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「ラブライブ!」と迎えた市制100周年『幻日のヨハネ』で描かれる過去と未来の沼津の風景

河嶌太郎ジャーナリスト(アニメ聖地巡礼・地方創生・エンタメ)
沼津市制100周年を記念して描き下ろされた『サンシャイン!!』のキービジュアル

 今や地方創生の常套手段にもなっている「聖地巡礼」。その動きの真骨頂ともいえる例が、静岡県沼津市を舞台にしたアニメ『ラブライブ!サンシャイン!!』(以下『サンシャイン!!』)シリーズです。

この日登壇予定だった鈴木愛奈さん演じる小原鞠莉(右)を含めた3人のキャラクターが沼津駅に設置されていた
この日登壇予定だった鈴木愛奈さん演じる小原鞠莉(右)を含めた3人のキャラクターが沼津駅に設置されていた

 アニメが放送された2016年以降、一貫して版元であるサンライズ(現・バンダイナムコフィルムワークス)と沼津市との連携が続いています。シティプロモーションにも積極的に活用されているほか、作中に登場するスクールアイドルグループで、現実の音楽グループとしても活動する「Aqours(アクア)」のメンバーによる沼津の訪問も盛んです。Aqoursが18年のNHK紅白歌合戦に初出場した時には街を挙げた応援が行われました。

「キラメッセぬまづ」で開催された市制100周年記念イベントの告知ポスター
「キラメッセぬまづ」で開催された市制100周年記念イベントの告知ポスター

 沼津に幾度も「聖地巡礼」したファンが、移住してしまう例も珍しくありません。沼津市は19年度の人口が37年ぶりに転入超過に転じました。この要因は様々ありますが、一つに『サンシャイン!!』を機に移住したファンが多くいたこと、作品による市のブランドイメージ向上などが挙げられています。

会場の『ラブライブ!』コーナー
会場の『ラブライブ!』コーナー

 そして23年7月、沼津市は1923年の市制移行から100年を迎えました。

市制100周年行事にAqoursのメンバーが登壇

ステージに登壇したAqoursの逢田梨香子さん(左)と降幡愛さん(右)
ステージに登壇したAqoursの逢田梨香子さん(左)と降幡愛さん(右)

 沼津市の市制100周年を記念して、7月7日(金)から9日(日)にかけて、沼津駅北口のイベントホール「キラメッセぬまづ」で記念イベントが開かれました。8日(土)には『サンシャイン!!』の桜内梨子役の逢田梨香子さんと、黒澤ルビィ役の降幡愛さんがステージに登壇。沼津市の頼重秀一市長とのトークイベントなどが開かれステージには約2000人の観客が集まりました。

「燦々ぬまづ大使」の認証状を受け取る逢田梨香子さん
「燦々ぬまづ大使」の認証状を受け取る逢田梨香子さん

 まずイベントでは、「燦々(さんさん)ぬまづ大使」の認証式が行われました。これは沼津にゆかりのある各界の著名人を対象としたもので、Aqoursが2017年度以降4期連続で就任しています。今期も引き続き就任した形で、メンバーを代表して逢田さんが認証状を受け取りました。

トークイベントの様子
トークイベントの様子

 4期連続での就任となったことに逢田さんは「責任感もすごくあるが、Aqoursも沼津の皆さんの一部になれているのかなという嬉しさが本当に大きいです」と話しました。頼重市長も、「Aqoursは欠くことができない存在。『ラブライブ!サンシャイン!!』と共にある沼津市といっても過言ではない」とその存在の大きさを語りました。

 続くトークイベントでは、沼津市とAqoursの関わりが振り返られたほか、キャスト(声優)の2人が好きな沼津のグルメや風景などが語られました。

 グルメでは逢田さんは「大瀬海水浴場のオーシャンビューフジミで食べたみかんじること洋菓子店『グランマ』さんのメンバーモチーフの誕生日ケーキ」、降幡さんは「『やま弥』さんの鯛丼と沼津餃子」。風景では逢田さんは『サンシャイン!!』の最初のビジュアルに登場した「三津浜」、降幡さんは「戸田にある『出逢い岬』からの海の風景」を挙げました。

「沼津市制100周年記念こども絵画コンテスト」のプレゼンターを務めた逢田梨香子さんと降幡愛さん
「沼津市制100周年記念こども絵画コンテスト」のプレゼンターを務めた逢田梨香子さんと降幡愛さん

 トークイベント後は、「沼津市市制100周年記念こども絵画コンテスト」の表彰式が続けて行われました。これにも2人は出席し、逢田さんは市長賞、降幡さんは教育長賞のプレゼント受け渡し役を務めました。

『幻日のヨハネ』が7月から放送中

会場に設置されていた『幻日のヨハネ』のキービジュアル
会場に設置されていた『幻日のヨハネ』のキービジュアル

 7月からは、『サンシャイン!!』のスピンオフ作品『幻日のヨハネ -SUNSHINE in the MIRROR-』がテレビアニメ放送されています。奇しくも、市制100周年を記念するタイミングでの放送開始となりました。

『幻日のヨハネ』の主人公ヨハネの等身大パネル
『幻日のヨハネ』の主人公ヨハネの等身大パネル

 この作品は『サンシャイン!!』に登場するスクールアイドルグループ「Aqours(アクア)」のメンバーの一人、津島善子を連想させる少女「ヨハネ」を主人公としています。舞台は現実世界に近いSFチックな世界で、沼津も「ヌマヅ」という表記になっています。

主人公のヨハネ。ヌマヅでは占い屋という名のなんでも屋を営む
主人公のヨハネ。ヌマヅでは占い屋という名のなんでも屋を営む

 『サンシャイン!!』では9人のAqoursとしての成長を描いていた部分もありましたが、『幻日のヨハネ』ではタイトルの通りヨハネを明確な主人公にしており、ヨハネの成長が物語の主軸となっています。他のAqoursのメンバー8人は成長を中心に描かない分、最初からどこか大人びたところがあり、『サンシャイン!!』とは少し変わったキャラクター描写がされています。

作中に登場する背景の多くは現実の建物を元にアレンジされている。画像はチカの実家の旅館の十千万(とちまん)旅館
作中に登場する背景の多くは現実の建物を元にアレンジされている。画像はチカの実家の旅館の十千万(とちまん)旅館

十千万旅館の元となった安田屋旅館
十千万旅館の元となった安田屋旅館

 街並みなどは中世ヨーロッパのような感じに建物が多少アレンジされているものの、沼津を訪れたことがある人なら舞台地が連想できるような背景が描かれているため、さらなる「聖地巡礼」の動きも期待できる作品です。

「ヌマヅ駅周辺図」と書かれた地図。現実の沼津市内にほぼ酷似している。1974年に廃止された沼津港線が残っている
「ヌマヅ駅周辺図」と書かれた地図。現実の沼津市内にほぼ酷似している。1974年に廃止された沼津港線が残っている

 沼津とヌマヅの違いとして特徴が大きく2つあります。一つは、駅前に1963年に廃止された路面電車が走っていたり、74年に廃止された沼津港線が残っていたりと、沼津では失われてしまった「過去」を描いている点。もう一つが、沼津では地上を走っている線路が、ヌマヅでは高架化されているなどの「未来」を描いている点があります。東海道線の高架化の構想は約30年間議論され続けてきており、2022年になりやっと事業が具体的に動き出しています。

ヌマヅでは線路が既に高架化されている一方で、1963年に廃止された路面電車が走っている。沼津の未来と過去の風景が共存しているといえる
ヌマヅでは線路が既に高架化されている一方で、1963年に廃止された路面電車が走っている。沼津の未来と過去の風景が共存しているといえる

 ヌマヅには沼津にあった古き良きものや、沼津では実現していないものの2つが入り交じって存在しており、まさにそこに住む人々の夢が体現されているかのような世界といえます。

『幻日のヨハネ』の見どころを語る逢田梨香子さん
『幻日のヨハネ』の見どころを語る逢田梨香子さん

 トークでもこの話題に移り、逢田さんは「『ラブライブ!サンシャイン!!』の世界とは異なるものの、でも懐かしさを感じる不思議な世界観になっている」と見どころを語りました。

作中ではダイヤ(左)がヌマヅ行政局の執務長官として市長のような立ち回りを演じる。行政局の建物は沼津市役所に似ている
作中ではダイヤ(左)がヌマヅ行政局の執務長官として市長のような立ち回りを演じる。行政局の建物は沼津市役所に似ている

 また、2期放送から6年が経ち、TVアニメ3作品目としてヌマヅが舞台の作品がいま放送されている点について、頼重市長も「こんなに嬉しい話は本当にない。市役所も登場しているが、『こんな市役所になったらいいな』という描かれ方をしており楽しみ」と話しました。

企画段階からの地域密着型作品

『幻日のヨハネ』のアニメ化が決定し、市内各所では歓迎ムードに包まれている。写真はゲーマーズ沼津店
『幻日のヨハネ』のアニメ化が決定し、市内各所では歓迎ムードに包まれている。写真はゲーマーズ沼津店

 『幻日のヨハネ』の特徴として、企画段階から舞台地である沼津と連携して製作されている点です。例えば、これまで沼津を「聖地巡礼」に訪れたファンを温かく迎えいれている施設の一つとして、市内のあげつち商店街にある「つじ写真館」があります。これに似た外観の建物が「ツキ寫眞館」としてアニメ1話や5話などにも登場するのですが、ここで象徴的なのが、写真館の前で双子の少女がミニブタを抱えて登場している点です。

「ツキ寫眞館」の外観。沼津市内のあげつち商店街にある「つじ写真館」に外観が酷似している
「ツキ寫眞館」の外観。沼津市内のあげつち商店街にある「つじ写真館」に外観が酷似している

作中の「ツキ寫眞館」のモデルとなったつじ写真館。イベントの日になると大勢のファンが世界中から集まる
作中の「ツキ寫眞館」のモデルとなったつじ写真館。イベントの日になると大勢のファンが世界中から集まる

 実際につじ写真館でもミニブタを飼っており、「さくらちゃん」という名前で地域住民やファンから愛されていました。ミニブタの「さくらちゃん」は2022年4月に亡くなるのですが、言わばヌマヅという世界で蘇った形になります。

「ツキ寫眞館」の双子の少女のナミ(左)とミキ(右)。ナミがミニブタを胸に抱いている
「ツキ寫眞館」の双子の少女のナミ(左)とミキ(右)。ナミがミニブタを胸に抱いている

 こうした制作側の心意気について、つじ写真館の峯知美さんはこう話します。

つじ写真館で飼っていたミニブタのさくらちゃん(つじ写真館提供)
つじ写真館で飼っていたミニブタのさくらちゃん(つじ写真館提供)

「ミニブタのさくらちゃんは人なつっこくて、たくさんの方に愛されてる子だったんですよ。小さい頃はヌマヅの世界のように子供達と一緒に遊んでいる事が多くて、観ていてすごく懐かしい気持ちになりました。私達もすごく嬉しいですが、さくらちゃんが一番嬉しいんじゃないかな。ニコニコしているのが目に浮かびます」

「ツキ寫眞館」の店主のツキ。背景にはつじ写真館にも実在するブタの置き物が描かれている
「ツキ寫眞館」の店主のツキ。背景にはつじ写真館にも実在するブタの置き物が描かれている

 このような地域との交流から生まれたとしか考えられないような演出はほかにもあり、いかに製作サイドが地域密着型でアニメを制作しているかがうかがえます。こうした動きは2019年の劇場版『ラブライブ!サンシャイン!!』でもみられましたが、TVアニメシリーズでこうした作られ方をしている作品は異例といえるでしょう。

移住者主導で「聖地」開拓の動きも

1話や4話に登場した「シゲ地区郵送ギルド」。「POSTAL@しげ」と書かれており、沼津志下郵便局がモデルといわれている。『サンシャイン!!』には登場しない舞台だ
1話や4話に登場した「シゲ地区郵送ギルド」。「POSTAL@しげ」と書かれており、沼津志下郵便局がモデルといわれている。『サンシャイン!!』には登場しない舞台だ

 『幻日のヨハネ』では、『サンシャイン!!』に登場しなかった舞台が多く登場しています。それも基本的に上手く被らないようになっており、新たな「聖地巡礼」スポットを製作側が供給しているようにもみえます。

ファンによる分析から、画像背景のヨハネ占いの館の場所はゲーマーズ沼津店と推測されている
ファンによる分析から、画像背景のヨハネ占いの館の場所はゲーマーズ沼津店と推測されている

 例えば主人公ヨハネの占いの館の場所は、アニメグッズショップのゲーマーズ沼津店ではないかと住所などから推測されています。ほかにも、市の執務長官を務めるダイヤがいる建物が沼津市役所に酷似していたり、動物学者のリコの研究所が沼津市立図書館に似ていたりしています。

一見ただの森のような背景でも明確な舞台モデルが存在する。画像は1話のキネク山(沼津では香貫山)
一見ただの森のような背景でも明確な舞台モデルが存在する。画像は1話のキネク山(沼津では香貫山)

 また、一見ただの森の中のように見える場所でも、香貫山(作中では「キネク山」)や、千本浜公園など、実在する場所がモデルになっています。いずれも、『サンシャイン!!』には登場しなかった舞台といえます。

3話に登場した林も、1本1本の樹木が松の木として明確に描かれており、千本松原がある千本浜公園を彷彿させる
3話に登場した林も、1本1本の樹木が松の木として明確に描かれており、千本松原がある千本浜公園を彷彿させる

 これまでもこうした舞台は「聖地巡礼」に訪れたファンが特定することが多かったのですが、「聖地巡礼」をしているうちに移住してしまう人もいます。市制100周年イベントのステージでも、キャストが「移住した皆さん」と挙手を求める場面があったのですが、この時会場からは40人以上の手が上がりました。

作中の文字はひらがなやアルファベットなどが異世界的な文字になっており、ファンによる解読作業が進められている。画像の場所は内浦地区にある三の浦総合案内所前の富士見広場に似た場所
作中の文字はひらがなやアルファベットなどが異世界的な文字になっており、ファンによる解読作業が進められている。画像の場所は内浦地区にある三の浦総合案内所前の富士見広場に似た場所

 そして『幻日のヨハネ』が沼津に移住者が定着した段階の作品だからこそ、新たな動きが起ころうとしています。それは、移住者を中心にファンが舞台をいち早く特定し、さらなる「聖地巡礼」につなげようとする取り組みです。

内浦の三の浦総合案内所で飼っていたうさぎの花太郎(右下)。今年4月に亡くなったが、4話で「花太郎」の名前付きで登場した
内浦の三の浦総合案内所で飼っていたうさぎの花太郎(右下)。今年4月に亡くなったが、4話で「花太郎」の名前付きで登場した

 慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科で「聖地」移住者の研究をし、自身も移住者を中心とした「聖地考察会」をオンラインで開く櫻井信秀さんは、この動きについてこう解説します。

4話では内浦にある富士見広場に似た場所で、ブランコを修復する話が描かれている。作中と同じブランコが富士見広場にも実在する
4話では内浦にある富士見広場に似た場所で、ブランコを修復する話が描かれている。作中と同じブランコが富士見広場にも実在する

「移住者が中心になっていち早く舞台を考察し、さらなる『聖地巡礼』の動きを誘引することで好循環が起きていると思います。移住者にとっては“地元”沼津に貢献できる格好の機会ですし、その情報をもとに舞台探訪者が増え、移住希望者も増える。そんなサイクルがいま生まれようとしています」

5話では仲見世商店街に似た商店街が舞台の一つとして登場した
5話では仲見世商店街に似た商店街が舞台の一つとして登場した

 実際に沼津に移住したあっぷるπさんもこう話します。

6話では「ももや」と書かれたパン屋が登場した。沼津銀座通り商店街にも「桃屋」が実在する。どちらもカツサンドなどで知られる名店だ
6話では「ももや」と書かれたパン屋が登場した。沼津銀座通り商店街にも「桃屋」が実在する。どちらもカツサンドなどで知られる名店だ

「移住して普段何気なく目にしたり日常生活で利用したりする場所が登場することに不思議な感覚を覚えました。新たな『聖地』をいち早く発見するだけでなく、その魅力をSNSなど通じ世界へ発信することで、移住者として沼津に貢献していけたらなと思います」

7話では沼津御用邸を思わせる施設が主な舞台となった
7話では沼津御用邸を思わせる施設が主な舞台となった

 このように、『サンシャイン!!』がきっかけで沼津に移住した人にとって、『幻日のヨハネ』というさらなる沼津を舞台にしたアニメが放送されていることで、移住者が活躍できるきっかけづくりにもつながっていると考えられます。

Aqoursがみる「聖地」沼津

Aqoursの逢田梨香子さん(右)と降幡愛さん(左)
Aqoursの逢田梨香子さん(右)と降幡愛さん(左)

 アニメによって沼津という地域が盛り上がりをみせていることについて、筆者の取材に対し、Aqoursの降幡愛さんはこう話します。

降幡愛さん演じるルビィ
降幡愛さん演じるルビィ

「沼津に住んでいる皆さんが温かく迎えて下さっているのが大きいと思いますね。キャラクターの看板やタペストリー、のぼりなど、すごく作品を愛して下さっているのが伝わります。それが来て下さる方たちも伝わって、すごくコミュニケーションがとれている場だと思いますね」

逢田梨香子さん演じる、動物学者のリコ(右)
逢田梨香子さん演じる、動物学者のリコ(右)

 逢田梨香子さんも、沼津への想いをこう語ります。

「私たち『ラブライブ!サンシャイン!!』やAqoursにとって沼津は欠かせない存在。本当に『もう一つの故郷』といえるぐらい本当に大切な場所なので、沼津に来ると必ずAqoursのことを感じられて、Aqoursが住んでる街だって感じます。私たちも実際にプライベートで来て感じるので、ファンの皆さんにもすごく届いているのかなと思います」

今や地方創生に声優の存在は欠かせないものとなりつつある
今や地方創生に声優の存在は欠かせないものとなりつつある

 そして舞台となった地域を盛り上げていく上でも、声を演じるキャストの存在も今や大きくなっています。ほんの10年ほど前までは、声優という仕事が地方創生にここまで欠かせない存在になるとは、多くの人が思わなかったといえます。これについて降幡さんはこう振り返ります。

「こうなるなんてデビュー当初は本当に夢にも思っていませんでした。プライベートでも沼津には訪れるのですが、自分が行った先の写真をSNSにアップすると、ファンの方も同じところに訪れて同じポーズをとったりして下さったりして、嬉しいですね。コロナ禍でなかなか行けなかったタイミングでもあったので、今年や来年はより沼津に足を運んでみたいなと思っています」

アニメはアフターコロナの観光起爆剤となるか

23年6月18日には急行「ラブライブ!サンシャイン!!」号が運行された
23年6月18日には急行「ラブライブ!サンシャイン!!」号が運行された

 アニメの舞台を訪れる「聖地巡礼」は、海外からのアニメファンにも高く注目されており、政府としても国の観光政策の一つとして打ち出しています。そしてコロナ禍の直前までインバウンドの観光客数も増え続けており、アニメの「聖地」は重要な観光資源でもあり続けました。

急行「ラブライブ!サンシャイン!!」号の終着駅となった沼津駅には大勢のファンが集まった
急行「ラブライブ!サンシャイン!!」号の終着駅となった沼津駅には大勢のファンが集まった

 それが3年にわたるコロナ禍により、長らく停滞してしまっていましたが、今年に入って以降国内の観光も、海外からの観光客も復活しつつあります。まさに、これからが正念場といえるでしょう。

アニメとのコラボをほとんどしてこなかったJR東海も、コロナ禍以降積極的に推し進めている
アニメとのコラボをほとんどしてこなかったJR東海も、コロナ禍以降積極的に推し進めている

 コロナ禍によって需要が減り、これまでアニメを用いた観光のキャンペーンにあまり積極的でなかった企業でも打ち出すようになりました。その代表的な例がJR東海です。JR東海はコロナ禍でビジネス利用が減ったことなどから、近年はアニメコンテンツとのコラボを積極的に推し進めています。

コロナ禍でますます観光資源におけるアニメの比重が高まりつつある
コロナ禍でますます観光資源におけるアニメの比重が高まりつつある

 沼津もその例外ではなく、JR東海は「推し旅キャンペーン」と題して、『サンシャイン!!』とのコラボイベントを8月末まで実施しています。コロナ禍で長い間沼津を訪れられてなかった人には良い機会となるでしょう。

 降幡さんも、「コロナが明けて『幻日のヨハネ』という作品も始まって、Aqoursとしても作品も沼津も、もっともっと盛り上げていきたい!」と意気込みます。逢田さんも、「ヨハネちゃんの今後の成長に一番注目してもらいたい作品なので、是非見ていただきたい」と作品の見どころを話します。

タイトルの通り、主人公ヨハネの成長が『幻日のヨハネ』の見どころだ
タイトルの通り、主人公ヨハネの成長が『幻日のヨハネ』の見どころだ

 7月23日(日)には、『幻日のヨハネ』の1話から3話の振り返り上映会が東京の新宿ピカデリーと、沼津のシネマサンシャイン沼津で開かれました。全4回の上映会の全てにAqoursのメンバーによる舞台挨拶もあり、4回とも主人公のヨハネ役の小林愛香さん、ハナマル役の高槻かなこさん、チカ役の伊波杏樹さんが登壇しました。

7月23日に新宿で開かれた舞台挨拶。左からハナマル役の高槻かなこさん、ヨハネ役の小林愛香さん、チカ役の伊波杏樹さん
7月23日に新宿で開かれた舞台挨拶。左からハナマル役の高槻かなこさん、ヨハネ役の小林愛香さん、チカ役の伊波杏樹さん

 通常、こうした舞台挨拶は東京だけで開かれることが珍しくないのですが、この日3人のメンバーは午前中新宿で2回舞台挨拶をし、午後は沼津で2回舞台挨拶をするという行程となりました。いかに、キャストや製作スタッフが沼津を大切にしているかがうかがえます。また、沼津で上映会をしても大勢のファンや、移住者をはじめとする地元住民が集まる関係性ができており、『幻日のヨハネ』がいかに地域からも愛されている作品であるかがわかります。

舞台挨拶で作品の魅力を語る高槻かなこさん(左)と小林愛香さん(右)(バンダイナムコフィルムワークス提供)
舞台挨拶で作品の魅力を語る高槻かなこさん(左)と小林愛香さん(右)(バンダイナムコフィルムワークス提供)

 舞台挨拶で小林さんは「『幻日のヨハネ』は始まったばかり。皆さんに是非見ていただきたいし、いろんな人に知ってもらいたい」と話します。舞台挨拶つきの振り返り上映会は、4話から7話が8月27日(日)にも予定されています。今回同様新宿ピカデリーとシネマサンシャイン沼津で開かれ、ヨハネ役の小林愛香さん、カナン役の諏訪ななかさん、マリ役の鈴木愛奈さんが登壇する予定です。8話以降の上映会も予定しています。

市制100周年記念パレードでのAqoursの小宮有紗さん(左)、高槻かなこさん(左奥)。助手席で奥側を向いているのが斉藤朱夏さん
市制100周年記念パレードでのAqoursの小宮有紗さん(左)、高槻かなこさん(左奥)。助手席で奥側を向いているのが斉藤朱夏さん

 7月29日(土)には沼津市中心部で開かれた第76回沼津夏まつり・狩野川花火大会にAqoursの小宮有紗さん、斉藤朱夏さん、高槻かなこさんの3人が訪れ、市制100周年記念パレードにも参列しました。

『幻日のヨハネ』のキービジュアル。背景の橋は御成橋がモデルとされる
『幻日のヨハネ』のキービジュアル。背景の橋は御成橋がモデルとされる

 『幻日のヨハネ』はTOKYO MX、BS11、静岡放送などで放送中。1週間先行の形でABEMAでも配信されています。

市内中心部を流れる狩野川に架かる御成橋。沼津市を象徴する橋ともいわれる
市内中心部を流れる狩野川に架かる御成橋。沼津市を象徴する橋ともいわれる

 コロナ禍がようやく終わり、地域も製作側や声優、そして企業も皆アニメを活用して地域を盛り上げようとしています。今後どこまでアニメで地域がさらに盛り上がっていくのか注目といえそうです。

(写真はクレジットがないものは全て筆者)

(画像は全てバンダイナムコフィルムワークス提供)

(c)PROJECT YOHANE

ジャーナリスト(アニメ聖地巡礼・地方創生・エンタメ)

1984年生まれ。千葉県市川市出身。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了。「聖地巡礼」と呼ばれる、アニメなどメディアコンテンツを用いた地域振興事例の研究に携わる。近年は「withnews」「AERA dot.」「週刊朝日」「ITmedia」「特選街Web」「乗りものニュース」「アニメ!アニメ!」などウェブ・雑誌で執筆。共著に「コンテンツツーリズム研究」(福村出版)など。コンテンツビジネスから地域振興、アニメ・ゲームなどのポップカルチャー、IT、鉄道など幅広いテーマを扱う。

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