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15年ぶりに西武に復帰しシーズン後半戦に臨む松井稼頭央が見つめるもの

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
15年ぶりに西武の「7」を背負う松井稼頭央選手(筆者撮影)

 シーズン前半戦を首位で折り返した西武。両リーグ1位のチーム打率を誇る強力打線を武器に、開幕から首位を走り続ける快進撃を続けた。それを象徴するかのように、オールスター戦でも第1戦は森友哉選手、第2戦も源田壮亮選手と西武勢がMVPを独占。10年ぶりのリーグ優勝を見据え、後半戦も好調を維持しそうな勢いだ。

 そんな西武に15年ぶりに復帰したのが松井稼頭央選手だ。打撃陣の好調もありここまで出場機会に恵まれず、シーズン前半戦は14試合に出場し、打率.190、0本塁打、2打点に留まっている。昨シーズンまで主砲として活躍していたエルネスト・メヒア選手でも控えに回ることが多くなっている選手層も厚さを考えれば、後半戦も飛躍的に出場機会が増えることは期待できそうにない状況だ。

 このオフに楽天からコーチ就任を打診されながらも現役続行にこだわり自由契約となり、「テクニカルコーチ」兼任(登録上は3月30日にコーチから外れている)として西武に戻っても、松井選手は今なお現役選手として常にグラウンドに立てる状況を考えながら調整を続けている。そこには何の迷いもなさそうだ。

 「とりあえず身体を動かしておかなければいけない。試合に出ないからといって動かなくなってしまうと、若い時はいいんでしょうけど、年齢が重なってくるとある程度動いておかないと、いざ試合(に出場する機会)が来た時はしんどいですね。いくら練習しても試合の張りには勝てないんですけど、でもやらないともっと張るんで…。そういう意味ではなるべく動けるようにはしとこうと思っています。

 もちろん試合勘とかもあるんですけど、それは別としてもいきなり(試合に出て)ダッシュできるかという話になってくるので、やはり練習で走っておかないと試合でも走れないですし、動けるようにはと思ってやっています。ただやっていることは(昔から)そんなに変わりないですし、ずっと計画はできていると思います」

 松井選手が話してくれたように、試合前は打撃練習後には内野、外野の守備練習をこなし、練習中には主力選手よりも長くグラウンドに留まり、誰よりも精力的に汗を流している。その表情は実に晴れやかで、端から見ていても心の底から野球を楽しんでいるのが伝わってくる。だがその一方で、42歳で現役を続ける肉体的な辛さを味わっているのも隠しようのない事実だ。

 「やっぱりたまに試合に出ると結構ね…(苦笑)。でもそこは自分の身体と相談しながら、無理すると身体の負担も大きくなってくるので、やる時と少し抑える時と、そこは上手いことやっていかないとケガにも繋がるんで。練習したからといってケガしてしまっては意味ないし、そこはバランス的にも難しいんですよね。やらなさ過ぎても大変だし、やり過ぎても負担がくるし、そこは状態とか状況とかを自分の中で見極めるようにしています。常にそれができればベストなんでしょうけど、日々体調も身体も変わるので、1年間やっていく中で体力を維持するという感じですね」

 もう毎試合のようにフル出場できるような選手でないことは松井選手自身も自覚している。だからと言って現役選手として試合に出たいというアスリートの本能はまったく衰えていない。だからこそ日々の練習でも手を抜こうとしないし、まだまだ成長したいという高いモチベーションを維持し続けているのだ。その姿勢は、一時現役から身を引く決断をした際に「研究者でいたい」と話したイチロー選手に似ていないだろうか。

 「身体のこともそうですし、野球の取り組み方、またバッティングにおいても何の研究でもいいんですけど、やっぱり野球人である限りは当然研究したいなと思うし、僕自身の(野球に対する)考え方とかを考えると、まだまだ甘いところがあるし、他の選手の話を聞いたり、そこで僕も勉強になることがあるんで…。『へえ、こういう考え方があるのか。なるほどね』とか感心することがいっぱいあります」

 ちょっと話題が逸れてしまうが、昨シーズンのBリーグで下馬評が低い中で快進撃を続け、チャンピオンシップ(いわゆるプレーオフ)進出を果たした京都ハンナリーズの浜口炎HCはシーズン成功の理由の1つとして、出場機会の少ないながらもモチベーションを落とさずに常に練習に取り組み、ベンチで戦い続けた控え選手の存在があったと話してくれたことがある。

 西武ではその役割を松井選手が担っているのだと考えれば、若手選手にかなりの刺激を与えているのは間違いないだろう。松井選手は現在、兼任のコーチ業をまったくしていない。しかし他の選手から質問されれば、自分の知識、経験を惜しまず伝えているのだという。それここそがまさに、現役を続けている松井選手だからこそできる絶妙なコーチングなのではないだろうか。松井選手がチーム内で果たしている役割は、決して出場試合数だけで推し量ることができないのだ。

 今なお現役へのこだわりが衰えていない松井選手はその先をどこまで見つめているのだろうか。イチロー選手のように「50歳」という大台まで思い描いているのだろうか。

 「50歳?見えないッスよ(笑)。僕なんか日々ですよ。まず今年ある程度やらないと来年もないだろうし、また来年もできるようにと思って今取り組んでいる部分もあります。ただやらせてもらえる環境があるのであれば、やりたいとは思っています。現役って本当に一度しかないので、かと言って、やりたいからと言ってやれるところでもないし、だから先を見据えて自分なりに取り組んでいくこともそうですし、今年は今年でやらなければいけない部分ももちろんありますからね」

 とりあえずシーズン後半戦も現役選手としての松井選手の生き様を感じてみたい。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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