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ドジャース移籍が大谷翔平に意識変化をもたらした“繋ぎ役”としての打撃

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
ドジャース移籍後の大谷翔平選手の打撃データにある変化が生じている(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【今季生まれた大谷選手に関する新たな楽しみ】

 今シーズンも相変わらず、日本人選手を中心にMLBをフォローする日々を過ごしているが、ただ大谷翔平選手に関して新たな楽しみが生まれている。

 昨シーズンまでとは比較にならないほどメディア対応が頻繁に行われ、大谷選手が事あるごとに自分の言葉で説明してくれるようになり、これまで想像の域を超えなかった大谷選手の思考について個人的に答え合わせできるようになったためだ。

 メディア対応している最近の大谷選手の様子を見ていても、メディアの前に立つことを忌避しているような様子はまったくない。今更ながら、エンジェルス時代はなぜ極端にメディア対応を制限していたのか謎でしかない。

 実は最近も大谷選手の言葉を聞いて、ドジャース移籍後に見られる大谷選手の意識変化を確認することができたと感じている。

【ドジャース移籍後初のサヨナラ打を放った後の言葉】

 それは、ドジャース移籍後に初のサヨナラ打を放った5月20日のレッズ戦後に、メディア対応した際にサヨナラ打を放った場面について説明した大谷選手の発言内容だ。

 「長打ではなくて単打をしっかり打つスタイルというか、そういうバッティングだったので、いい結果になって良かったです」

 この発言を聞く限り、大谷選手は自分で決めようというよりも、走者がホームに戻ってこられなくてもいいから、出塁することでチャンスを広げようとする意識で打席に立っていたことが窺える。

 この発言を裏づけるように、今シーズンの大谷選手の変化を確認できる打撃データがあるのをご存じだろうか。

【走者の有無別成績で浮かび上がる過去との違い】

 メディアの間でシーズン開幕直後から、今シーズンの大谷選手は得点圏で結果を残せていないという指摘がなされてきた。

 確かに5月20日現在で、打率.240、OPS(出塁率と長打率を足したもの).610と、これまでチャンスに強かった大谷選手の成績としては物足りなさを感じてしまうかもしれない。

 だが少し視点を変えて、走者の有無で条件分けした大谷選手の成績を見てみると、かなり違った景色が見えてくる。

 以下の表を見てほしい。MVPを受賞した2021年と2023年に今シーズンを加えた3シーズンにおける走者の有無別で打撃成績を比較したものだ。あくまで打率だけではあるが、今シーズンはMVP受賞した2シーズンを上回っており、決して打てていないわけではないのが理解できるだろう。

(筆者作成)
(筆者作成)

【同じ2番打者でもエンジェルス時代とは違う】

 それ以上に注目して欲しいことは、2021年と2023年では走者ありの方が打率、出塁率、長打率すべてにおいて走者無しの成績を上回っているのに対し、今シーズンに関しては完全な逆転現象が起こっている点だ。

 中でも長打率に関しては、走者ありの場面ではMVP獲得シーズンから明確に低下しているのが分かる。

 そこで前述の大谷選手の言葉に戻ってみよう。これらのデータから推測できることは、件の発言は単にサヨナラ打を狙える場面を捉えたものではなく、走者を置いた場面で大谷選手が常に意識していることだと考えると、辻褄が合わないだろうか。

 ちなみに大谷選手は、2021年では117試合に、また2023年も71試合で2番打者を務めており、今シーズンと打者としての役割に大きな違いがあったというわけではない。

 それではなぜ今シーズン意識変化が生じているかといえば、エンジェルス時代は走者ありの場面で、大谷選手以外に得点機を生かせる打者が少なかったのに対し、ドジャースでは信頼できる後続打者が何人も揃っているため、繋ぎ役に徹することができるからに他ならないからではないだろうか。

 そうした意識の違いが打撃に影響し、こうしてデータの違いを生んでいるように思う。

【繋ぎ役として2ストライク後の打率も向上】

 繋ぎ役という意味においても、大谷選手の打撃に変化が生じている。

 以前本欄で、今シーズンの大谷選手が空振り率と三振率が大幅に改善されていることを指摘させてもらったが、それに伴い、2ストライクに追い込まれてからの打撃も改善傾向が見られる。

 2ストライクになってからの打率を見てみると、2021年は.138で、2023年が.180と、かなりの低調だったが、今シーズンは.257まで上昇しているのだ。それだけ粘りを見せていることを裏づけているし、より“功打者”へ進化しようとしていると考えていいだろう。

 打者としての進化という面からも、大谷選手のドジャース移籍は大正解だったといわざるを得ないようだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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