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侍J新監督に就任した稲葉氏に課せられた「東京五輪金メダル」の違和感

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
現役、コーチとして侍ジャパンの現場を熟知している稲葉篤紀氏ではあるが…(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

 残念ながら就任記者会見に足を運ぶことができず、ネットやTVニュースで確認しただけだが、稲葉新監督の就任期間は2020年の東京五輪までだという。産経新聞によると、選考に当たった井原敦侍ジャパン強化委員長兼NPB事務局長は「東京五輪の金メダルに向かってチームを作り上げる人物」を理由に挙げている。

 もちろん稲葉新監督は選手、コーチとして長年侍ジャパンの現場に携わってきた実績のみならず、多くの人たちから敬意を表される人望も含めて申し分ない人物だと思う。ただ今回新監督就任の目標設定及び就任期間が“東京五輪”で本当にいいのだろうか?

 今更説明する必要もないと思うが、前監督の小久保裕之氏が侍ジャパン監督に就任した際の目標は“WBC王座奪回”(メディアは世界一奪回と報じたが…)だった。もちろん当時はオリンピック種目から野球が外れており、国際大会で優勝を目指せるのはWBCしかなかったという裏事情があったのは確かだ。

 だが現状を考えてほしい。開催前に第4回大会で終了するかもしれないと噂されたWBCは引き続き継続されることが明らかになり、侍ジャパンは第3回大会に続き準決勝で敗れ去った。一方で東京五輪に関しては、MLBのロブ・マンフレッド=コミッショナーがMLB選手の派遣を否定する発言を繰り返しており、過去の五輪と同様にMLB選手無しの大会になるのは事実上確定しているのだ。つまり今回の侍ジャパンの目標設定は前回よりも下回っているし、逃げ腰だと感じないだろうか。

 残念ながら現在もWBCが真の意味で純粋な国際大会だとは思っていないが、しかし各国のトップ選手が集う“唯一” の国別対抗戦であることは疑いようのない事実だ。日本野球の実力を証明する最高の舞台は、今でもWBC王座奪回であるべきだろう。それをMLB選手が出場していない東京五輪金メダルに目標を設定するのは如何なものだろう。

 確かに東京五輪が実現したからこそ野球がオリンピック競技に復活したのは間違いないし、そのためにも是が非でも金メダルを獲得したいという事情は理解できる。だがその一方で、日本の野球ファンは最近のWBCがMLB選手たちが真剣に取り組む大会になり、侍ジャパンが簡単には優勝できなくなったという事実を理解するようになっている。

 そうした状況を踏まえると、たとえ東京五輪で金メダルを獲得したとしても、多くの人たちが侍ジャパンがそのままWBCでも優勝できる実力があるのかどうか懐疑的な見方をしてしまうだろう。もう自分たちの“都合”だけで目標を変えるべきではないはずだ。

 本来なら今回も東京五輪金メダルは“通過点”であり、その先に第5回WBCでの王座奪回が最終目標でなくてはならないはずだ。このままだと日本球界の信頼は回復できないのではないだろうか。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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