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大谷翔平にも影響を及ぼしかねないエンゼルスがトレード市場で“売り手”に回った意味

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
大谷翔平選手の女房役を務めていたマーティン・マルドナド選手(中央)(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 7月31日のトレード期限(あくまでウェーバー無しでチームが自由にできるトレード)が迫る中、エンゼルスが現地26日、正捕手であるマーティン・マルドナド選手のアストロズへのトレードを発表した。

 今シーズンのマルドナド選手はトレードされるまで、103試合中77試合で先発捕手とを務め投手陣を牽引した。特に大谷翔平選手とは登板した9試合中8試合でバッテリーを組み、6月6日に右ヒジ内側側副じん帯を損傷した際も、真っ先に大谷選手の異常に気づいた良き理解者でもあった。マルドナド選手を失った影響は決して小さくないだろう。

 今回のトレードは、負傷離脱中の正捕手のブライアン・マキャン選手の穴を埋めたいアストロズの補強策であり、エンゼルスが見返りに獲得したのは今シーズン1Aに所属していた21歳左腕投手と外国人選手契約金プール(大谷選手の際にも契約金として使用されたプール資金)を補充する25万ドルだという。この「主力選手を放出して有望選手を獲得する」という構図は、まさにエンゼルスが今シーズンのトレード市場で“売り手”に回ったことを意味するものだ。

 トレードを報じたMLB公式サイトも冒頭から、「エンゼルスが渋々ながら売り手としての運命を受け入れたように見える」としている。言い換えれば、ア・リーグ西地区で首位アストロズに15ゲーム差つけられ4位に甘んじ、ワイルドカード争いでも10ゲーム差離されている現状を考慮した上で、エンゼルスが今シーズンのプレーオフ進出を諦め、その照準を来シーズン以降に切り替えたということになるのだ。

 これにより俄然注目を集めることになりそうなのが、マイク・ソーシア監督の去就問題だ。本欄でも今年1月の段階で『大谷翔平に託された名将マイク・ソーシアの命運』を公開している通り、シーズン終了後に契約が切れるソーシア監督は、プレーオフ進出を至上命題として今シーズンに臨んでいたといってもいい。しかもこのオフは大谷選手をはじめ大型補強を断行し、高い評価を受けながらシーズン開幕を迎えていた。にもかかわらず、こんな早い時期にプレーオフ進出を諦めざるを得ない状況に陥ってしまったのだから、ファンを含め周囲の失望感は計り知れないだろう。

 さらに2009年1月に10年間の契約延長を結んだ際のソーシア監督は、指揮した9シーズンで5度のプレーオフ進出を果たし、そのうち2002年にはワールドシリーズ制覇も達成したほどの名監督ぶりだったが、契約延長後は2014年に地区シリーズで敗退したのを最後に、たった2度しかプレーオフに進出できていないのだ。やはり現役監督として最長の19年間指揮してきたソーシア政権に赤信号が点滅し始めたと見て間違いない。

 もしソーシア監督が勇退となれば、それに伴い来シーズン以降の大谷選手の起用法も微妙に変わってくることになるだろう。もちろん大谷選手獲得で中心的役割を果たしたビリー・エプラーGMがいる限り、二刀流に前向きな新監督を招聘することになるのは間違いない。しかし登板間隔や指名打者としての起用法など、すべてにおいてソーシア監督を踏襲するとは限らない。

 しかも、だ。実はエプラーGMも来シーズンで契約が切れるのだ。ジェリー・ディポト前GM(現マリナーズGM)を引き継ぎヤンキースから引き抜かれたエプラーGMも、ここまで決して期待通りのチーム運営をできているわけではない。このままチームが低迷を続け、彼も来シーズン限りでチームを去るようなことになれば、大谷選手の二刀流を支えてきた体制が崩れてしまいかねないし、投打の起爆剤になるはずだった大谷選手の二刀流としての起用そのものが見直される可能性も否定できない。

 現時点ではマルドナド選手がアストロズにトレードされたに過ぎないが、それが意味するもの、今後チームにもたらすものは相当に大きいと考えるべきだ。優勝争いとは別の視点で、シーズン後半戦のエンゼルスに注目せざるを得ないようだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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