4月の最終日曜日、汗ばむ陽気と時折吹く心地よい風の中で植樹草会が行われた。

ここは千葉県長南町、JR外房線茂原駅から送迎バスで20分ほどの霊園「森の墓苑」。

駅から送迎バスに乗ってきた参加者と車で訪れた参加者が管理棟前に集合し、2班に分かれてまずは自然観察からスタートした。薄紅色に咲いていたヤマザクラは鮮やかな新緑の葉桜へと姿をかえて、ビオトープ池では無数のオタマジャクシが素早い動きで池の中で行き交っている。

木々を組み合わせた「昆虫の家」は、地域に生息するカミキリムシやドロバチなどの虫たちが宿にしているという。

森の墓苑内にある「昆虫の家」  筆者撮影
森の墓苑内にある「昆虫の家」  筆者撮影

苑内を一周した後は、参加者の手で在来種の苗木の植樹、その後は在来種の野草の種や苗を植えるのだが、この日はタチツボスミレが植えられた。

「今までは子供や孫と一緒に車で来ていたのですが、今回はじめて電車で来てみました」

苗木やタチツボスミレの植付けを終え、地元の食材でつくられたお弁当を口にしながらこう語るのは参加者のひとり、東京都江戸川区在住の北本光子さん。光子さんはちょうど1年前にご主人を亡くされ、6月にこの地に納骨されたという。

「近年、樹木葬が話題になっていたのでいろいろ探していたのですが、イメージと違うところがほとんどで。人工的に開発された区画で骨壺を使用して納骨するところが多く、なかなか納得いくところがみつかりませんでした。郊外へ目を向けて探したところ、見つけたのが森の墓苑でした」

参加者が苗木やタチツボスミレの苗等を植える植樹草会   筆者撮影
参加者が苗木やタチツボスミレの苗等を植える植樹草会   筆者撮影

都市部の樹木葬。イメージとのギャップに戸惑う人も

そもそも樹木葬とは、「墓石の代わりに樹木を墓標とする」タイプのお墓のこと。

岩手県にある寺院が1999年に里山保全を目的に経済的裏付けも担保する手段として樹木葬墓地を開発したのがはじまりである。その後、横浜市、東京都と行政主体でも都市型の樹木葬墓地が造成、さらに宗教法人を運営主体とする事業型樹木葬儀墓地も次々と造成、オープンするようになる。

東京都立小平霊園内にある樹林墓地(合葬タイプ)、*現在は定員に達したため新規募集は樹木墓地(個別タイプ)のみ 筆者撮影
東京都立小平霊園内にある樹林墓地(合葬タイプ)、*現在は定員に達したため新規募集は樹木墓地(個別タイプ)のみ 筆者撮影

都市型の樹木葬墓地は、一般墓所の一角を樹木葬エリアとし、そこを石やレンガなどで囲って花壇風にデザインされた外観が多くなっている。一度納骨したらそのまま恒久的に埋蔵されるタイプもあれば、遺骨も骨壺ごと納骨し、使用期間が過ぎたら取り出して別の場所に合葬されるタイプも多い。

「樹木葬にしたい」

最近そんな声をよく耳にする。その理由として「遺骨が自然に還るイメージ」「墓石が不要なので安価なのでは」という理由をあげる人が多い。しかし実際は、都市型の樹木葬墓地は、前述のように骨壺を利用して納骨するケースが多いし、夫婦や家族単位で使用するケースだと割高になることもある。墓石も不要であるというわけではなく、プレート状の墓石を使用するタイプも多い。イメージとのギャップに戸惑う人も少なからずいる。

「承継者不要」も樹木葬人気を後押し

樹木葬墓地の人気を後押ししている理由として、継ぐ人がいなくても購入できるという点もある。一般に「〇〇家の墓」という形の家墓を購入する場合、次世代へ引き継ぐことが前提となるのだが、裏を返せば引き継ぐ人がいなければ購入すらできないというわけだ。

少子化、生涯未婚率の上昇等、家族の形が変化していく中で、お墓も継ぐことを前提としないタイプの墓が求められるようになった。

「永代管理(永代供養・永代墓)」といった名称のシステムをとっているお墓がそのタイプで、寺院や管理者が続く限り、永代にわたって遺骨を供養・管理する仕組みのことをいう。

これは納骨方法や見た目の違いを表す分類方法ではなく、遺骨の供養・管理方法もまちまち。合葬墓や樹木葬墓地、また一部納骨堂も永代管理システムをとっているところが多い。

「森の墓苑」も承継者不要で購入することができる。

「森の墓苑」個別墓の様子。根元付近には墓標として木製のプレートを設置することもできる  筆者撮影  
「森の墓苑」個別墓の様子。根元付近には墓標として木製のプレートを設置することもできる  筆者撮影  

「私は高いところから主人を見張ってようかと」

「はじめて見学に来たとき、広々としたこの景色を見て感動しました。スタッフから生態系の説明を受けたり、生き生きとして育っている草花や昆虫を見て、嬉しくなりました。奇跡的な出会いだと思っています」と前述の北本光子さん。その後契約を済ませ、ご主人の遺骨は1壇目の合葬墓に納められました。

2021年6月に夫の納骨を済ませた北本光子さん。ご自身も森の墓苑を契約している 画像:ご本人提供
2021年6月に夫の納骨を済ませた北本光子さん。ご自身も森の墓苑を契約している 画像:ご本人提供

「何より『土に還る、自然に還る』というコンセプトに惹かれました。納骨の日は、土中に遺骨を納め小学生の孫たちも一生懸命に土をかけていました」

光子さん自身もこの墓地を契約している。しかしご主人と同じ区画ではなく一段上に位置する別の区画を契約されたという。

「主人は毎日帰宅が遅く、不摂生な生活をしていました。無理をして病気になったのでしょうか、私が高い場所から見張ってようと思って」と笑みをうかべます。

「この墓苑は自然を育む場所。死後は土に還って森を育てるお手伝いができる。本当に誇らしく思います」と、植樹草会を終えた後の送迎バスでそう語った。

墓地で自然を取り戻す「森の墓苑」

墓地を運営するのはビオトープの普及や動植物の調査などを行う公益財団法人日本生態系協会。

もともとこの土地は、土砂採掘のため山を切り開いた跡地であったのだが、長年の管理放棄により、現場は荒地同然になっていたという。同協会は、ナショナルトラスト活動の一環として、失われた森を再生する取り組みをはじめた。その事業の核となるのが、墓地事業だった。周囲の森を含めて2013年に約3万6千平方メートルを買い取り、そのうち3千5百平方メートルを墓地区画として利用しながら失われた森を再生することになった。

2014年、荒地同然の土地を整地するところからはじまった。  画像提供:「森の墓苑」
2014年、荒地同然の土地を整地するところからはじまった。  画像提供:「森の墓苑」

2022年、現在の様子。10年後、20年後にはさらに木々が育ち、いずれ自然林になる 画像提供:「森の墓苑」
2022年、現在の様子。10年後、20年後にはさらに木々が育ち、いずれ自然林になる 画像提供:「森の墓苑」

森の墓苑はまず、土砂採掘により荒地となっていた土地を、もともとの環境に戻すところから始まった。外来植物を抜いて在来の野草の種を集めて蒔き、植樹する木も地域に自生している在来種の親木から、種を集めてイチから苗木づくりを始めた。50年をかけて房総丘陵に昔からある自然の森の姿を取り戻す壮大な計画である。

この活動資金にあてられているのが墓地事業となる。国民の福祉と自然の再生という二つの公益事業の目的の実現のために、墓地にまつわる諸々の費用が充てられているというわけだ。また、契約者は亡くなった後も社会貢献ができることになる。

ペットも一緒に入ることができる樹木葬

墓所の区画は4つの個別墓エリアと4つの合葬墓エリアがあり、計1404区画の中から選ぶことができる。火葬後の遺骨は骨壺から取り出して木綿の白布に移し、直径30cm、深さ70cmの穴へ納骨する。個々の区画には小さな木製プレートを置くことも可能で、ペットも一緒に入ることができる。なお、土に還ることを前提としているため、個別墓も合葬墓も一度納めたら分骨や改葬はできない。

墓標近くに花をお供えすることも可。セロファンなどはスタッフが後ほど回収する。     筆者撮影
墓標近くに花をお供えすることも可。セロファンなどはスタッフが後ほど回収する。     筆者撮影

費用は埋蔵管理委託料として、樹木区画で合葬墓は30万5千円から、個別墓は66万2千円から(生前契約の場合は生前管理料(4千円~/年)がかかる)。複数名埋蔵可能な個別墓では、2人目以降同じ区画を使用する場合はプラス10万1千円となる。また、4月からはリーズナブルな合葬墓「野の花」区画15万4千円の販売も開始した。

2016年の開苑から6年、森の墓苑は荒地から生き生きと緑があふれる空間に変貌した。それがいつの日か森になっていくことだろう。50年を経た2067年からは、墓苑全体がひとつの山(自然保護地)として恒久的に管理される予定だという。

「墓地で自然を取り戻す」という発想、既存墓地の開発業者の目にはどのように映るのだろうか。