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「誤爆」「見逃し」16万件、Facebookの「政治広告」規制で判定ミス

平和博桜美林大学教授 ジャーナリスト
By R. Miller (CC BY 2.0)

フェイスブック(メタ)の「政治広告」規制で、「誤爆」「見逃し」を合わせて16万件の判定ミスがあった――。

米ニューヨーク大学とベルギーのルーヴァン・カトリック大学と共同研究チームは12月9日に発表した調査結果で、そんな指摘をしている。

ソーシャルメディアを舞台とした政治広告のターゲティングは、2016年米大統領選でロシアからのフェイクニュース拡散手段に使われ、対策の必要性が指摘されてきた。

共同研究チームは71カ国、3,000万件を超すフェイスブックの広告を対象に、同社の規約でラベル表示や情報開示が義務付けられている政治広告について、適正な規制が行われているのかを調査した。

その結果、フェイスブックは「政治広告」の判断が問われた計約19万件のうち83%で間違っており、規制には欠陥がある、と研究チームは指摘する。

今回の研究チームとフェイスブックの間には、浅からぬ因縁もあった。研究チームのメンバーは、同社の「透明性」に疑問を投げかける、“研究データ遮断”騒動の当事者でもあった。

そして欧州では、プラットフォームによる自主規制には限界があるとして、11月に政治広告の規制法案が公表され、規制強化の議論が続く。

●「政治広告検知に欠陥」

21万5,030のフェイスブックページ(広告主)による7カ月にわたる政治広告を含む全広告の大規模収集によって、我々はフェイスブックの政治広告規約の執行状況を検証した。(中略)残念ながら、フェイスブックの政治広告検知には欠陥があることが判明した。フェイスブックは、検知よりも多くの見逃しをしており、検知されたうちの半数以上は、誤判定されていた。このため広告主は、長期にわたる規約違反や、政治広告規制そのものを回避することが可能になっている。

米ニューヨーク大学とベルギーのルーヴァン・カトリック大学と共同研究チーム12月9日に公開した調査結果の中で、そう結論づけている。

共同研究チームは、2020年7月から2021年2月までの期間、フェイスブックの広告ライブラリに加えて、独自のデータ収集プログラムによって、71カ国、3,382万8,769件の広告を収集した。この期間には、米大統領選、ブラジル統一地方選(いずれも2020年11月)などが行われた。

フェイスブックは後述のように、政治広告に対しては、「PR」という表記とともに広告費用を負担する団体名を明示するなどの義務を課し、その透明性を担保する取り組みをしている。

調査対象とした広告のうち、政治広告の表示があったのは419万1,361件(全体の12.4%)だった。

これに加えて、一般の広告として掲載後に、フェイスブックが「表示なしの政治広告」と判定し、削除したケースが7万2,678件(全体の0.2%、政治広告の1.7%)あった。

研究チームがその内訳を調べてみると、3万2,487件はフェイスブックの判定通り「表示なしの政治広告」だったのに対し、4万191件は政治広告とは認められない内容で、言わば「誤爆」だった。

これらに加えて、フェイスブックによる「見逃し」、つまり政治広告なのにラベルが非表示のまま掲載されていた事例も11万6,963件に上る、と指摘している。

●スマートニュースも対象に

研究チームは「誤爆」「見逃し」の代表的な事例を、サイト上で紹介している。

サイトにはニュースアプリ「スマートニュース」の「誤爆」事例もある。広告ライブラリの記載によると、同社の広告が掲載されたのは2020年10月2日で、即日非表示になっている。

同社の米国版アプリの広告で、新型コロナウイルスのイラストとともに、テネシー州ジャクソン(マディソン郡)の地元テレビ局WBBJ-TVによる「新型コロナ、マディソン郡で11人の新規感染者:計3,035人に」というニュースの見出しを掲載し、アプリのインストールを呼びかける内容だった。

この広告が、政治広告を示す「社会問題、選挙または政治関連」のカテゴリに分類されている。さらに、政治広告ラベル(免責情報)がなかったことを示す「この広告は免責情報なしで掲載されました」との表記があり、こう説明されている。

この広告は免責情報なしで掲載されましたが、掲載開始後に、この広告は社会問題、選挙または政治に関連するため、該当ラベルが必要であるとFacebookが判断しました。そのため広告は取り下げられました。

同様にニュースアプリ「ニュースブレーク」の2020年10月4日の広告も、即日削除されている。ピーナツバターパイの写真、レシピサイトの見出しとともにアプリのインストールを呼びかける内容だが、やはり「社会問題、選挙または政治関連」に分類され、「この広告は免責情報なしで掲載されました」と説明されている。

このほかに、ラスベガスのフォード車のディーラーの広告、フェイスブックの「マーケットプレイス」機能で木製のゆりかごを出品していたユーザー、なども政治広告の扱いで掲載翌日に削除されている。

政治広告と判定されたものは、掲載終了後も広告ライブラリに7年間保存される。

研究チームのサイトでは、政治広告の「見逃し」事例もまとめられている。ただし、これらは一般広告として扱われているため、掲載終了とともに広告ライブラリからは削除されている。

「見逃し」の事例としては、米大統領選の民主党候補者争いの有力候補の1人だった上院議員、エリザベス・ウォーレン氏の支援グッズ販売の広告や、共和党下院議員のドン・ヤング氏の広告などがある。

これらフェイスブックの判定分(7万2,678件)と「見逃し」分(11万6,963件)の計18万9,641件を、「政治広告」としての判断が問われた事例とすると、「誤爆」「見逃し」を合わせた15万7,154件(82.9%)で誤りがあったことになる、と研究チームは述べている。

また、「誤爆」や「見逃し」の事例の割合は、国ごとに大きく異なるという。

最も「見逃し」の割合が高かったのはマレーシア。政治広告4,451件のうちラベル非表示が2,010件で、「見逃し」の割合は45%。以下、マケドニア(37%)、アルゼンチン(34%)、トルコ、ポルトガル(いずれも29%)、フランス(27%)、セルビア(24%)、インドネシア、マルタ(いずれも23%)、ルクセンブルク、メキシコ、スペイン(いずれも20%)と続く。日本は具体的なデータは示されていないが、グラフから見る限り、「見逃し」の割合は5%程度だ。

一方で最も「見逃し」の割合が低かったのは米国(0.85%)で、政治広告107万6,941件のうちラベル非表示は9,162件だった。そして「誤爆」の割合が55%と最も高かったのも、米国だった。前述の4件の「誤爆」事例もすべて米国での掲載だった。

ウォールストリート・ジャーナルはフェイスブック元社員による内部告発に基づくキャンペーン「フェイスブック・ファイルズ」の中で、有害コンテンツ対策において、米国以外の国々での不十分さについても明らかにしている。

それによるとフェイスブック社は2020年、虚偽または誤解をまねくコンテンツ削除などの対策に320万時間以上を費やしたが、米国外のコンテンツ対策にかけた時間は、このうちのわずか13%だったという。

研究チームは、このようなコンテンツ対策の米国偏重が、政治広告における「誤爆」「見逃し」のデータに表れているのではないか、と見る。

またフェイスブックは、調査期間中の2020年米大統領選(11月3日投開票)前後で、混乱を避けるため、として政治広告の掲載を停止していた。だが選挙後、1,018の広告主が7万1,426件の政治広告をラベル非表示で掲載していた、という。

フェイスブックが政治広告の表示を適切にしていない広告主を特定できなければ、悪意のある人々が偽情報や禁止コンテンツを拡散し、処罰も受けずに組織的不正行為に手を染めることができてしまう。

研究チームはそう述べ、政治団体の広告の監視強化や、規約違反の場合にはフェイスブックページの削除や広告公開禁止などの厳しい措置を取ることを提言している。

調査結果は、2022年8月にあるUSENIX協会のセキュリティシンポジウムで正式発表されるという。

●ロシアの介入きっかけに

フェイスブックによる政治広告の取り扱いに注目が集まったのは、2016年米大統領選へのロシアによる介入問題だった。

ロシアの選挙介入では、フェイスブックで3,500件を超す政治広告が掲載され、推定で1,000万人の目に触れていた。そしてフェイスブックは、議会などからその対策を強く迫られた。

※参照:米社会分断に狙い、ロシア製3,500件のフェイスブック広告からわかること(05/14/2018 新聞紙学的

その圧力の中で2017年9月、CEOのマーク・ザッカーバーグ氏が広告ライブラリの整備や政治広告審査の厳格化を表明。具体的な規制策を打ち出したのは2018年4月で、翌5月から運用を開始した。

だが、すでにこの政治広告規制の運用当初から、ニュースメディアなどへの「誤爆」による削除措置が頻発し、批判が噴出していた。

※参照:フェイスブックの「政治広告」規制がニュースを排除する(06/16/2018 新聞紙学的

政治広告を巡っては、ツイッターCEO(当時)のジャック・ドーシー氏が米大統領選を控えた2019年10月末、世界的に掲載の停止を宣言し、フェイスブックとの立場の違いを際立たせた。

※参照:TwitterとFacebook、政治広告への真逆の対応が民主主義に及ぼす悪影響(11/01/2019 新聞紙学的

2020年の米大統領選が過熱の度を加えるに従って、フェイスブックもトランプ陣営の政治広告の削除に踏み切るなど、徐々に積極的な取り組みを見せ始める。

※参照:フェイスブックが「政治広告」の削除に踏み切った、その事情とは?(06/19/2020 新聞紙学的

そして大統領選の投開票日である11月3日前後には、前述のとおり、政治広告の掲載停止などの措置も講じた。

ただ今回の調査では、それらの対策にも欠陥があることがわかった、と共同研究チームは指摘している。

●研究データの遮断

調査した政治広告の圧倒的多数では、義務付けられた通りに情報開示とラベル表示が行われていた。さらに調査結果によれば、すべての政治広告のうち、課題含みだったのは5%未満だ。この調査報告が全体像を理解しているなら、当社がテレビ、ラジオ、あるいはその他のデジタル広告プラットフォームよりも、政治広告における透明性を提供していることにも言及していたはずだ。

共同研究チームの今回の調査結果について、フェイスブックから社名変更したメタの広報担当は、NPRなどへのコメントで、そう述べている。

「5%未満」とは、研究チームが調査対象とした政治広告全体のうち、フェイスブックの判定が問題となった件数が4.3%に当たることを指しているようだ。

また、「その他のデジタル広告プラットフォーム」としては、グーグルにも政治広告の透明性ページはある。ただ、開示対象は米国、イスラエル、インド、オーストラリア、ニュージーランド、台湾、欧州連合と英国に限定されている。

フェイスブックは2019年6月から広告ライブラリの提供をグローバルに拡大し、政治広告のラベル表示の義務付けには日本も含まれている

ただメタの広報担当が、このような皮肉交じりのコメントをする背景には、同社の「透明性」が問われた、この研究チームとの因縁も影を落としていそうだ。

フェイスブックは2021年8月、同社の政治広告のターゲティングに関する研究のためにデータ収集をしていたローラ・エデルソン氏らニューヨーク大学のチームのアクセスを遮断し、透明性に逆行する対応だとして、大きな批判さらされた

そのニューヨーク大学チームが、今回の共同研究チームのメンバーだ。

ニューヨーク大のチームは、フェイスブックの広告ライブラリのAPIを通じたデータ収集のほか、同意を得たユーザーからもブラウザの拡張機能によってフェイスブックの広告データを集めていた。フェイスブックはこれらが「不正なデータ収集に当たる」として、アクセスを遮断したという。

このアクセス遮断の理由について、フェイスブックは公式ブログで「米連邦取引委員会(FTC)の命令に基づくプライバシープログラムに従って、許可なきデータ収集を止め、ユーザーのプライバシーを保護するためにこれらの措置を取った」と説明していた。

フェイスブックとFTCは2019年7月、同社によるユーザーへのプライバシー侵害を巡り、制裁金50億ドル(約5,700億円)という巨額の和解で合意している。「FTCの命令」とはこの和解の時の、プライバシー保護体制の整備などを求めた命令のことを指していたようだ。

だがこれに対してFTCが反論。ザッカーバーグ氏宛てに、フェイスブックの主張が「不正確」であり同社の振る舞いに「失望した」などとする公開書簡を送付するという経過をたどっていた

今回の共同研究チームの発表は、フェイスブックの「透明性」を巡るこの騒動の第2幕とも言える。メタの声明の持って回った感じは、そんな経緯も影を落としているのかもしれない。

●欧州では政治広告規制へ

共同研究チームがグローバルな状況を調査対象としたように、政治広告への懸念は米国外にも広がっている。規制の旗を掲げるのが欧州だ。

選挙は曖昧で不透明な方法の競争であってはならない。人々は、なぜ広告を見ているのか、広告費用は誰が支払ったのか、いくら、どのマイクロターゲティング基準が使用されたのかを知る必要がある。新たなテクノロジーは、解放のためのツールとして使うべきで、情報操作に使用するべきではない。

欧州委員会副委員長(価値・透明性担当)のベラ・ヨウロバー氏は、11月25日に同委員会が発表した「政治広告の透明性とターゲティングに関する規則案」について、声明でそう指摘した。

この法案は、巨大プラットフォーム規制に照準を当てた「デジタルサービス法案」を補完するものとして、検討が続いてきた。2024年に行われる欧州議会選挙を見すえた法案だ。

法案では、政治広告のラベル表示とスポンサー名の明示に加え、広告経費や資金源、該当する選挙・国民投票などの情報提供を義務付け、民族、宗教、性的指向などの機微データに基づくターゲティングなどを禁じている。また、ターゲティングにおける個人データ利用の違反には、プライバシー保護法制である「一般データ保護規則(GDPR)」に基づく制裁金(最大で2,000万ユーロ[約26億円]か世界の売上高の4%の高い方)が科される、としている。

欧州連合(EU)は米大統領選の混乱を横目に、フェイクニュース対策とプラットフォーム規制の法整備に力を入れてきた。米大統領選翌月の2020年12月には、「欧州民主主義行動計画」「デジタルサービス法案」「デジタル市場法案」と矢継ぎ早に施策を公開。その延長線上に、今回の政治広告への「規制案」は位置付けられている。

※参照:政治広告がフェイクニュースの元凶とSNSに突き付ける(12/05/2020 新聞紙学的

※参照:2021年、GAFAは「大きすぎて」目の敵にされる(12/18/2020 新聞紙学的

特に政治広告規制を巡っては、その照準が向けられているフェイスブック(メタ)はすでに民族、宗教、性的指向などの機微データによるターゲティング設定を2022年1月から削除すると表明。EUの「規則案」には歓迎の姿勢を示す。グーグルも「支持」を表明する。

だが、規制の実効性は細部に宿る。プラットフォームへの「透明性」の要求を巡る攻防は、「規制案」の成立に向けて、なお注視しておく必要はありそうだ。

(※2021年12月13日付「新聞紙学的」より加筆・修正のうえ転載)

桜美林大学教授 ジャーナリスト

桜美林大学リベラルアーツ学群教授、ジャーナリスト。早稲田大卒業後、朝日新聞。シリコンバレー駐在、デジタルウオッチャー。2019年4月から現職。2022年から日本ファクトチェックセンター運営委員。2023年5月からJST-RISTEXプログラムアドバイザー。最新刊『チャットGPTvs.人類』(6/20、文春新書)、既刊『悪のAI論 あなたはここまで支配されている』(朝日新書、以下同)『信じてはいけない 民主主義を壊すフェイクニュースの正体』『朝日新聞記者のネット情報活用術』、訳書『あなたがメディア! ソーシャル新時代の情報術』『ブログ 世界を変える個人メディア』(ダン・ギルモア著、朝日新聞出版)

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