新型コロナウイルス:デマの氾濫は感染拡大を悪化させてしまう

担当者はいずれもマスクで顔を覆っている=10日、中国・昆明の花競売取引センター(写真:ロイター/アフロ)

感染症にまつわるデマの氾濫は、感染拡大そのものを悪化させてしまう可能性がある――。

英国の研究者らが14日に発表した研究結果で、感染症とデマのそんな関係を明らかにしている。

世界保健機関(WHO)は今回の新型コロナウイルス(COVID-19)にまつわるデマの広がりを情報のパンデミック(大流行)を意味する「インフォデミック」と表現する。まさに感染の規模が拡大するとともに、世界規模で陰謀論などを取り込んだデマが拡散を続けている。

※参照:中国コロナウイルスでフェイク拡散:それは“ビル・ゲイツの陰謀”ではない(01/26/2020 新聞紙学的

※参照:漂白剤は新型コロナウイルスの“特効薬”ではない(02/02/2020 新聞紙学的

英国の研究者らは、今回の騒動以前に起きたインフルエンザなどのデータをもとに、感染症とデマの広がりの影響をコンピューターでシミュレーションした。

その結果、感染症に関するデマの氾濫は、そのデマを信じた人が感染拡大につながる危険な行動をとることで、感染状況を悪化させることにつながった、という。

だがその一方で、デマの拡散や共有を制御することで、感染そのものにも抑制効果がみられた、としている。

この研究は仮想的なシミュレーションだが、実際のデマ対策も進む。WHOの担当官は米シリコンバレーを訪れ、GAFAなどの大手IT企業にデマ拡散防止のための協力要請を行っている。

現実のウイルスの拡大とネットのデマの拡散。その両輪の対策が同時並行で進められている。

●感染症とデマの広がり

シミュレーション結果を発表したのは英国立イーストアングリア大学教授で感染症を専門とするポール・ハンター氏ら。

研究によれば、感染症に関するデマの拡散によって適切な対策が取られず、感染そのものの拡大に悪影響を及ぼす、という事例はこれまでにも確認されているという。

その一例が、西アフリカで広がったエボラ出血熱(2013~2016年)。この時には、その原因が空気感染、蚊による媒介感染である、とのデマを信じた人々によって、感染拡大につながる不適切な遺体の埋葬が行われていたという。

また、2018年に発生したコンゴのエボラ出血熱の流行では、公的機関への信頼度の低さによって、公式情報よりもデマが拡散。自己流の対処法が感染防止の妨げとなった、という。

さらに英国の調査では、40%の人々が何らかの陰謀論を信じたことがあるといい、14%の保護者が、子どもが感染症である水ぼうそうにかかっていても、学校に通わせたと回答しているという。

ハンター氏らのシミュレーションでは、ノロウイルス、インフルエンザ、サル痘(monkeypox)の流行に関する過去の調査データを基にしたモデル(エーゼント・ベース・モデル)を使い、コンピューター上で、デマの拡散と抑制が、感染拡大に与える影響を調べた。

マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボの研究チームの2018年の研究によると、ツイッター上では「うそ」がリツイートされる確率は「事実」よりも70%高く、より深く広く早く拡散する、としている。

※参照:なぜフェイクニュースはリアルニュースよりも早く広まるのか(03/11/2018 新聞紙学的

●デマとリテラシー

ハンター氏らは、まず対象としたそれぞれの感染症について、対処法に関する情報がまったく流通していない状態と、正しい情報とデマが半々(50:50)で流れる状態でのシミュレーションを行った。

すると三つの感染症とも、デマを含む情報流通によって、患者一人当たりの2次感染者数(基本再生産数、R0)や発病率などが上昇した。

例えばノロウイルスの場合は、2次感染者数が1.90から2.66に上昇。この数値は感染力を示しており、感染がより拡大傾向を強めることになっている。

ハンター氏らはさらに、デマへの対策を行った場合の、感染への影響もシミュレーションしている。

正しい情報を増やしてその割合を60:40にしたところ、感染の広がりは、情報がまったく流通していない状態と同じレベルに低下した。

さらに正しい情報の割合を増やして90:10にしたところ、患者一人当たりの2次感染者数や発病率が急激に減少。ノロウイルスでは2次感染者数が、感染が沈静化に向かう0.99にまで低下した。

また、情報の受け手がデマを拡散しない、つまりリテラシーの免疫をつけた状態を想定したシミュレーションも実施した。

20%の人がデマを拡散しないという設定では、発病率などは、やはり対処法の情報が流通していない状態と同じレベルに低下。

さらに90%の人がデマを拡散しない、という設定では、ノロウイルスの発病率を見ると、当初設定(情報なし)の78.6%から31.6%へと半分以下になった。

ハンター氏は、シミュレーションの結果について、研究発表のリリースの中でこう述べている。

COVID-19(新型コロナウイルス)についても、ウイルスが発生した場所、感染源、その拡散などをめぐって、多くの憶測、誤情報、フェイクニュースがインターネット上で拡散している。

誤情報とは、間違った対処法が急速に広まることであり、人々がより危険度の高い行動を取ることにつながってしまう。

●デマの感染力

感染症の感染力は、上述の患者一人当たりの2次感染者数(R0)が手がかりとなる。そして、デマの感染力もまた、同じような見方ができるようだ。

ロンドン・スクール・オブ・ハイジーン・アンド・トロピカル・メディスンの准教授で、感染症の数理解析を専門とするアダム・クチャルスキー氏は、デマの拡散を、実際のウイルスと同じように対処すべきだと、英ガーディアンへの寄稿で指摘している。

クチャルスキー氏は、今回の新型コロナウイルスの感染力(R0)は2.0程度だが、フェイスブックで拡散するバイラル(ウイルスのように広がる)コンテンツの感染力も同程度だ、と述べる。

フェイスブックの研究者らによる2018年の研究では、難病「筋萎縮性側索硬化症 (ALS)」支援を目的に著名人らが相次いで氷水をかぶる動画を投稿した「アイスバケツチャレンジ」(2014年)などのバイラルコンテンツの拡散を調査したところ、その感染力、すなわちユーザー一人当たりの平均拡散人数(RO)は1.8だったという。

一方、新型コロナウイルスの感染力についても、当初は1.4~2.5の暫定的な推定値が公表されていた(最新の研究では、2.8~3.9というデータも示されている)。

クチャルスキー氏はこれらを踏まえて、ウイルスの感染拡大防止策をデマの感染拡大防止に当てはめていく。

感染症の場合は、「スーパースプレッダー(強い感染力を持つ患者)」の対策が重要になる。デマの場合も同様に、強い拡散力を持つ個人(インフルエンサー)やメディアへの対処の必要性を挙げる。

さらに感染症の場合は、学校の閉鎖など人が集まり感染の機会を広げる場所への対策が取られる。デマの場合は、これがソーシャルメディアなどのプラットフォームに当たる。

加えて、個々人が正確な情報を受け取れるようにすることも挙げ、こう述べる。

最悪の場合、誤情報は感染拡大を悪化させる行動を引き起こす可能性もある。そして新たなコロナウイルスはさらに大きな課題も突き付ける。バイラル化した憶測は、ただでさえ限られている手持ちの情報を、たやすく圧倒してしまう危険性もあるのだ。

プラットフォーム、インフルエンサーに加えて、一人ひとりのリテラシー。その対策の提言は、ハンター氏らのシミュレーションの結果とも重なる。

●デマ拡散の抑制

WHOも、新型コロナウイルスに関するデマの氾濫を「インフォデミック」と呼び、対策の重要性を強調している。

WHOはすでに、ホームページのほか中国のソーシャルメディア「微博(ウェイボー)」やツイッターフェイスブックインスタグラムリンクトインピンタレストなどのソーシャルメディアを通じて、啓発用の情報発信を行っている。

特にデマ対策として「マイス(迷信)バスターズ」と名付けたプロジェクトを展開。ソーシャルメディア向けに、イラストの入ったカード型の画像つきでデマ情報抑制の取り組みを行っている。

また2月13日には、WHOの担当者が米シリコンバレーのフェイスブック本社を訪問。米IT企業各社に対し、「インフォデミック」対策への協力を要請。この場には、フェイスブックのほかに、グーグル、アマゾン、ツイッター、セールスフォースなどの関係者も出席していた、という。

IT大手各社も取り組みを進めている。

フェイスブックは外部のファクトチェック団体と協力しつつ、新型コロナウイルスに関する誤情報には拡散抑制と正しい情報の表示、有害情報については削除を行うなどの取り組みを表明。

グーグルも災害時などに緊急情報を表示する「SOSアラート」を使い、新型コロナウイルスに関する検索が行われると、WHOによる公式情報などを優先的に表示するようにしている。

また、ツイッターも新型コロナウイルスに関する検索に対し、公式情報などの表示優先度を上げるとしている。

●レイヤーごとの対策

ハンター氏らの研究や、クチャルスキー氏の寄稿が指摘するように、新型コロナウイルスに関する誤った情報の対策には、正確な公式情報の積極的な発信、プラットフォームによる排除などの複合的な取り組みが欠かせない。

だがそれに加えて、受け手のリテラシーも求められている。

情報の共有には、普段よりも慎重さを心がける。それだけでもデマの拡散抑止には効果が期待できるかもしれない。

(※2020年2月15日付「新聞紙学的」より加筆・修正のうえ転載)