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「ラスアス」ドラマ版で原作ゲームは売れる? ソニーのマルチメディア戦略いかに

河村鳴紘サブカル専門ライター
ゲーム「ラスト・オブ・アス」を紹介するSIEのページ

 「ラスアス」の愛称で知られる世界的な人気ゲーム「The Last of Us(ラスト・オブ・アス)」。そのドラマ版が、米国で今月放送されたところ、英国市場でゲーム版の売れ行きが急上昇したと報じられました。ゲーム発売元のソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)に問い合わせたのですが、放送されたばかりであり、評価は時期尚早といえそう。しかし、ビジネス的に面白い話なので考察してみます。

【関連】ドラマ『THE LAST OF US』の影響により、英国ではゲーム版の売り上げが2倍以上にアップ(IGN Japan)

◇ドラマ版は日本でも配信

 「ラスアス」は、謎のパンデミック(爆発的感染)により荒廃した米国を舞台に、我が娘を失った中年男性のジョエルが、仕事で14歳の少女と旅をすることになり、親子のような絆を築いていく……というストーリーです。欧米のゲーム媒体で200以上の賞を獲得、「PS3で最高のゲーム」と言われ、世界で1700万本以上を売りました。リメークされてPS4やPS5で遊べます。ただし、ゲームファンでなければ同作について「知らない」と答えるかもしれません。

 ドラマ版は、日本でも視聴可能で、U-NEXTで独占配信されています。1月16日から字幕版の配信が始まっており、2月13日からは人気声優の山寺宏一さんや潘めぐみさんらの吹き替え版が配信予定です(ゲーム版の声優陣)。予告映像も公開されていて、ゲーム版の雰囲気を再現するのはもちろん、ネットのスコア(評価得点)も高いのです。私も同作を遊んだ経験はありますが、映像に違和感はなく、純粋に作品として面白そう……という感じです。

◇映像化に消極的なゲーム会社

 さて、ここからはビジネスの話です。人気コンテンツをマンガや小説、映像などで多面展開するマルチメディア戦略は常道であり、王道の手法です。しかしゲーム会社は、少し前までは、ゲームの映像化にあまり積極的とはいえませんでした(一部の会社が取り組むぐらい)。

 ゲーム会社の決算説明会でマルチメディア展開関連の質問をしても「ゲームは映像に合わない」などという答えだったのです。なぜかというと、ゲームは遊び方次第で、人によって結果が大きく変わる特性が強みなのに、映像化にすればストーリーは一つになります。結果としてゲームの魅力を削ぐという見方です。

 さらに言えば、高利益体質のゲームビジネスの構造も影響していたでしょう。ゲームがヒットすれば、会社の営業利益率は3割、4割超えもありました。要するにマルチメディア戦略にさほど頼る必要がなかったのです。映像化に積極的なマンガや小説とは、対照的でした。

 しかし、エンタメコンテンツによる客の奪い合い……競争が激しくなる中で、ゲームの開発費も高騰し、失敗が許されなくなるに従って、収益安定化の観点から有力コンテンツの長期的なブランディングの重要性が注目されていきます。コア・ミドル向けに定番のゲームを展開すると、数字は読めて売り上げが見込めるものの、次第に先細りしていく傾向にあります。ライト、新規層を取り込むには、ゲーム以外でも自社のコンテンツを展開する必要がある……というわけです。

◇ゲーム原作の映像化に積極的なソニー

 そうしてゲームの映像化に近年、力を入れる方向性になったのですが、積極的なのがソニーです。昨年は「アンチャーテッド」が映画化され、北米の興収1位を記録。他にも「ゴースト・オブ・ツシマ」「グランツーリスモ」などの映画化が進行しており、「ゴッド・オブ・ウォー」のテレビシリーズの制作も発表されています。

 どのゲームも、本物に間違えるほどのリアルなCGを武器にしており、映像化とは相性が良さそうです。ソニーグループは、映画事業(ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント)も展開していますから、その点も強みといえます。

 マルチメディア展開の利点ですが、マンガ原作の映像化では発揮されています。アニメやドラマの映像作品がヒットをすれば、原作コミックスが爆発的に売れる可能性があります。ゲームにも同様の“流れ”が起きても不思議ではありません。映像作品ではありませんが、サッカーのワールドカップで、日本代表が勝つとサッカーゲームが急に売れる現象が何度も起きています。逆に負けると売れないあたりがバクチ的なのですが(笑い)。

 「ラスアス」のドラマ版は、現時点では独占配信のため、原作ゲームへの波及は限定的かもしれません。しかし、評価されたドラマは当然注目を集めますし、後々になって他のプラットフォームで放送・配信されたら、どんなことが起きるのか……。

 ドラマに向かないゲームもあるでしょうし、必ずしも期待通りに原作ゲームが売れるわけではないとは思いますが、合うパターンがあっても不思議ではないと思うのです。果たしてどうなるのか。今後の業績に注目したいと思います。

サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

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