日本球界の根本を揺るがしかねない16歳中卒選手のMLB挑戦

これまで高卒以下で海を渡りMLBに到達したのはマック鈴木投手しかいない(写真:ロイター/アフロ)

 ロイヤルズが今月8日、中卒で16歳の結城海斗投手とマイナー契約を結び、本人も出席し入団会見を開いた。強豪校から誘いを受けるような逸材で、日本人最年少でのMLB挑戦ということで、主要メディアも大きく報じるほど関心を寄せた。

 これまでも少なからずNPBを経ずにMLB挑戦を決めた選手が存在しているが、MLBの舞台に立つことができたのはマック鈴木投手と田澤純一投手の2人だけ。さらに高卒以下となれば鈴木投手のみで、今回の挑戦がどれだけ大変なものなのかは容易に想像できるだろう。だがその一方で、強豪校からの誘いを蹴ってまでもMLB挑戦を決めた結城投手の出現は今後の日本球界の根本を揺るがしかねない出来事であり、プロ、アマ問わず野球関係者は危機感を抱くべきものではないだろうか。

 会見で結城投手は、昨年リトルシニアの全米選手権に日本代表として参加したことで米国野球への憧れが増し、高校野球よりも米国で野球がやりたい気持ちが強くなったと説明している。もしロイヤルズからのオファーがなかったとしても留学することも視野に入れていたようだ。それは誰もが疑うことのなかった「中学を卒業したら強豪に進学して甲子園を目指す」という固定観念が打ち砕かれたことを意味している。

 こうした考え方は結城投手だけが特別だとは思わない。昨今ジュニア期での国際交流がかなり盛んに行われるようになっている。これまでは国際大会に参加するくらいしか交流の場がなかったが、例えば野茂英雄氏は選抜チームを結成し毎年米国遠征を実施しているし、他にもクラブチーム単位で米国遠征を定期的に行い、現地の野球少年たちと積極的に交流している。さらに勝利至上主義の育成法に疑問を抱き、米国流の「野球を楽しませる」指導法を取り入れるクラブチームも徐々に広がりつつあり、それだけ日本球界にも新しい価値観を持つジュニア選手たちが着実に増えているのだ。

 そうした子供たちから高校野球はどう映るのだろうか。強豪校になればなるほど甲子園出場を至上命題とし、徹底的な指導を受け入れなければならない環境は、彼らにとって決して理想的なものではないだろう。しかも彼らは米国の野球を身近に体験しているのだ。結城投手のように、「高校野球<米国の野球」という意識を抱いている子供たちがいてもおかしくはないはずだ。

 そこに結城投手が新たな“選択肢”を示してくれた。実力さえ認めてもらえれば、日本では絶対に不可能な、中学を卒業した年にプロ契約を結ぶことができるのだ。高校野球のような猛烈な指導ではなく、NPB以上の素晴らしい施設でプロのコーチから指導を受けることができることを考えれば、将来的にプロを目指す選手の立場からどちらが魅力的に映るかは一目瞭然だろう。今後も第2、第3の結城投手が出現してもおかしくはないのだ。

 つまりジュニア選手たちの価値観が多様化してきている中、高校野球を含めた日本球界が旧態依然としていていいはずはない。だからいって『田澤ルール』のような付け焼き刃的な選手たちに“足枷”を強いるような策はナンセンスでしかない。ジュニア選手たちが米国の野球に目移りしないような抜本的な構造改革が求められているはずだ。果たして現在の球界関係者の中で、今回の結城投手のMLB挑戦に対し重大な危機意識を抱いている人がどれほど存在しているのだろうか…。

 最後に付け加えておくが、MLB挑戦は決して簡単なことではない。個人的にも中卒からのMLB挑戦が理想的なものだとも思えない。結城投手がどこまで理解しているのか定かではないが、MLBは本当に厳しい世界だ。これまでもプロ未経験の日本人選手がマイナー契約を結び海を渡っていったが、前述通り鈴木投手以外皆途中で姿を消していったし、そのほとんどが2Aすらも届かずに終わっている。中には育成期間にしては短すぎる1、2年で解雇されているケースもあった。決して“憧れ”という安易な気持ちだけで挑戦していい世界ではないのだ。

 ただMLB側からすれば、日本球界のルールに抵触せず有望選手と契約できる新たなルートが確立できたことになる。今後高校野球を目指さないジュニア選手が増えていくようなら、MLBの独壇場になってしまう可能性すらあるだろう。まさに日本球界の覚悟が問われているような気がする。

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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