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クレヨンしんちゃん、ラブライブ!…ご当地キャラが世界から集まる「アニ玉祭」とは

河嶌太郎ジャーナリスト(アニメ聖地巡礼・地方創生・エンタメ)
「アニ玉祭」の静岡県沼津市のブース。「ラブライブ!サンシャイン!!」一色だった

 アニメやゲームの舞台を旅する「聖地巡礼」。近年では、市や町自らが活性化に乗り出している例も珍しくない。そこで、埼玉県を中心に、全国のアニメ「聖地」を抱える自治体や、ご当地キャラなどを集めたイベント「アニ玉祭」が10月14日(日)、さいたま市大宮区のソニックシティで行われた。

アニ玉祭の会場として恒例のさいたま市の大宮ソニックシティ
アニ玉祭の会場として恒例のさいたま市の大宮ソニックシティ

 今年で6回目の開催で、県内外の自治体や民間企業など過去最多の103団体が出展した。これに合わせ、キャラクターのイラストを車体に塗った「痛車」の展示イベントやコスプレイベント、A応Pなどのアイドルグループによるステージイベントが開かれた。この一日で約3万1500人が来場した。

 会場内を歩いて気付かされるのが、アニメ作品やご当地キャラクターを用いて地域振興に取り組む団体や自治体がこんなにあったのかという点だ。筆者が確認したところでは、少なくとも23の地域で活動している団体・自治体が見受けられた(下図)。

第6回アニ玉祭に出展したご当地アニメ・キャラ一覧(主に北から順)
第6回アニ玉祭に出展したご当地アニメ・キャラ一覧(主に北から順)
会場内では、全国の様々な自治体の名前が立ち並んでいた
会場内では、全国の様々な自治体の名前が立ち並んでいた

 有名なところでは、国民的アニメ「クレヨンしんちゃん」だろう。作中に登場する、「イトーヨーカドー」をもじった架空のスーパー「サトーココノカドー」がアニ玉祭に出張出展していた。出展主は埼玉県。実在する「イトーヨーカドー春日部店」を「サトーココノカドー」に期間限定で変えてしまった仕掛け人でもある。

北海道浜中町のブース。まさに「ルパン」一色だ。右隣は、「恋旅」や「サクラクエスト」で地域振興している富山県南砺市のブース
北海道浜中町のブース。まさに「ルパン」一色だ。右隣は、「恋旅」や「サクラクエスト」で地域振興している富山県南砺市のブース

 続いては、これも国民的アニメ「ルパン3世」。出展者は北海道の東部に位置する浜中町だ。「ルパン3世」の生みの親であるモンキー・パンチが同町の出身であることから、作者自ら2008年ごろからまちおこしに取り組んでいる。作者の出身だけでなく、主要登場人物の一人、峰不二子も浜中町出身という設定で、実際に作中の舞台にもなった。

 他には、沼津市を舞台にした人気アニメ「ラブライブ!サンシャイン!!」、埼玉県飯能市の「ヤマノススメ」、富山県南砺市の「サクラクエスト」なども出展しており、埼玉県内に限らず、日本国中のアニメ「聖地」から集まってきた格好だ。

クレヨンしんちゃんに登場するスーパー「サトーココノカドー」の出張販売
クレヨンしんちゃんに登場するスーパー「サトーココノカドー」の出張販売
埼玉県飯能市を舞台にした「ヤマノススメ」の展示。キャラクターの等身大パネルが一堂に集結した
埼玉県飯能市を舞台にした「ヤマノススメ」の展示。キャラクターの等身大パネルが一堂に集結した

 アニメ作品にはなっていないものの、ご当地キャラクターも多数出展している。中でも、福島県応援キャラクターの「中通りく」は、運営組織に申請さえすればキャラクターを無償で商用利用できるのが特徴だ。似たような例としては東北地方に本社を置く企業であればキャラクターを無償商用利用ができる「東北ずん子」があるが、「中通りく」はその対象を全国に広げた格好だ。

福島県応援キャラクター・中通りく
福島県応援キャラクター・中通りく

 他には、青森県田舎館町のイメージキャラクターを務める、「いち姫」がある。戦国時代の津軽地方に実在した「市姫」をモデルにしたキャラクターだ。考案者は、同町に工場を置く金型メーカー「ソルテック」(本社・東京)。長野県諏訪市に本社を置くグッズメーカー「PLUM」と協働し、キャラクターのグッズ展開を進めている。「PLUM」は地元・諏訪市のご当地キャラクター「諏訪姫」をプロデュースし、2012年に市の公認キャラクターになった実績がある。

青森県田舎館村のイメージキャラクター「いち姫プロジェクト」
青森県田舎館村のイメージキャラクター「いち姫プロジェクト」

 西のほうでは、愛知県知多半島5市5町のご当地キャラクターを手がける「知多娘。」が出展していた。ただ単にキャラクターだけを用いるのではなく、キャラクターの声優に地元出身者を起用しているのも特徴だ。声優はそのまま「ご当地アイドル」として、キャラクターと一緒に地域を盛り上げている。2009年から早10年近く取り組みが継続されており、これも新しい地域振興の方法だと言えるだろう。

「知多娘。」のブース。アイドル自らが故郷をPRしていた
「知多娘。」のブース。アイドル自らが故郷をPRしていた

 南からは……ご当地キャラは日本にとどまらず、なんと台湾からも出展していた。出展者は「Simon Creative」(本社・台北市)。台湾国内では様々な自治体や公共機関のマスコットキャラクターの立ち上げに関わってきた。中でも南部にある台湾第2の都市、高雄市地下鉄(高雄メトロ)の公認キャラクター「高捷少女」が台湾国内で大ヒット。その人気ぶりは国境を越え、日本でも「進め!たかめ少女」として、小説をはじめとしたメディア展開が進められている。会場では、Simon社が手がけてきたキャラクターのイラスト集を販売していた。

Simon Creativeのブース。イラスト集などが販売されていた
Simon Creativeのブース。イラスト集などが販売されていた

 このように「アニ玉祭」は、日本国内のみならず、国境を越えてご当地キャラが集結するイベントとなっている。出展団体数は増加の一途を辿っており、ご当地キャラやアニメなどの「聖地」が今後も増え続ければ、これからも出展者数も増える可能性が高い。キャラクターを用いた地域振興がいまどのような広がりを見せているのか。年に一度のアニ玉祭ではそれを実感することができる。

(撮影=全て筆者)

記事中では取り上げられなかったが、久喜市鷲宮の「らき☆すた」も相変わらず健在だ
記事中では取り上げられなかったが、久喜市鷲宮の「らき☆すた」も相変わらず健在だ
ジャーナリスト(アニメ聖地巡礼・地方創生・エンタメ)

1984年生まれ。千葉県市川市出身。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了。「聖地巡礼」と呼ばれる、アニメなどメディアコンテンツを用いた地域振興事例の研究に携わる。近年は「withnews」「AERA dot.」「週刊朝日」「ITmedia」「特選街Web」「乗りものニュース」「アニメ!アニメ!」などウェブ・雑誌で執筆。共著に「コンテンツツーリズム研究」(福村出版)など。コンテンツビジネスから地域振興、アニメ・ゲームなどのポップカルチャー、IT、鉄道など幅広いテーマを扱う。

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