。

 つまり今回のソフトバンク対楽天戦においても、楽天だけではなくソフトバンクが野手を登板させても何ら不思議ではない展開だったわけだ。

 また大差がついた展開になれば、負けているチームのファンのみならず、勝っているチームのファンすらも試合への興味が薄れてしまうものだ。MLBにおける野手登板は、勝敗とは別の視点から多少興醒めしたファンの人たちを楽しませてくれる重要なツールになっている。

 以下の動画は今でも有名になっている投手を務めたアンソニー・リゾ選手(現ヤンキース)とフレディ・フリーマン選手(現ドジャース)の対決シーンなのだが、映像を通じて当事者たちも含め皆が対戦を満喫しているのが理解できるはずだ。

 そろそろNPBでも野手登板を受け入れる環境が整ってほしいと願うばかりだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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