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「いい看取りの日」に改めて考える。コロナ禍での看取りから葬送の実情

吉川美津子葬儀・お墓・終活コンサルタント/社会福祉士・介護福祉士
(提供:イメージマート)

人生会議ポスターキャンペーンは打ち上げ花火のようだった

2019年に「人生会議」のポスターが話題になった。これは終末期にどのような医療やケアを受けるか事前に家族や医師と話し合っておくよう啓発する厚生労働省制作のポスターのことだが、それに対して各方面が猛反発。有名タレントが病院のベッドに酸素吸引器をつけて苦痛な表情で横たわり、心電図が止まっていくデザインとなっている。これが「深い悲しみにある遺族への配慮がなされていない」等批判の的となり、自治体へのポスター配送も中止となるという事態が起こった。

11月30日を語呂に合わせて「いい看取りの日」として厚労省が定めたのは2018年のこと。「いい看取り」を実現するために、「人生の最終段階についてあらかじめ自分で考えておきましょう」という概念を広めるために「人生会議」と愛称をつけたのだが、一部の人以外にあまり注目されなかったという経緯もあり、2019年はそれを普及させる目的で少々インパクトのあるポスターを制作したのかもしれない。

ポスター作戦は失敗に終わったが、結果的にこの年のPRは成功したと言えるかもしれない。しかし翌年以降はどうだろうか。終末期にかかわる関係者の間でもあまり耳にすることはなくなった。

今年にいたっては、まったくといっていいほど話題になっていない。

コロナ禍での面会制限で「会えない」まま最期を迎えるケースも

2020年以降、コロナ禍では病院や介護施設では面会制限が続いている。オンラインでの面会しかできなかったり、対面が可能であっても時間を区切って行われているケースが多い。2年以上にわたり、一歩も施設の外に出られないという老人ホームもある。本人の状態をリアルに感じ取ることができないまま看取りの段階になり、「信じられない」と家族が口にするのも無理もない。

看取りの制度は、制度的には医療・介護の連携により整備されつつある。生命の質を向上させる可能性がなく、回復する見込みがないと判断されたとき、そしてこれ以上の治療や人工的栄養補給等を本人が望まない場合は、終末期への移行と捉えられ、看取りの体制に入り看取りの計画を立てていく。しかし、コロナ禍ではこれらの看取りの体制も本人との対話を十分に持てないまま、本人不在で話が進められていくのが実情だ。そもそも人生会議は、本人がどうしたいのか意思表示し、それを実現するために医療や介護等ケアチームや在宅の現場、そして家族などと思いを繰り返し確認共有していくことではなかったのか。

コロナ禍での「会えない」状態での看取りは、厚労省が掲げる「いい看取り」から遠ざかってしまっている。

葬送は看取りの延長線上にある。故人と過ごす時間と空間がポイントに

「家族葬」は20年ほど前に某葬祭業者によって提唱されたキーワードだが、都市部を中心に「家族葬にしたい」という要望は徐々に増え、「この地域ではまだ一般的ではない」という地方でも、コロナ禍では密を避けるために葬儀が縮小化し、家族葬という形での葬儀が広く行われるようになった。

しかし、規模の縮小と簡素化は決してイコールではない。むしろ面会制限等のある病院や介護施設で十分に看取りの時間を共有できない状態であったからこそ、別れのシーンではゆっくり故人と向き合いたいという家族の声を耳にするようになった。故人となってしまったが、せめて火葬までの時間と空間をどのように過ごすか、という過程を大切に思う家族が増えたように思う。

葬儀会館では安置スペースを増やしたり、面会しやすい内装にリフォームするところが増えた。ご遺体の安置に特化した葬儀会館もあり、「遺体ホテル」というネーミングで運営されているところもある。こういった施設の多くは、面会時間の制限が緩やかで、家族が仮眠できるスペースを設けているところも多い。

また、減少していた自宅葬も再び見直されている。病院や介護施設で「会えない」状態が続くなら、最期は自宅で看取られたい、看取りたいと自宅に戻り、亡き後はそのまま安置し自宅で葬儀を行うという流れだ。

コロナ禍での看取りから葬送は、当人との向き合い方を再構築するために考える場となっている。

今年は厚労省によって11月30日が「いい看取りの日」と定められて5年目、「人生会議の日」と名付けられて4年目を迎えるが、掲げたスローガンが上滑りしているように思えてならない。人生会議で大切なのは、何かを決めることではなく対話のプロセスが重要なのに、コロナ禍でそのプロセスが閑却されているのは残念でならない。

葬儀・お墓・終活コンサルタント/社会福祉士・介護福祉士

きっかわみつこ。約25年前より死の周辺や人生のエンディング関連の仕事に携わる。葬祭業者、仏壇墓石業者勤務を経て独立。終活&葬儀ビジネス研究所主宰。駿台トラベル&ホテル専門学校葬祭ビジネス学科運営、上智社会福祉専門学校介護福祉科非常勤講師などを歴任。終活・葬儀・お墓のコンサルティングや講演・セミナー等を行いながら、現役で福祉職としても従事。生と死の制度の隙間、業界の狭間を埋めていきたいと模索中。著書は「葬儀業界の動向とカラクリがよ~くわかる本」「お墓の大問題」「死後離婚」など。生き方、逝き方、活き方をテーマに現場目線を大切にした終活・葬儀情報を発信。メディア出演実績500本以上あり

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