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「鬼滅の刃」 今日から放送の「刀鍛冶の里編」で再度のブームはあるか

河村鳴紘サブカル専門ライター
アニメ「鬼滅の刃」の公式サイト

 人気アニメ「鬼滅の刃」のシリーズ最新作「刀鍛冶の里編」が9日の23時15分からフジテレビ系などで放送されます。シリーズとして約1年ぶりの放送を前に、1日と8日の「遊郭編」の総集編が放送されると、同作がツイッターのトレンドで1位になるなど、相変わらずの人気でした。そこで「刀鍛冶の里編」で、再度のブームはあるのかを考えてみます。

◇出版社の予想を上回る人気に

 「鬼滅の刃」シリーズは、週刊少年ジャンプ(集英社)で2016~2020年に連載された吾峠呼世晴(ごとうげ・こよはる)さんのマンガが原作で、人を食う鬼を倒す「鬼殺隊」になった竈門炭治郎(かまど・たんじろう)が、鬼になった妹を元に戻そうと奮闘する物語です。

 面白い動きがあったのは、2019年に放送されたテレビアニメの放送後でした。もちろん、放送時にもアニメも出来の良さもあって話題になったのですが、アニメの放送が終わった同年の晩秋ごろから原作マンガのコミックスが売り切れ状態になります。アニメを見てファンになり、原作マンガで続きを読みたい……という流れをつかんだと推測されます。アニメ化の人気を見越してコミックスは増刷されたはずなのに、出版社の予測を上回る人気になったわけです。

 そして、2020年春に新型コロナウイルスの感染拡大が日本でも問題になります。巣ごもり需要を追い風に、「鬼滅の刃」の人気はさらに加速した上に、人気絶頂の中で連載は完結して「鬼滅ロス」が発生。コロナによる外出への渇望がある中で公開されたアニメ映画「無限列車編」(2020年10月公開)は、興行収入が400億円を突破する快挙を達成し、普段はアニメを取り上げないテレビの情報番組も「鬼滅の刃」を取り上げたほどでした。

 ゴールデンタイムにテレビアニメが再放送されると、世帯視聴率で10%台の高い数字を連発。2021年9月に「無限列車編」が地上波で初放送されると、世帯別視聴率は20%を超えたのです。

◇再度のブームの“壁”とは…

 「鬼滅の刃」について「国民的アニメ」と表現するのは、ビッグデータから見ると「妥当」と言えます。人気アニメはもちろん、ドラマすらも超えるパワーがあるからです。ヤフーのインターネットサービス「DS.INSIGHT」で、ワードがどれだけネットで検索されたかを示す検索ボリュームでピーク時の数値と比べると、「呪術廻戦」や「スパイファミリー」のような大ヒット作の数倍あるからです。

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 「鬼滅の刃」の知名度の浸透はかなりのもので、“触媒”となる何か注目されるきっかけさえあれば、再びブームの火が付く可能性は十分あるでしょう。ただし再度のブームとなるための“壁”があるのも確かです。

 “壁”の一つは、23時15分という時間の遅さです。2020年10月~2021年2月に放送された「無限列車編」「遊郭編」では、最初こそ世帯視聴率が10%を超えたものの、「無限列車編」が再放送のような形になったこともあり、その後は下がっていきます。この時間では相当高い視聴率であり、新作の「遊郭編」では持ち直していますが、一般に分かりやすい形での高い数字とはなりませんでした。

 実際は個人視聴率や、録画再生を含めた総合の視聴率まで追うと、NHKの朝ドラや大河ドラマ並み(あるいはそれ以上)の人気があったのですが……。さらにネット視聴までを考慮すると、それ以上の力があったことは容易に推測されるのですが、いずれにしても映画の興収や、世帯視聴率のような一見してわかる数字とは言えず、理解を得るのが難しかったようです。

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◇視聴者の「慣れ」も?

 もう一つは、「鬼滅の刃」に対するSNSの「反応の熱」が以前よりも落ち着いていることです。今のメディアは、SNSの急上昇ワードやトレンドを注視しており、それが記事のネタになっています。SNSで話題になれば記事になり、記事になればさらに拡散する流れです。ところが「鬼滅の刃」の人気はありつつも、以前のようにSNSを席巻するような流れではなく、やや落ち着いているのも確かです。

 今までであれば、「鬼滅の刃」は、テレビの放送が始まれば即座にツイッターのトレンド1位を取るのが当然で、関連ワードで埋め尽くされるほど盛り上がりました。しかし1日と8日の放送では、トレンド1位になるのも放送が始まった1時間後や、放送後半になってから。アニメの出来でいえば、「遊郭編」のクライマックスの戦闘シーンは圧巻でした。

 背景には、「鬼滅の刃」のすごさに、視聴者が慣れてきているのかもしれません。逆に言えば、その「慣れ」を突き破る驚きがあれば、この落ち着いた「流れ」が変わるのかもしれません。「落ち着いた」といっても、十分すごいのですけれども、「無限列車編」の恐るべき盛り上がりを考えると、物足りないといわれるとそうなるかもしれません。

 放送が23時台ではなく、21時……せめて22時台であれば、視聴率のアップも見込め、SNSの動きも活発になるでしょう。テレビ局の戦略もあるのでしょうが、うまくいけば、コンテンツやテレビのさらなる力も示せる可能性があるだけに「惜しいなあ」と思えるのです。

 ともあれ「刀鍛冶の里編」で、視聴者のどんな反応があるのか。何かの話題一つで、人気の大爆発がありえますし、爆発があればメディアが反応して記事になるようであれば……。最終的にはアニメのネタを扱うメディア以外が取り上げるなどするのが理想です。“壁”はあるものの、そういう期待ができるのが国民的人気アニメの強みです。注視したいと思います。

サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

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