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ソニーのゲーム事業 今期の売上高は4兆円も視野に

河村鳴紘サブカル専門ライター
(写真:ロイター/アフロ)

 ソニーグループの2023年3月期通期連結決算が発表され、「売上高は10兆円超え」「過去最高」と各メディアで報じられました。好調の原動力となったゲーム事業ですが、ここ10年を振り返ると、売上高の伸びがとんでもないことになっています。

 売上高とは、少々乱暴に言えば「企業の活動規模」です。株式会社は「もうけを出す」ことが大事なのですが、活動規模が大きいほど何かと有利。そのため、真っ先に見られる数字の一つです。

 ソニーグループは、パナソニックや日立などと共に「大手電機」という冠が付きますが、ゲーム事業や音楽事業、映画事業の通期売上高もそれぞれ1兆円を超えていて、合算すると6兆円以上。全グループの売上高の半分以上ですから、コンテンツ制作企業というほうが適当かもしれません。30年前は、コンテンツ産業と言えば当たるかわからない「水もの」であり、ビジネス的には“格下”に見られていたのですが、今や時代は変わりました。

 ソニーグループのゲーム事業の通期売上高ですが、2023年3月期は過去最高となる3兆6446億円でした。2014年3月期(PS4を発売した年度)は、ほぼ1兆円でしたから、10年間で3.6倍に増やしたことになります。PS5の発売前のタイミング(2020年3月期)で売上高は一時的に落ちましたが、その後すぐ右肩上がりになっています。

 さらに2024年3月期の売上高予想は3兆9000億円。少しだけでも上振れすれば、4兆円に届く可能性もあります。一部では「PS5のソフトが思った以上に売れてない」という声もあります。ですが、それでもこの数字をたたき出している……ということも言えます。

 売上高1兆円のビジネスを10年強で3~4倍にすることは、並大抵ではありません。おまけに10年前のPS4の発売時期ですが、家庭用ゲームのビジネスは、基本は無料で遊べてしまうスマートフォン用ゲームに押され、苦戦していた実情があります。実際、当時の経営陣も、苦戦を覚悟する発言を残しています。

 そしてPS5の発売時に、高額転売にさらされて品不足になったときも、ネットでは批判が集中して「ダメ出し」「終わった」という声も出たのですが、その指摘とは違う結果(業績)になっているのが、興味深いところです。消費者の抱くイメージと、企業の業績は必ずしも一致しない……という例です。

 ソニーのゲーム事業の売上高「3兆6000億円」という数字は、あまりにも巨大すぎて、なかなかピンとこないかもしれません。ちなみに任天堂の2023年3月期の売上高予想は1兆6000億円(決算は5月9日発表)。ゲーム以外の玩具やアニメなど多くの事業を抱えるバンダイナムコホールディングスは9400億円(5月10日発表)となります。

 任天堂の売上高のピークは、2009年3月期の1兆8386億円。家庭用ゲーム機「ニンテンドースイッチ」の驚異的なヒットがあったものの、売上高の最高記録を更新していません。もちろん任天堂のビジネスの魅力は高利益体質なので、「売上高はあまり関係ない」と言えば、その通りでしょう。しかし、売上高の視点で考えると売上高2兆円の“壁”がある……ともいえます。

 任天堂とソニーの経営戦略、企業業績を、長年にわたってみていると、両社の考えや哲学が明確に見えてきます。その一つは経営面の差で、任天堂は堅実、ソニーは上昇に重きを置いているように感じることです。ゲームはリスクの大きなビジネスなので、そのリスクヘッジが重要になるにも関わらずです。

 ソニーは、ゲーム会社買収・出資に積極的です。プラスに出れば、他社のビジネスのノウハウを一気に吸収して成長するものの、買収の成果が出なければ、批判されます。ビジネスに「絶対」はなく、買収の成否は数年後に明らかになります。

 そしてソニーのゲーム事業は、どこまで拡大・成長するのか。上振れして4兆円に届くのか。さらにその先を考えると、今回の決算が、なかなか面白いものに見えてくるのです。

サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

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