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楽天のNBA戦略に垣間見られる“ある日本人選手”の存在

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
10日にNBAと共同記者会見を開いた楽天・三木谷浩史社長(右)(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

 楽天が10日、NBAと共同記者会見を開き、日本国内における包括的ライブ放映・配信に関するパートナーシップ締結を発表した。

 パートナーシップの詳細については日本語版の『NBA公式サイト』で確認できるが、契約は複数年に及び、楽天が日本国内でNBAの独占放映および配信権を得ることになった。

 このパートナーシップ締結を前に、楽天は昨年のNBA王者のウォリアーズともロゴ契約に合意しており、今後はウォリアーズのジャージーの左胸に楽天のロゴがあしらわれることになっている。日本経済新聞などによると、楽天はこの契約に3年総額6000万ドル(約65億円)を出資したと報じている。

 この2つの契約合意からも明らかなように、楽天は今シーズンからNBAにかなり力を注いでいるようだ。これまで日本国内ではJリーグのヴィッセル神戸やプロ野球の東北楽天イーグルスを買収するなどスポーツ産業にも進出してきた実績はあるが、現在日本国内で決して人気コンテンツとは言えないNBAに、どうしてここまで力を入れているのだろうか。

 確かに世界中で人気を博したマイケル・ジョーダン選手の登場で、日本でも1990年代からNBA人気が高まり、NHKでもライブ放映され、日本で公式戦が開催されたこともあった。また昨シーズンのBリーグの成功で、日本国内にバスケット人気が高まりつつあるのも事実だ。だがそれがすぐさまNBA人気再燃に繋がるのかは疑わしいし、まだまだ日本でNBAの関心が高まってきたようには見えない。

 ただ今後日本でのNBA人気を左右するだろう日本人選手が存在するのは確かだろう。昨シーズン米国のバスケット強豪校のゴンザガ大入りした八村塁選手だ。

 昨シーズン1年生だった八村選手はまだ日常会話にも多少の問題を抱えていたこともあり、多くの出場機会を与えられなかったが、チームは全米大学選手権の決勝まで進み、日本人として初めて『ファイナル4』(全米大学選手権ベスト4のチームによって争われる試合の呼称)の舞台を踏むことができた。

 また今年7月に日本代表の一員として参加したU-19ワールドカップでは、主催したFIBAの公式サイトで「今大会注目される5人の有望選手」の1人に選ばれるなど、すでに世界から注目される存在になっている。さらにNBAのドラフト指名を予想している『NBA Draft.net』でも、2018年ドラフトで14位以内に入る逸材だと予測しているほどだ。

 あくまで今シーズンの八村選手の活躍次第ではあるが、周囲の期待通りの活躍をすれば、2年生ながら本人の意志でアーリーエントリーを選択しドラフトに参加することができるのだ。かつて1981年に岡山恭崇選手がウォリアーズから8巡目(240位)でドラフト指名をされたことがあるが、現行のドラフト制度(各チーム2人しか指名できない)では、まだ日本人選手が指名されたことはない。もし八村選手が指名された暁には、日本でかつてないほどのNBA人気が巻き起こるのは必至だろう。

 仮に八村選手が来年ドラフト指名された場合、2018年11月に開幕するシーズンからNBAの舞台に立つ八村選手を目にすることができる。日本の多くのファンが八村選手の晴れ姿を見たいと思うだろうし、そうなれば必然的に誰もが楽天を通して映像を得るしかなくなるわけだ。

 それを踏まえた上での一連の契約締結だとすれば、楽天のマーケティング戦略まさに恐るべしだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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