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ラブライブ!地元愛まつりで沼津に2万人が集結 ファン主催の聖地「移住」説明会で語られた本音とは

河嶌太郎ジャーナリスト(アニメ聖地巡礼・地方創生・エンタメ)
沼津駅に大きく掲示されている『ラブライブ!サンシャイン!!』の装飾

 『ラブライブ!サンシャイン!!』(以下『サンシャイン!!』)で地域振興に取り組んでいる静岡県沼津市。2016年にテレビアニメが放送されて以来、7年にわたり沼津市や地元企業、地域住民との連携が続いています。

『幻日のヨハネ』のキービジュアル
『幻日のヨハネ』のキービジュアル

 23年7月には市制100周年を迎え、同じタイミングで『サンシャイン!!』のスピンオフ作品である『幻日のヨハネ -SUNSHINE in the MIRROR-』が7月から9月までTV放送されていました。『幻日のヨハネ』では新たな舞台地が増えているほか、実在する店舗のモデルが作中に登場するなど、ますます地域連携を深めています。

コロナ禍乗り越えた沼津地元愛まつり

「沼津地元愛まつり 2023」2日目朗読劇の様子(バンダイナムコフィルムワークス提供)
「沼津地元愛まつり 2023」2日目朗読劇の様子(バンダイナムコフィルムワークス提供)

 作品だけでなく、興行面でも連携が進んでいます。10月7日(土)から9日(月祝)の3日間で、「ラブライブ!サンシャイン!! 沼津地元愛まつり 2023」が開催されました。会場は沼津駅北口にある「キラメッセぬまづ」です。7月には市制100周年記念イベントが開かれた場所でもあり、沼津市を代表するイベントホールです。

「沼津地元愛まつり 2023」のキービジュアル(バンダイナムコフィルムワークス提供)
「沼津地元愛まつり 2023」のキービジュアル(バンダイナムコフィルムワークス提供)

 この沼津地元愛まつりは、今回が2回目となります。イベントの主題歌は一貫して「地元愛(じもあい)」をテーマにした「JIMO-AI Dash!(ジモアイダッシュ)」です。この曲はコロナ禍の20年8月にリリースされました。

 元々は『サンシャイン!!』の主人公達によるスクールアイドルグループ「Aqours(アクア)」の結成5周年を記念し、より地方創生に力を入れようとしたプロジェクト「Aqours 5th Anniversary 地元愛! Take Me Higher Project」の取り組みの一つです。静岡県内でのライブ開催や沼津市内でのイベントも予定されていましたが、新型コロナウイルスの感染拡大により、中止・延期を余儀なくされた背景があります。

1日目のトークイベントの様子。『幻日のヨハネ』に登場する架空文字「マドカナ文字」を解読するコーナーもあった(バンダイナムコフィルムワークス提供)
1日目のトークイベントの様子。『幻日のヨハネ』に登場する架空文字「マドカナ文字」を解読するコーナーもあった(バンダイナムコフィルムワークス提供)

 その後22年8月に沼津地元愛まつりとして、Aqoursの地元沼津でトーク&音楽ライブという形で3日間開催され、今回は『幻日のヨハネ』の朗読劇も加わりました。また、前回は1日目がラジオの公開録音で、2日間がトーク&音楽ライブという形式だったのですが、今回は3日間ともライブが行われました。各日で昼と夜の2公演が行われ、3日間で計6公演実施されました。1公演の参加人数は会場の収容人数からおおむね4000人前後とみられており、全部6公演で2万人以上が世界中から沼津に集まったとみられています。このほか、オンラインでの配信もありました。

2日目のライブパートでは、3人のメンバーがそれぞれセンターを務める衣装を別々に着ており、『サンシャイン!!』でこうした演出は初とされる。披露時は会場がどよめいた(バンダイナムコフィルムワークス提供)
2日目のライブパートでは、3人のメンバーがそれぞれセンターを務める衣装を別々に着ており、『サンシャイン!!』でこうした演出は初とされる。披露時は会場がどよめいた(バンダイナムコフィルムワークス提供)

 Aqoursには9人のメンバーがいるのですが、日ごとに3人ずつ登壇する形をとっており、1日目が高海千歌役の伊波杏樹さん、国木田花丸役の高槻かなこさん、小原鞠莉役の鈴木愛奈さん。2日目が松浦果南役の諏訪ななかさん、黒澤ダイヤ役の小宮有紗さん、渡辺曜役の斉藤朱夏さん。3日目が桜内梨子役の逢田梨香子さん、津島善子・ヨハネ役の小林愛香さん、黒澤ルビィ役の降幡愛さんが出演しました。

3日目のライブパートの様子。写真の楽曲は「JIMO-AI Dash!」(バンダイナムコフィルムワークス提供)
3日目のライブパートの様子。写真の楽曲は「JIMO-AI Dash!」(バンダイナムコフィルムワークス提供)

 全6公演とも、最初に朗読劇、続いてファン参加型のトークイベント、そして最後に音楽ライブという3部形式で行われました。音楽ライブの楽曲は最初が「JIMO-AI Dash!」、最後にAqours8周年を記念して作られた「SORA, FUJI, SUNSHINE!」が共通して披露されました。この「SORA, FUJI, SUNSHINE!」は出だしが童謡「ふじの山」で始まるのが特徴で、各公演とも約4000人の参加者全員で「ふじの山」を合唱する光景が見られました。

 イベントにはAqoursのファンだけでなく、沼津市の頼重秀一市長をはじめとする、多くの地元関係者も参加しました。

地元主体の物産展も同時開催

「沼津地元愛物産展」の様子
「沼津地元愛物産展」の様子

 沼津地元愛まつりでは、併せて「沼津地元愛物産展」も開催されました。会場はライブ会場に隣接する「プラザヴェルデ」で、ここは『サンシャイン!!』の舞台としても何度も登場する場所です。沼津各地から約40の店舗や団体が出展し、ライブに訪れた人に沼津の特産物や取り組み、魅力を知ってもらう場所となっています。出展したお店は土産物や農水産物の販売だけでなく、地元の水族館や写真館、サッカーJリーグのクラブチーム「アスルクラロ沼津」など多岐にわたります。

一部日替わりで、3日間で沼津各地から約40の店舗や団体が出展した。多くの出展者が「沼津まちあるきスタンプ」にも参加している
一部日替わりで、3日間で沼津各地から約40の店舗や団体が出展した。多くの出展者が「沼津まちあるきスタンプ」にも参加している

 出展したお店の多くは、沼津商工会議所が17年5月から常設で展開しているスタンプラリー「沼津まちあるきスタンプ」にも参加する施設となっています。これは原則沼津市内の店舗や施設にAqoursのオリジナルスタンプを設置することで、ファンが周遊するものです。

沼津まちあるきスタンプの設置店舗の一例。スタンプの絵柄にあるメンバーのファンがそのお店に多く集まる
沼津まちあるきスタンプの設置店舗の一例。スタンプの絵柄にあるメンバーのファンがそのお店に多く集まる

 特徴的なのが、参加施設を作品に登場した施設に限定していない点です。これによって、作品に登場していない店舗施設でもファンが訪れるようになりました。沼津まちあるきスタンプが始まった17年5月時点では作品と関わりが深い9ヶ所の店舗や施設で始まりましたが、その後順次増え続け、23年10月時点では120ヶ所に広がっています。この中には店舗の人とファンとの間に新たな交流が生まれ、新たな「聖地」となっているところも多くあります。設置店舗にはそのスタンプに描かれたメンバーのファンが集まる傾向にあり、ファンが沼津を訪れた際に挨拶しに行くといった交流拠点にもなっています。

スタンプ帳は沼津商工会議所公式のものだけで現在7冊展開している。市内各施設で購入できる
スタンプ帳は沼津商工会議所公式のものだけで現在7冊展開している。市内各施設で購入できる

 沼津まちあるきスタンプが始まって6年以上が経ち、沼津に今でも訪れる多くのファンがそれぞれこうした拠点を持っています。そのためライブに訪れた参加者が、物産展でお店に挨拶する様子が多く見られました。沼津地元愛物産展は単なる物販拠点ではなく、全国ないし世界中から訪れたファンとの交流拠点にもなっており、地元愛まつりに欠かせない存在といえるでしょう。

「沼津地元愛物産展」の一角にあった『幻日のヨハネ』の展示コーナー
「沼津地元愛物産展」の一角にあった『幻日のヨハネ』の展示コーナー

 沼津地元愛物産展は「ラブライブ!」公式も協力しており、会場では『サンシャイン!!』や『幻日のヨハネ』に関する展示のほか、「ラブライブ!」ファンによる写真コンテストもありました。

ファン主導の聖地「移住」説明会も

ファン主導では初の聖地「移住」説明会が沼津地元愛まつり2日目の10月8日(日)に開催され、12人の希望者が参加した
ファン主導では初の聖地「移住」説明会が沼津地元愛まつり2日目の10月8日(日)に開催され、12人の希望者が参加した

 沼津地元愛まつり2日目となる10月8日(日)には、市内のさんさんホールで、『サンシャイン!!』で沼津に移住したい希望者に向けた説明会「そうだ沼津(せいち)に住もう」が開かれました。移住者が主体となった沼津のイベントサークル「ムービン・オン」と、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科で「聖地」移住者の研究をする櫻井信秀さんとの共同で主催したものです。櫻井さんは「ファン主導でファン向けにこうした移住説明会が開かれるのは初めてのこと」だといいます。

沼津市からAqours9人のサイン入りポスターも説明会に貸し出され、より公的な行事として位置付けられた
沼津市からAqours9人のサイン入りポスターも説明会に貸し出され、より公的な行事として位置付けられた

 説明会にはファンだけでなく、地域おこし協力隊員や沼津市の移住定住推進室の担当者も参加し、市の移住政策について説明するなど、公的なものとなっています。説明会には12人の移住希望者が参加しました。

移住説明会では沼津市の頼重市長もビデオメッセージで挨拶した
移住説明会では沼津市の頼重市長もビデオメッセージで挨拶した

 沼津市の頼重市長もビデオメッセージで登壇し、移住希望者を前に次のように挨拶しました。

「沼津市は県の移住相談会でも順番待ちになるほど相談を多くいただいています。沼津は市中心部に複合施設もあることから都市的な暮らしができ、車で数十分で海や山に行くこともできます。また、新幹線で東京まで1時間かからないので、沼津に住みながら首都圏に通勤する方やテレワークで働く方も多くいらっしゃいます。市では通常の窓口・電話相談に加えて、オンラインでの相談も受け付けているほか、市内をタクシーで無料案内するツアーも随時受け付けております。皆様の移住をお待ちしております」

 続いては、実際に沼津市に「ラブライブ!」で移住した2人が、自身の体験を交えながら説明しました。一人目が、21年4月に沼津に移住し、ムービン・オンの代表を務めるあっぷるπさんです。

現地住民との交流が移住の決め手に

説明会の主催者の一人で、大学卒業後21年4月に沼津に移住したあっぷるπさん
説明会の主催者の一人で、大学卒業後21年4月に沼津に移住したあっぷるπさん

 あっぷるπさんは、奈良県の大学出身で、大学2年生の学生時代、学業や家庭面、学費や60万円の借金といった経済的な面などから追い詰められ、全財産2万3000円を持って大学の実習室から『サンシャイン!!』舞台の沼津に逃亡した話から始めました。

「全てから逃げ出し、三の浦総合案内所のあたりでたたずんでいました。もしかしたら、(自分の推しである主人公の高海千歌役の)伊波杏樹さんが偶然プライベートで来ていて、三津浜で悩みを聞いてくれて復活という、かすかな期待もありました」(あっぷるπさん)

 当然、伊波杏樹さんには出会えるわけもなく、14キロメートル離れた沼津駅に「歩いて帰ります!」と案内所の地元の方々に話したところ、とある女性の方が駅まで車で乗せていってくれました。

「車内でその方から『ラブライバー(ラブライブ!ファンのこと)さんですよね』と聞かれ、会話をしていたら、車内から(Aqoursの)『WATER BLUE NEW WORLD』が流れてきたんです。それで、この人に相談してみようと思ったんです」(あっぷるπさん)

あっぷるπさんがたたずんでいたという、内浦地区にある三の浦総合案内所
あっぷるπさんがたたずんでいたという、内浦地区にある三の浦総合案内所

 自分が観光客ではないこと。地元から沼津に逃げてきた身の上を話すと、「やりたいことは気にせずやってみればいいんだよ」と声をかけてくれたといいます。あっぷるπさんはこう続けます。

「当時自分は『誰かから認めて欲しい、誰かから受け入れて欲しい』という気持ちだったので、その言葉にズドーンと感銘を受けましたね。気付いたら車内で号泣していました」

 そしてその方の名前を聞いてみたところ、つじ写真館の峯知美さんだったといいます。峯さんは沼津市のあげつち商店街で長年にわたりファンとの交流を続けている方で、市からも表彰されたことがあります。これまでにも多くの移住希望者の相談にも乗っています。

 その後あっぷるπさんは大学に戻り、学費を稼ぎつつ毎月沼津に関西から通うようになります。峯さんや街の住民との交流を深めていくうちに、「峯さんのようなヒーローのいる街に住みたい」と強く考えるようになります。そして、大学卒業後に沼津で働くことを決意します。

つじ写真館で大勢のファンをもてなす峯知美さん。あっぷるπさんの沼津移住のきっかけを作った
つじ写真館で大勢のファンをもてなす峯知美さん。あっぷるπさんの沼津移住のきっかけを作った

 ところが、21年3月に大学卒業予定のあっぷるπさんにとって、ある世界的出来事が襲います。20年春に端を発する新型コロナウイルスの感染拡大です。コロナ禍初年度の、移動の制約が厳しい中での就職活動に見舞われました。

「正直、あの時は就職活動できないのではと思いました。特に会社見学ができなかったのがつらかったです。大学では管理栄養士の資格を取る学科だったのですが自分には適性がなく、別の業界での就職に決めました。そうすると、ただでさえ地縁のない沼津の企業でどう志望動機を作り上げるかという課題にも見舞われました」(あっぷるπさん)

あげつち商店街にある「つじ写真館」。『幻日のヨハネ』では主要な舞台のモデルとして登場した。週末になると大勢のファンが訪れる
あげつち商店街にある「つじ写真館」。『幻日のヨハネ』では主要な舞台のモデルとして登場した。週末になると大勢のファンが訪れる

 あっぷるπさん自身の適性や、求人の少なさからも就職活動に苦戦する中、今一度自分のやりたいことを見つめ直したといいます。

「移住がゴールではなく、移住して夢を叶えることが目標だと考えるようになりました。自分が沼津で何をしたいかを書き出していったら、それに向けてどんな仕事に就くのが良いか、選択肢が広がりました」(あっぷるπさん)

 あっぷるπさん自身は沼津でイベントや会社を興したい夢があり、それに結びつく職種として企画営業職を考えるようになりました。それで富士市にある転職エージェントをやりながら地域貢献のイベントもできる企業に就職を決めたといいます。

あっぷるπさんは沼津に移住してやりたいことを書き出してみたら、自ずと将来設計できたという
あっぷるπさんは沼津に移住してやりたいことを書き出してみたら、自ずと将来設計できたという

 最後にあっぷるπさんは、移住希望者に向けてこう呼びかけました。

「自分の場合は移住した先のことも考える必要がありましたが、移住が目的の移住でもいいと思います。移住に『正規ルート』はありませんが、壁がいっぱいあります。何回壁にぶち当たっても、『あきらめない!』で『動く』ことが大事です。僕も大変でしたが、移住して間違いなく良かったと思っています」

「聖地」が日常になるデメリット

沼津移住5年目のもろへいやさん
沼津移住5年目のもろへいやさん

 続いては、沼津移住5年目のもろへいやさんが発表しました。京都出身で、大学在学中に『サンシャイン!!』にハマり、いくつかの地域で就職活動をする中で沼津に就職が決まり移住してきた形です。もろへいやさんは、「オタ活」という観点から沼津での暮らしについて話しました。

 沼津での暮らしやすさについて、もろへいやさんは「ライブ等イベントへの参加しやすさ」、「ちょうど良い『田舎』度合い」、「『聖地』だったものが『日常』に」の3つを挙げます。

 「ライブ等イベントへの参加しやすさ」では、「ラブライブ!」シリーズの主要なライブ会場になる首都圏の会場から沼津への終電アクセスを挙げ、基本的にはイベント終了後に新幹線で日帰り可能な交通の便の良さを取り上げました。

沼津は東京でのライブイベントなどへも十分日帰り圏内だ
沼津は東京でのライブイベントなどへも十分日帰り圏内だ

 「ちょうど良い『田舎』度合い」としては、駅周辺に住めば、車がなくても十分に生活できる点、駅から徒歩5分圏内でも、家賃5万円台で住めてしまえる安さも挙げています。そして、「『聖地』だったものが『日常』に」では、自分が日常として触れていた光景が、『幻日のヨハネ』であとから舞台になることの喜びを挙げています。

 一方デメリットでは、「正直、大都会ではない」、「既存のコミュニティに飛び込む勇気」、「『聖地』だったものが『日常』に」の3つを挙げています。「『聖地』だったものが『日常』に」では、住むことで舞台地への特別感がなくなる点を挙げます。もろへいやさんは、移住してからは沼津市街地から車で30分以上かかる内浦地区にはあまり行かなくなったといいます。

 もろへいやさんは、「自分は京都市内に住んでいたのですが、1回くらいしか金閣寺に行ったことがありません。住んでしまうとそれと同じようなことも起こります」と説明します。

 5年間沼津に住んでみた感想として、「3年で合わなかったら転職しようと思っていたが、自分でもびっくりするぐらい結構良かった」ともろへいやさんは話します。また、意外と「ラブライブ!」抜きで他県から移住してくる人も多い点も挙げています。ここは、沼津市の移住政策の頑張りもありそうです。

沼津市独自の移住政策

沼津市の移住定住推進室の担当者も登壇し、市の移住政策について語った
沼津市の移住定住推進室の担当者も登壇し、市の移住政策について語った

 沼津市の移住定住推進室の担当者も登壇し、市の移住政策についても説明しました。市では様々な移住・就業支援金の制度があるほか、独自施策として、市の負担で移住希望者にタクシーで市内を案内してくれる取り組みがあります。

 これは、タクシーを2時間ほど貸し切り、観光では回らないようなスーパー、病院、学校などを担当者が紹介するものです。実際に移住するとどういう暮らしになるのかをイメージしやすくさせる狙いがあります。なお、このタクシーは希望があれば『サンシャイン!!』のラッピングタクシーの手配も可能とのことです。

『サンシャイン!!』のラッピングタクシー
『サンシャイン!!』のラッピングタクシー

 ほかにも、「ぬまづ暮らしオススメ隊」という独自の取り組みもしています。これは沼津の個人・団体や事業者の有志による地域サポーターが移住希望者を支援する取り組みで、相談だけでなく住まい支援や就業支援も行います。市内の様々な団体・企業がこの「ぬまづ暮らしオススメ隊」として、移住支援に携わっています。

 また、沼津市では「地域おこし協力隊」の制度を導入しています。通常、地域おこし協力隊は過疎化の著しい自治体に設置されていることが多いのですが、沼津市のように人口約20万人いる都市にあるのは珍しいといえます。この地域おこし協力隊も、移住者の働き口の一つになっています。

聖地「巡礼」から聖地「移住」へ

香貫山から眺める沼津市中心部。『幻日のヨハネ』で新たな主要な舞台にもなった
香貫山から眺める沼津市中心部。『幻日のヨハネ』で新たな主要な舞台にもなった

 沼津市は2019年の人口が37年ぶりに転入超過に転じました。この要因は様々ありますが、一つに『サンシャイン!!』を機に移住した若者も多くいたことが挙げられています。その後コロナ禍もあり再度転出超過となりましたが、コロナ禍も落ち着き、差は縮まってきています。

 コロナ禍によって、テレワークを容認し毎日の出社を義務づけない企業も増えてきました。これにより、現役世代でも地方移住への道が現実的なものとなりつつあります。沼津市も長年『サンシャイン!!』による観光施策に力を入れてきましたが、近年では移住施策にも力を入れ始めています。

沼津仲見世商店街。『幻日のヨハネ』と『サンシャイン!!』の横断幕が奥まで並ぶ
沼津仲見世商店街。『幻日のヨハネ』と『サンシャイン!!』の横断幕が奥まで並ぶ

 「聖地」移住者向け説明会を主催した慶應義塾大学大学院の櫻井信秀さんも、こう話します。

「コロナ禍を経て、国内における移住は大きな変容を迎えたと感じます。また、アニメの『聖地巡礼』をきっかけに移住する人を各地で観測するようになりました。このような動きの中で、移住したファンによる聖地移住イベントを沼津で開催できたことは大きな一歩です。今後は、このようなイベントを日本各地の『聖地』で開催できればいいですね」

 地方創生を考える上では、一時的な人の動きだけでなく、人口動態を変え、いかに定住人口を増やすかがカギとなります。アフターコロナを迎え、こうした動きが他の作品の自治体にも広がっていくことを期待します。

『幻日のヨハネ』のキャラクター等身大パネル
『幻日のヨハネ』のキャラクター等身大パネル

(写真はクレジットがないものは全て筆者撮影)

(c)2017 プロジェクトラブライブ!サンシャイン!!

(c)PROJECT YOHANE

【この記事は、Yahoo!ニュース エキスパート オーサーが企画・執筆し、編集部のサポートを受けて公開されたものです。文責はオーサーにあります】

ジャーナリスト(アニメ聖地巡礼・地方創生・エンタメ)

1984年生まれ。千葉県市川市出身。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了。「聖地巡礼」と呼ばれる、アニメなどメディアコンテンツを用いた地域振興事例の研究に携わる。近年は「withnews」「AERA dot.」「週刊朝日」「ITmedia」「特選街Web」「乗りものニュース」「アニメ!アニメ!」などウェブ・雑誌で執筆。共著に「コンテンツツーリズム研究」(福村出版)など。コンテンツビジネスから地域振興、アニメ・ゲームなどのポップカルチャー、IT、鉄道など幅広いテーマを扱う。

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