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ガンダム「聖地」で開くイラスト展 背景にある新しいロボット作品への期待とは

河嶌太郎ジャーナリスト(アニメ聖地巡礼・地方創生・エンタメ)
「イラスト色紙アート展 メカ&イナギ編」の様子。外にはガンダムの後ろ姿も拝める

 東京都南西部にある稲城市。閑静な住宅地として知られていますが、実はファンの間では、ガンダムをはじめとするロボットアニメの「聖地」の一つとしても知られています。

 理由は、稲城市が数々のロボットアニメのメカニックデザインを手がけてきたデザイナー・大河原邦男さんの出身地であるからです。大河原さんは、「ガンダム」シリーズだけでなく、「科学忍者隊ガッチャマン」(1972年)や「タイムボカン」シリーズ(1975年~)、「無敵超人ザンボット3」(1977年)などの「ガンダム」以前の作品や、「ドラえもん のび太の宇宙開拓史」(1981年)、「勇者エクスカイザー」(1990年)や「勇者王ガオガイガー」(1997年)をはじめとする「勇者」シリーズのメカデザインも担当しています。

 「ガンダム」シリーズでは初代の「機動戦士ガンダム」(1979年)から「ガンダムビルドダイバーズ」(2018年)まで、40年以上にわたって歴代作品のメカデザインを担当しており、日本だけでなく世界を代表するメカニックデザイナーと言えます。

「いなぎ発信基地ペアテラス」前には、高さ3.6メートルのガンダム(右)とシャア専用ザク(左)の大型モニュメントが設置されている
「いなぎ発信基地ペアテラス」前には、高さ3.6メートルのガンダム(右)とシャア専用ザク(左)の大型モニュメントが設置されている

 稲城市も2016年ごろより、市の特色の一つとして大河原さんの制作物を活かした「メカニックデザイナー大河原邦男プロジェクト」という取り組みをしています。この一環で市は市中心部にあるJR南武線の稲城長沼駅隣に、市の観光施設「いなぎ発信基地ペアテラス」(以下、「ペアテラス」)をオープン。建物の前には、高さ3.6メートルになるガンダムとシャア専用ザクの大型モニュメントも設置されています。

 他にも、「ペアテラス」の前にある広場「いなぎペアパーク」では、アニメ「装甲騎兵ボトムズ」(1983年)に登場するロボット「スコープドッグ」の大型モニュメントも置かれています。また、市内4箇所で大河原さんがデザインしたガンダムやスコープドッグなど4枚のデザインマンホールも設置されています。

「いなぎペアパーク」にあるスコープドッグの大型モニュメント
「いなぎペアパーク」にあるスコープドッグの大型モニュメント

メカイラスト展が5月30日まで開催

 「ペアテラス」では、5月2日(日)から5月30日(日)にかけて、「イラスト色紙アート展 メカ&イナギ編」というイラスト展が開かれています。「ペアテラス」の開業5周年を記念した展示で、大河原さんをはじめ12名のアーティストが参加し、約30点のイラスト色紙などが展示されています。

 参加者には、「遊撃宇宙戦艦ナデシコ」や「サイレントメビウス」、「快傑蒸気探偵団」などの漫画作品で知られる漫画家の麻宮騎亜さん。ガンダムシリーズや仮面ライダーシリーズのイラストを手がけ、「ゴジラ」や熱海怪獣映画祭のイラストなども担当した怪獣絵師として知られるイラストレーターの開田裕治さん、アニメ「YAT安心!宇宙旅行」(1996年)の原案とコミカライズを担当する漫画家の西川伸司さんなど、往年のロボットアニメファンでは知られるクリエイターが集っています。

 イベントの企画・運営に携わり自身も展示に参加する、プロデューサーでマルチクリエイターの井上ジェットさんがこう狙いを話します。

「いろいろなロボットアニメが生まれた時代を思い出す展示にしようと企画しました。ガンダムやザクの背中や、スコープドッグのモニュメントを見ながら展示内容の世界観にひたれるのも特徴です。コンパクトながら想像をくすぐる展示内容になっていると思います」

「イラスト色紙アート展」では、大河原さんをはじめとする作家の大半がオリジナルロボットを描いているのも特徴だ
「イラスト色紙アート展」では、大河原さんをはじめとする作家の大半がオリジナルロボットを描いているのも特徴だ

背景にある新しいロボットアニメへの期待感

 背景にあるのが、昨今のロボットアニメ事情です。実は2010年代以降、新しいロボットアニメ作品の勢いが落ちて来ている状況にあります。ロボットアニメ自体は、例えば6月以降に「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ」の公開も予定されており、依然根強い人気があります。また、テレビアニメでも「ガンダム」シリーズは続いていますし、「マクロス」シリーズや「コードギアス」シリーズなどの展開もされています。

 ただ、こうした作品の多くは過去のヒット作の流れを受けて作られているもので、ロボットアニメ作品のファン層の高齢化も目立ち始めています。90年代などと比べると、新しいロボット作品の数自体は減っている状況にあります。2000年代の学園を舞台にした作品や、2010年代から現在に至るアイドルアニメコンテンツの隆盛ぶりと比べると対照的と言えます。

 製作側もこうした現状に手をこまねいているわけではなく、「ガンダム」シリーズでも子どもを主なターゲットにした「ガンダムビルドファイターズ」シリーズ(2013年~)や、新幹線をテーマにJR東日本の協力を得て制作されている「新幹線変形ロボ シンカリオン」シリーズ(2015年~)など、新しい世代を取り入れようと模索しています。

稲城市の公式イメージキャラクター・稲城なしのすけ(左)。大河原邦男さんと井上ジェットさんが共同でデザインした
稲城市の公式イメージキャラクター・稲城なしのすけ(左)。大河原邦男さんと井上ジェットさんが共同でデザインした

「来場者の方には、この展示から新しいロボットアニメが生まれるのではないかというワクワク感を感じ取ってもらえると嬉しいです。僕自身、この展示から新しいロボットアニメの風みたいなものが生まれればいいなと思います」(井上さん)

「イラスト色紙アート展」では、大河原さんや井上さんをはじめ12名のクリエイターが参加していますが、作家の大半がオリジナルロボットを描いているのも特徴です。2020年代の新たなロボット作品の萌動が感じられるかもしれません。

「イラスト色紙アート展 メカ&イナギ編」は5月30日(日)の17時まで。入場は無料となっています。展示されているイラスト色紙は、オンラインによる抽選での購入も可能です。

「イラスト色紙アート展 メカ&イナギ編」

■期間

2021年5月2日(日)~5月30日(日)

■開催場所

いなぎ発信基地ペアテラス

東京都稲城市東長沼516-2

■参加アーティスト

大河原邦男/開田裕治/麻宮騎亜/西川伸司/岡本英郎/若井おさむ/moi/YOSSAN/石垣純哉/ミズノシンヤ/やまだたかひろ/井上ジェット(順不同・敬称略)

■問い合わせ先

一般社団法人 稲城市観光協会

Tel:042-401-5580 FAX:042-401-5581

■「イラスト色紙アート展」WEBサイト

https://sikisi.mystrikingly.com/

ジャーナリスト(アニメ聖地巡礼・地方創生・エンタメ)

1984年生まれ。千葉県市川市出身。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了。「聖地巡礼」と呼ばれる、アニメなどメディアコンテンツを用いた地域振興事例の研究に携わる。近年は「withnews」「AERA dot.」「週刊朝日」「ITmedia」「特選街Web」「乗りものニュース」「アニメ!アニメ!」などウェブ・雑誌で執筆。共著に「コンテンツツーリズム研究」(福村出版)など。コンテンツビジネスから地域振興、アニメ・ゲームなどのポップカルチャー、IT、鉄道など幅広いテーマを扱う。

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