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米メディアを驚かせたマリナーズがイチローに下した決断

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
成績以上にクラブハウス内での存在感が評価されているイチロー選手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 自分を含め多くのメディアが、22日のレンジャーズ戦前に行われるだろうマリナーズの選手人事に固唾をのんでいたのではないだろうか。イチロー選手が“運命の日”を迎える可能性があったからだ。

 結果はDL(故障者リスト)から復帰したエラスモ・ラミレス投手に代わり、若手有望外野手のギレルモ・ヘレディア選手がマイナーに降格することになり、イチロー選手は無事チームに残り「6番・右翼」で先発出場し、6試合ぶりにマルチ安打を放っている。だが今回マリナーズが下した結論が、米メディアの大方の予想ではなかった。

 シーズン開幕直前に本欄で『やや実戦不足で開幕を迎えるイチローは苦手の4月をどう乗り切るか?』という記事を公開している。スプリングトレーニング中に故障で戦線離脱したベン・ギャメル選手に代わりマリナーズと契約したイチロー選手にとって、ギャメル選手の復帰前までにある程度の成績を残しておかないと、その後の起用や選手生命にまで大きな影響を及ぼすことになるという内容だった。

 その結果は4月18日にギャメル選手が復帰したが、イチロー選手の出場機会は減ったもののチームを離れる必要はなかった。だがその時点でMLB公式サイトが指摘していたのだが、22日にラミレス投手の復帰が予定されている中で、チームはすぐに「外野手5人制」か「リリーフ陣8人制」のいずれかを選択する必要に迫られていた。

 米メディアの考え方は「外野手5人制」の困難さだった。マリナーズの場合、すでに指名打者のネルソン・クルーズ選手のために一枠使っているため、25人枠内に外野手を5人置いていくことは戦略上かなり厳しいことだと思われていた。そうなると5人の外野手の成績や将来性を考慮すれば除外されるのはイチロー選手になる公算が相当に高かった。だから先週末に地元メディアの間でイチロー選手の去就を危惧する報道が増えていたのだ。

 しかしマリナーズが出した答えは、ここまである程度の成績(打率.310、2本塁打、4打点)を残していながらも、主に左先発投手時に出場が限られていたヘレディア選手のマイナー降格だった。外野手に右打者が1人だけ(ミッチ・ハニガー選手のみ)になってしまうという点でも、意外な決断だった。今回の人事についてジェリー・ディポトGMは、以下のように説明している。

 「(今回の決定に対する)反応を見る限り、PR的な面を考慮していれば、我々はたぶん違った方法を選んでいただろう。ただ25人枠を取り扱うのは外見以上に複雑なものだ。人々が、イチローがこの1ヶ月半の間クラブハウスに与えたインパクトをしっかり認識していると思えない。若い選手のみならずベテラン選手たちも皆敬意を持って接している。

 今回の決定はフィール上で見えている部分だけでなくバランスを考慮したものだ。もちろんギレルモの価値も見逃すことはできないし、簡単な決断ではなかった。だが今回の決定は永遠のものではないし、あくまで現時点で最善だと思う決断をしたということだ」

 ここまでのイチロー選手の成績が皆を納得させるほど十分なものではない。だがチームは成績だけでは説明できないチームにもたらすイチロー選手の影響力をより重視したのだ。だがディポトGMが指摘するように、ヘレディア選手のマイナー降格は一時的なものでしかない。当面は左先発投手との対戦がないからとった措置であり、10日以内にMLBに再昇格させる意向も明らかにしている。

 つまり言い方を変えればマリナーズは根本的な問題解決を行わず、今後も「外野手5人制」と向き合いながら選手人事を決めていくということになるのだ。それはイチロー選手が現在のような状態が続けば、常にイチロー選手の去就が注目されるということを意味することになる。現在はチームもいい状態にあり好位置をキープしているが、チームが苦しい状態に陥るようなことになればイチロー選手の影響力も疑われることになるだろう。

 結局イチロー選手の状況は開幕前と何も変わっていない。むしろギャメル選手の復帰で出場機会が減った中で、周囲を納得させるだけの成績を残していくしかないという厳しい状況に置かれている。ただイチロー選手もそうした背景をすべて理解した上でマリナーズに戻ってきているはずだ。後は本人が結果を示していくしかない。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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