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チームへの影響力が薄れ始めた大谷翔平が新人賞を手にする可能性は?

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
故障者リスト(DL)から復帰以降打撃低調が続く大谷翔平選手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 右ヒジのじん帯損傷で長期離脱を余儀なくされた大谷翔平選手が故障者リスト(DL)から復帰以降打撃が低調気味で、一時の勢いを失っているように見える。それはデータからも確認できる。

 7月の月間打率はこれまでで最低の.207に沈み、ここ1週間に限れば.130まで落ち込んでいる。一応今月は3本塁打を記録しているが、出塁率が極端に落ち込んでしまったため、打者の指標であるOPS(出塁率+長打力)が7月は.718となり、強打者レベルの8を割り込んでしまった。それに伴いチームに与える影響力も確実に落ち始めている。

 6月8日にDL入りするまで、大谷選手が指名打者もしくは代打として出場した全34試合のチーム成績は29勝25敗と勝ち越している。これに投手として出場した試合のチーム成績(7勝2敗)を加えると36勝27敗となるが、DL復帰後に大谷選手が出場したチーム成績(7月29日現在)は10勝11敗と負け越しているのだ。

 もう少し明確なデータを紹介しよう。最近のデータとして登場するようになった『WPA』だ。これは『Win Possibility Added Offensive Player』を略したもので、攻撃選手がチームに勝つ可能性をどれだけ与えることができたかを数値化したものだ。プラスになれば勝つ可能性を増やすプレーをし、反対にマイナスになれば勝つ可能性を減らすプレーをしたということになる。

 この『WPA』の側面から大谷選手の出場試合をみると、DL入り前の34試合中23試合で同値がプラスになっているのに対し、DLから復帰後の21試合ではわずか9試合しかプラスになっていない。復帰後の大谷選手は、明らかにチームの勝利に繋がる活躍ができていないことを示している。

 そうなってくると、やはり気になってくるのが新人賞レースだろう。シーズン前半戦にみせた全米を驚嘆させた投打にわたる活躍は、誰もが大谷選手が新人賞の最有力候補であることを疑うことはなかったが、今では強力なライバルが出現しており、あるデータではすでに大谷選手を上回る活躍をみせているのだ。

 本欄でもたびたび登場している『WAR(Wins Above Replacement)』をご記憶だろうか。野手、投手を同じ土俵で選手としての価値を指標するデータで、その選手が出場することで他の選手が出場するよりもどれだけの勝利をもたらすことができるかを示すものだ。すでに『WAR』は各賞レースの参考データとして広く用いられている。ちなみに昨年新人賞を受賞したアーロン・ジャッジ選手(8.1)、コディ・ベリンジャー選手(4.2)もそれぞれ高い数値を記録している。

 そこでア・リーグ新人賞有資格者選手今シーズンここまでの『WAR』をチェックしてみると、現時点では以下の3選手だけが2を超えている。

1位 ルー・トリビノ投手(アスレチックス) 2.3

2位 グレイバー・トーレス選手(ヤンキース) 2.2

3位 大谷翔平選手(エンゼルス) 2.1

 トリビノ投手はリリーフ投手として40試合に登板し、ここまで8勝1敗4セーブ、防御率1.80と抜群の安定感をみせている。またトーレス選手も期待の新人としてわずか21歳で4月下旬にMLB初昇格すると、ここまで67試合に出場し打率.291、15本塁打、43打点と強力ヤンキース打線の一角を形成する存在になっている。しかも両選手が所属するチーム自体も好成績を残しており、チームへの貢献度も加味されることになるだろう。

 これだけを見ると大谷選手も互角の勝負を展開しているように見えるが、実は大谷選手の『WAR』は投手と野手を合算したもので、打者だけでは0.9でしかない。つまりこのまま投手として復帰できないと、『WAR』を伸ばしていくのは簡単ではないということだ。しかも前述通り、打者としての影響力が減退し始めている現状を考えれば、さらに厳しさを増してくるだろう。

 この『WAR』は今後の活躍次第で増えることもあれば、減ることもある。現時点で突出した選手がいないことを考えれば、まだまだ予断を許さない状況であることは間違いない。だが大谷選手が新人賞レースに留まるには、投手復帰もそうだがまずは打撃復活が必要不可欠になってくる。8月以降の巻き返しに期待したい。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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