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設営から撤収まで参加者が行うコミケ文化 4年ぶり“平常開催”で復帰に期待

河嶌太郎ジャーナリスト(アニメ聖地巡礼・地方創生・エンタメ)
コミケは設営から撤収まで参加者が作り上げるイベントだ

 世界最大の同人誌即売会・コミックマーケット(コミケ)102が、8月12日(土)と13日(日)に東京都江東区の東京ビッグサイトで開催されます。1日あたり1万500サークル、2日間でのべ2万1000サークルが出展し、これ以外にもエンタメ業界を中心とした136の企業や団体も企業ブースに出展します。5月にコロナが5類に移行したことで、来場者数も大幅に緩和しており、1日あたり10数万人の来場者数を見込んでいます。

C101の南展示棟の企業ブースの様子(鵜久森裕撮影)
C101の南展示棟の企業ブースの様子(鵜久森裕撮影)

 コミケは会場となる東京ビッグサイトの東展示棟、西展示棟、南展示棟、会議棟の全てを貸し切る数少ないイベントです。そしてこのうち、企業ブースを除くサークルスペースの設営は、コミケを運営するコミックマーケット準備会(以下、準備会)のボランティアスタッフと、有志による設営参加者で成り立っています。

設営の流れ

C101設営当日の東京ビッグサイト
C101設営当日の東京ビッグサイト

 コミケの設営は、毎回開催初日の前日の昼間に実施されます。大きく、机の設置場所を決める「測量」と、実際に机や椅子を並べる「設営」の2つのパートに分かれており、「測量」の集合時間は午前9時、「設営」の集合は11時半となっています。

「測量」は朝日が差し込む中集合する
「測量」は朝日が差し込む中集合する

 設営の参加にあたっては事前に登録するものはなく、当日集合時間に会議棟2階のエントランスホールに集合します。「測量」と「設営」の両方合わせて毎回1000人の参加者が集まるといいます。設営参加者の多くは、サークル出展している言わばコミケの中心となっている人たちです。参加者とスタッフが直接交流できる数少ない機会にもなっています。

東4,5,6のように「測量」開始前にラジオ体操をする班もある
東4,5,6のように「測量」開始前にラジオ体操をする班もある

 「測量」、「設営」ともに、集合が終わり、「棟梁」と呼ばれる準備会設営部のトップによる挨拶が終わると、大きく東展示棟と西展示棟などに分かれます。各コミケのホール体制によって変わりますが、そこからさらに東1,2,3ホール、東4,5,6ホール、西1,2ホール、西3,4ホールなどといったように分かれます。班によってそれぞれ受け継がれている“伝統”があるようで、朝早くから始まる「測量」開始前にラジオ体操をするところもあります。

少数精鋭の「測量」

何もないホールを一望できるのが、「測量」に参加する醍醐味といえる。写真は東1,2,3ホール
何もないホールを一望できるのが、「測量」に参加する醍醐味といえる。写真は東1,2,3ホール

 「測量」では、まずまっさらで何もないホールを見ることができます。これが「測量」に参加する醍醐味ともいえるでしょう。そして最初の作業が、測量……ではなくゴミ拾いです。展示棟は様々な企業や団体が使用する公共空間なのですが、外から吹き込んできた落ち葉や、配線の切れ端やネジなど、意外と様々なものが落ちています。

「測量」の朝はゴミ拾いから始まる
「測量」の朝はゴミ拾いから始まる

ゴミ拾いの傍ら、ベテランスタッフが「定点」と呼ばれる基準点に印をつけるところから「測量」が始まる
ゴミ拾いの傍ら、ベテランスタッフが「定点」と呼ばれる基準点に印をつけるところから「測量」が始まる

 主に参加者がゴミ拾いをしている脇で、「測量」の大事な動きとして「定点」と呼ばれる基準点をベテランスタッフがテープで印を付けます。これは座標(0,0)の原点になる場所です。そしてここから巻き尺を使い、一定間隔ごとに机の設置位置の目安となる印を参加者がつけていきます。流れとしては、まず横軸に印を付けていき、次いで別の巻き尺を直角に伸ばし、縦軸にも印を付けていきます。

まず横のx軸の基準点を設けた後に、縦のy軸にも巻き尺を伸ばし印を付けていく
まず横のx軸の基準点を設けた後に、縦のy軸にも巻き尺を伸ばし印を付けていく

「定点」の管理は厳重に行われる
「定点」の管理は厳重に行われる

 「測量」の参加者は毎回300人ほどであり、後の「設営」と比べるとそこまでの人手を必要としません。しかし、11時半からは「設営」の集合時刻が迫っており、2時間ほどで作業を終えなければなりません。そのため、人手を分けて効率的な作業が求められます。

まずx軸上に等間隔に印をつけていく
まずx軸上に等間隔に印をつけていく

y軸では設営参加者が一列に一斉に並び、等間隔に「L」の印をつけていく
y軸では設営参加者が一列に一斉に並び、等間隔に「L」の印をつけていく

鉄道の「手信号」を使った効率的な作業が進められていた
鉄道の「手信号」を使った効率的な作業が進められていた

 一方で、朝早くから始まる「測量」参加者は、設営に熱い情熱を持っているリピーター参加者が少なくありません。コミケには全国から様々なジャンルのオタクが集まるのですが、筆者が取材した東1,2,3ホールでは、鉄道の駅員が使う「手信号」を使い、効率的に測量を進めていました。

人海戦術の「設営」

「設営」集合時の様子。一気に大所帯になる
「設営」集合時の様子。一気に大所帯になる

 机を設置する目印を全て貼り終わり「測量」が終わると、「設営」の集合場所であるエントランスホールに戻ります。すると、今度は「測量」集合時の数倍の参加者が集まっています。

東1,2,3ホールの「設営」の様子
東1,2,3ホールの「設営」の様子

 「測量」の時と同様、「棟梁」と呼ばれる設営部のトップが挨拶をすると、東と西に大きく分かれます。今度は会場に運び込まれた大量の机と椅子を、マーカーで指定された場所に設営していきます。

机と椅子は借り物であるため、業者別の管理も必要だ
机と椅子は借り物であるため、業者別の管理も必要だ

 設営時には注意しなければならない点が1つあります。コミケは1日に1万サークル以上が出展し、1サークルが長机の半分を使用するため、机の数は5000台以上。椅子はコロナ禍以降、1サークルにつき1脚用意されているため、1万脚以上の椅子を配置することになります。

大量に搬入されたパイプ椅子の数々
大量に搬入されたパイプ椅子の数々

 そのため、1社から机と椅子を借りるだけではとてもまかなうことができず、複数の業者から机と椅子を借りる形になります。この時、どこの業者から借りた椅子と机かがわかるようにしておかなければなりません。特に机と椅子で違う業者のものが混じると返却時にトラブルになりかねないため、取り違えが起きないようにスタッフが注意しています。

「測量」で引いたマーカーにひたすら机を並べていく
「測量」で引いたマーカーにひたすら机を並べていく

 「設営」でやることは、ただひたすらに机を並べ、並べた机の上に折り畳み椅子を置いていくというものです。「設営」の作業もおおむね2時間ほどで終了し、14時までには一通りの作業が完了します。

配置した机の上に椅子を乗せて完了となる。写真は設営が終わった東1ホール
配置した机の上に椅子を乗せて完了となる。写真は設営が終わった東1ホール

 なお、コミケ最終日の閉会後にも、机や椅子の片付けをする「撤収」という作業があります。コミケ102(C102)では参加にはリストバンド型参加証が原則必要になりますが、この撤収作業は閉会後の作業であるため、閉会後に来場することでリストバンドなしで参加可能です。

コミケ文化をいかに今後受け継いでいくか

設営にもマニュアルがあり、毎回新規に漫画で描き下ろされている。脈々と受け継がれている文化だ
設営にもマニュアルがあり、毎回新規に漫画で描き下ろされている。脈々と受け継がれている文化だ

 このように、コミケは設営一つとっても、多くの参加者によって支えられているイベントです。コロナ禍で開催が3回にわたり中止・延期となりましたが、その断絶を乗り越えて受け継がれているものが多くあります。

設営部のトップを「棟梁」と呼ぶのもコミケの文化といえる
設営部のトップを「棟梁」と呼ぶのもコミケの文化といえる

 しかし一方で、コロナ禍で一度途切れてしまったことで、特に地方からの参加者を中心に、これまで毎回参加していた人が来なくなるきっかけにも現状働いてしまっています。コミケの運営もこの問題と無縁ではありません。全国から約3000人の登録者数がいるといわれているコミケスタッフも、現在深刻な人手不足に陥っているといわれています。

C101開催当日の様子。参加者が設営したものを参加者が利活用し、撤収も参加者主導で行われる(鵜久森裕撮影)
C101開催当日の様子。参加者が設営したものを参加者が利活用し、撤収も参加者主導で行われる(鵜久森裕撮影)

 8月12日(土)と13日(日)に開催されるC102では、やっと制約がない、当日参加可能なコミケが開かれます。Twitterなどでは4年ぶりの参加を表明する人も少なくありませんが、コロナ禍の様々な事情で参加できなかった人たちが、どこまで戻ってくるのか注目といえます。

 そして開催初日前日の11日(金祝)にも設営が実施されます。設営では作業完了後にも様々なレクリエーションが用意されています。コミケに興味がある人は参加してみてはいかがでしょうか。

(クレジットのない写真は筆者撮影)

ジャーナリスト(アニメ聖地巡礼・地方創生・エンタメ)

1984年生まれ。千葉県市川市出身。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了。「聖地巡礼」と呼ばれる、アニメなどメディアコンテンツを用いた地域振興事例の研究に携わる。近年は「withnews」「AERA dot.」「週刊朝日」「ITmedia」「特選街Web」「乗りものニュース」「アニメ!アニメ!」などウェブ・雑誌で執筆。共著に「コンテンツツーリズム研究」(福村出版)など。コンテンツビジネスから地域振興、アニメ・ゲームなどのポップカルチャー、IT、鉄道など幅広いテーマを扱う。

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