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withコロナ時代の終活。「もしも」が他人事でなくなった今、エンディングノートがにわかに注目?

吉川美津子葬儀・お墓・終活コンサルタント/社会福祉士・介護福祉士
コロナ禍でエンディングノートが注目されている?(写真:アフロ)

親子で生死と向き合うエンディングノートのイベントも

8月8日、この日をEN日(エンディングノートの日)として「みんなでエンディングノートを書こう」という取り組みを行っている団体がある。これは、一般社団法人マンダラエンディングノート普及協会と、NPO法人エンディングノート普及協会が合同で行う「エンディングノート普及イベント」で、2017年から毎年開催されているそうだ。今年で4年目を迎えるこのイベントだが、今年はコロナ禍でZoom開催となった。

この日のZoom参加者は女性が多かったのだが、第一部のワークについては参加者の中に子供の姿もあった。「このあとどうしちゃおうノート」いう子供向けエンディングノートのワークショップ参加が目的だ。

「このあと どうしちゃおう」というのは、絵本作家ヨシタケシンスケさんの作品のひとつとして有名である。亡くなったお爺ちゃんのノートがベッド下から出てきて、そこには自分が死んだらどうなりたいのか、どうしてほしいのかをノートいっぱいにイラスト付きで記していた。それを見た「ぼく」は、「このあと どうしちゃおう」ノートをつくろうと、ノートを買いに行く、というストーリーだ。

参加者の子供達は、自分がノートを買う立場になって「このあと」を考えていく。生と死を考えながら、「今一番したいことは何か」を見つけ出していくという講座である。

戦時中ならいざしらず、現代の子供は実生活の中で死を実感しにくい環境にある。そのため参加してみた感想も、「エンディング」「終活」とはかけ離れたコメントが多かったが、それでも親と子が同じ土俵で生死と向き合う時間を共有できる場を持てることに、このワークショップの意味があったように感じた。

知名度は上昇したものの、実際に用意している人は多くない

エンディングノートがユーキャン新語・流行語大賞のトップ60にノミネートされたのが2011年。以来、書店には多くのエンディングノートの類が並ぶようになり、葬儀・墓石関連業者、弁護士・税理士・司法書士・行政書士などの士業等が制作するエンディングノートも巷で無料もしくは格安で配布されるようになった。

またここ5年くらいの間に、自治体や社会福祉協議会などでも、エンディングノートを制作するところが増え、誰もが手に入れやすい環境になったように思う。

このように10年でエンディングノートの活用を促す事業所や団体は増加した。参考までに認知度に関する調査を紹介すると、「終活に関する調査」(調査:2018年「楽天インサイト」)の中でエンディングノートを知っているかどうかを聞いたところ、「知っている」が51.0%、「聞いたことはあるがよく知らない」が30.9%という調査結果が出ている。

この数値が高いとみるか、低いとみるかは意見が分かれるところが、さらに実際にエンディングノートを用意しているかどうかという問いをみてみると、86%が用意していないという結果で、案外書いている人は少ない。正確には、「書ききれている人は少ない」と言った方が良いのかもしれない。「途中まで書いてみたけれど、残りはいつか書こうと思っているうちにどうでも良くなってしまった」「もともと筆不精。書く作業が苦手なのでページを埋めるのが苦痛」といった意見を耳にすることも少なくない。

実感として「書いていない」「用意していない」率はこの数値に近いか、もっと高いのではないかと感じている。

人生会議の具体的ツールとして活用

EN日(エンディングノートの日)主催の一般社団法人マンダラエンディングノート普及協会代表理事の小野寺秀友さんは、「コロナ禍で特に遠方に住む家族とのコミュニケーションが取りにくくなっている。エンディングノートを活用したいと思っている人が増えたように思う」と語る。

たしかにこれまで「自分には関係がない」と思っていた人、「エンディングノートを買ったけど、思うように書けない。実感が持てない」という人でも、「もしも」が他人事ではないと思うようになった。今まで書棚の奥に眠っていたエンディングノートを取り出して書き始めたという人もいる。

さらに小野寺さんはこう続けた。「『人生会議』のしくみづくりとしてエンディングノートを活用する人もいる」

人生会議とはアドバンス・ケア・プランニング(ACP)の愛称で、もしものときのために、医療やケアについて前もって考え、家族や医療・チームと話し合い共有する取り組みのことである。昨年11月30日に「不謹慎だ」と厚生労働省制作のポスターに対して猛反発があったことは記憶に新しい。11月30日を「いい看取りの日」として定め、「人生会議」という愛称をつけたのは2019年だが、認知度はいまひとつのまま一年を過ぎた。そういう意味では、今回のポスター炎上騒動は、認知度UPに貢献したのかもしれない。

例のポスターでは、お笑い芸人の小藪千豊さんが酸素チューブを鼻につけ、「まてまて俺の人生ここで終わり?」と訴える。笑いのネタにされたような作りがバッシングにつながったのだろうが、コロナ禍の今では、ポスターの一語一句がリアルに感じられてならない。

高齢者医療を担う医師らでつくる日本老年医学会では、「新型コロナ感染症罹患時のみならず、事前に本人の価値観や意向を確認するACPの活動を広めていくことが大切」という提言をまとめた。つまり、早めに「人生会議」を、ということである。

前述の小野寺さんが言うように、人生会議をするのにも、具体的にどうしたら良いのか、何を誰と話し合っておいたら良いのか、そしてそれをどのような形で意思表示するのか、と落とし込む先がない。エンディングノートをそのツールとして活用してみてはどうだろうか、と今回のEN日(エンディングノートの日)イベントに参加して感じた。

葬儀・お墓・終活コンサルタント/社会福祉士・介護福祉士

きっかわみつこ。約25年前より死の周辺や人生のエンディング関連の仕事に携わる。葬祭業者、仏壇墓石業者勤務を経て独立。終活&葬儀ビジネス研究所主宰。駿台トラベル&ホテル専門学校葬祭ビジネス学科運営、上智社会福祉専門学校介護福祉科非常勤講師などを歴任。終活・葬儀・お墓のコンサルティングや講演・セミナー等を行いながら、現役で福祉職としても従事。生と死の制度の隙間、業界の狭間を埋めていきたいと模索中。著書は「葬儀業界の動向とカラクリがよ~くわかる本」「お墓の大問題」「死後離婚」など。生き方、逝き方、活き方をテーマに現場目線を大切にした終活・葬儀情報を発信。メディア出演実績500本以上あり

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