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Facebook、Instagram「ニュース停止」の衝撃、生成AIで複雑化する攻防とは?

平和博桜美林大学教授 ジャーナリスト
Meta「ニュース停止」の衝撃(Bing Image Creatorで筆者作成)

フェイスブック、インスタグラムの「ニュース停止」の衝撃が広がっている。

プラットフォームにメディアへのニュース使用料支払いを義務付ける「オンラインニュース法」がカナダで成立した、その対抗策としてメタが打ち出したのが同国における「ニュース停止」だ。

「ニュース使用料」をめぐるプラットフォームとメディアの攻防は、法規制という形で、オーストラリアからカナダへと歩を進め、さらに各国へと広がる勢いだ。

だが、両者の緊張関係はそれだけではない。急速に広がる生成AIへの、ニュースコンテンツの使用も焦点だ。すでに協議が始まっているとも報じられる。

「ニュース」をめぐる攻防は、複雑化の一途をたどっている。

●「ルールがないかのような振る舞い」

メタはルールなどないかのように振る舞っている。この国にやってきて、好き勝手ができるという、それはまるで西部開拓時代だ、

カナダ文化遺産相のパブロ・ロドリゲス氏はカナダ放送協会(CBC)の6月23日付の記事の中で、そう述べている。

ロドリゲス氏が指摘する「ルールなどないかのように振る舞い」とは、メタが6月22日、公式ホームぺージでカナダ国内でのニュースコンテンツへのアクセス停止を表明したことを指す。

本日、オンラインニュース法(法案C-18)の施行までに、カナダ国内の全ユーザーを対象に、フェイスブックとインスタグラムでのニュースへのアクセスが終了することを正式に発表します。

メタは、そう述べている。同法はすでに国王裁可を得ており、半年後に施行となる。メタは、ニュース停止の具体的な時期は明らかにしていない。

カナダ政府は、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌の収入が2008年から2020年の間に60億ドル近く減少し、2008年以来国内で474の報道機関が閉鎖されたと発表している。

同法案は、ニュース使用料に関するプラットフォームとメディアの交渉力の格差是正を柱に、2022年4月に提出された。

グーグル、メタとも、法案の審議過程で徹底抗戦の構えを見せてきた。

グーグルは2月、メタは6月1日から、カナダ国内の一部のユーザーに対して、ニュースコンテンツへのアクセス制限を実施している。

これに対して、カナダの首相、ジャスティン・トルドー氏は「いじめ戦術だ」と非難してきた。

メタの「ニュース停止」発表は、その延長線上にある。

法成立後もやまぬ徹底抗戦の背後には、何があるのか?

●オーストラリアの倍近い支払額

一つは業績の悪化だ。

コロナ禍による巣ごもり需要の後退により、IT各社は大規模リストラの渦中にある。メタは2022年秋に1万1,000人以上、2023年3月にも1万人のリストラが明らかになっている。グーグルも1月に1万2,000人のリストラを発表した。

さらに、法律の中身をめぐっても激しい応酬が続いた。

カナダの「オンラインニュース法」は、オーストラリアで2021年2月に成立した「ニュースメディア・デジタルプラットフォーム契約義務化法(ニュースメディア契約法)」をベースにしている。

この時も、当時のフェイスブックは「ニュース停止」を断行したが、採決直前の法案修正と成立を受け、撤回している。

※参照:Google、Facebookの「ニュース使用料戦争」勝ったのは誰か?(02/19/2021 新聞紙学的

オーストラリアの「ニュースメディア契約法」では、「交渉力の不均衡」を背景に利益を上げているデジタルプラットフォームが対象とされている。

具体的にはグーグルと当時のフェイスブックが標的とされ、あらかじめニュースメディアと適正な契約を締結している場合には、法適用から除外される仕組みだ。

グーグル、メタは、法適用回避のため、すでに30を超すメディア・メディアグループと契約を締結している。

同法の制定を手掛けたオーストラリア競争・消費者委員会(ACCC)の元委員長でオーストラリア国立大学教授、ロッド・シムズ氏によると、両社とメディアの契約の年額は2億オーストラリアドル(約192億円)を超す、という。

では、カナダの「オンラインニュース法」ではどうなるか。

ニュース使用料支払いの対象は、大手メディアのほか、2人以上のジャーナリストを雇用しているニュースメディア、キャンパス局やコミュニティ局、先住民族メディアなど、幅広い。

カナダ議会予算局が2022年10月6日付で公表した試算では、メディアとの契約の年額は3億2,920万カナダドル(約359億円)に上る。オーストラリアの倍近い金額だ。

この他にも、法案審議の過程では、カナダの法律はオーストラリアに比べ、プラットフォームが法適用を回避できるための「免責規定が不明確」(グーグル)などの論点が主張されていた。

●メタのメディア離れ

グーグルとメタの、ニュースコンテンツに対する温度差もある。

グーグルは、ニュースコンテンツをネット上から収集した上で、検索結果として表示する仕組みだ。一方で、メタのフェイスブック、インスタグラムでは、コンテンツの投稿はメディアやユーザーが行う。

メタは法案審議の中でも、「ニュースコンテンツへのリンクを収集していない」と、グーグルとの違いを主張してきた

また、メタはメディア離れの姿勢を鮮明に示すようにもなっている。

フェイスブックは2019年10月、総額10億ドルの予算を掲げ、ニュースコーナー「フェイスブックニュース」への掲載料名目でメディアへの支払いを、まず米国から始めた。だが3年後の2022年7月、米国でのその契約打ち切りが明らかになっている。

※参照:Facebookがついにニュースを見限った、その3つの理由とは?(08/01/2022 新聞紙学的

メタは、フェイスブックのニュースコンテンツは全体の3%未満に過ぎないとし、メディアへの対応は「過剰投資」だと言い切る。

●「ニュース使用料法制化ドミノ」

メタ、グーグルがさらに警戒するのが「ニュース使用料法制化ドミノ」だ。

ニュース使用料をめぐる法制化は、オーストラリア、カナダに止まらない。

米国では、連邦議会で超党派による「ジャーナリズム競争・保護法案(JCPA)」の審議が続く。

前回議会(第117連邦議会)会期末の2022年12月、同法案は重要法案の一つとして一括採択される国防授権法案(NDAA)に盛り込む動きもあったが、土壇場で見送り、廃案となった経緯がある。2023年1月からの第118連邦議会で、法案は再提出されている。

このほか、グーグル、メタのお膝元、カリフォルニア州でも「カリフォルニア・ジャーナリズム保護法案(CJPA)」が審議中だ。

6月1日には、州議会下院を通過。メタはここでも、法成立の場合にはニュースコンテンツを停止するとしている

「ニュース使用料ドミノ」は、さらに勢いを増す。

この他にも、英国ブラジルなど、攻防の舞台は次々と広がっている。

●生成AIをめぐる攻防

「ニュース使用料」は、急速に広がる生成AIでも問題化している。生成AIの学習データ、および生成コンテンツとしてのニュースの使用だ。

これまでの「ニュース使用料」をめぐる議論は、検索サービスやソーシャルメディアにおけるニュースの見出し、文章の抜粋(スニペット)、写真、記事へのリンクなどの掲載、すなわち「引用」が焦点となってきた。

だが生成AIにおけるニュースの扱いは、いったん言葉の単位に分解され、改めて文章として再構成される「生成」だ。その学習データとしての使用の実態は明らかにされておらず、「ニュース使用料」をめぐる取り決めもない。議論は始まったばかりだ。

ワシントン・ポストが調査したグーグルが公開している学習データでは、全体の13%がメディアからのデータだった。またデータ元のトップ10のうち、5つがニューヨーク・タイムズやロサンゼルス・タイムズといったメディアサイトであることが明らかになっている。

※参照:チャットAIの「頭脳」をつくるデータの正体がわかった、プライバシーや著作権の行方は?(04/24/2023 新聞紙学的

米国メディアの業界団体「ニュース/メディア連合」は、4月20日に「AI原則」を公開。「コンテンツを使用する権利についてメディアと協議する必要がある」と述べている。

また日本新聞協会も5月17日に見解を公表。ニュースコンテンツの利用実態の透明化が必要だとした。

そんな中でフィナンシャル・タイムズは6月18日付の記事で、オープンAI、グーグル、マイクロソフト、アドビが、生成AI開発のためのニュースコンテンツ使用をめぐって、複数のメディアと交渉を進めている、と報じた。

交渉先メディアとしては、ニューヨーク・タイムズ、ガーディアン、アクセル・シュプリンガーの名前が挙げられている。

「ニュース使用料」をめぐる攻防は、さらに複雑化し、続いていく。

(※2023年6月25日付「新聞紙学的」より加筆・修正のうえ転載)

桜美林大学教授 ジャーナリスト

桜美林大学リベラルアーツ学群教授、ジャーナリスト。早稲田大卒業後、朝日新聞。シリコンバレー駐在、デジタルウオッチャー。2019年4月から現職。2022年から日本ファクトチェックセンター運営委員。2023年5月からJST-RISTEXプログラムアドバイザー。最新刊『チャットGPTvs.人類』(6/20、文春新書)、既刊『悪のAI論 あなたはここまで支配されている』(朝日新書、以下同)『信じてはいけない 民主主義を壊すフェイクニュースの正体』『朝日新聞記者のネット情報活用術』、訳書『あなたがメディア! ソーシャル新時代の情報術』『ブログ 世界を変える個人メディア』(ダン・ギルモア著、朝日新聞出版)

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