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<任天堂決算>減収減益+スイッチ500万台減! でもマイナスイメージは視点一つで“逆転”も

河村鳴紘サブカル専門ライター
(写真:ロイター/アフロ)

 任天堂の2022年3月期(2021年4月~2022年3月)通期連結決算が、10日に発表されました。注目の企業だけに、多くのメディアから決算の記事が出ました。「ゲーム機の販売減」「減収減益」などの見出しから、マイナスイメージを持った人も多いのではないでしょうか。

◇モヤモヤする違和感の正体は

 任天堂の売上高は約1兆7000億円(前年度比3.6%減)、本業のもうけを示す営業利益は約5900億円(同7.5%減)。累計1億台以上を売っている家庭用ゲーム機「ニンテンドースイッチ」の出荷数は、前年度から577万台減の2306万台で、ブレーキがかかりました。キツい表現にするなら「500万台以上減」ではなく「約600万台減」とすら言うこともできます。

 ところがファンの視点からすると「前年度は新型コロナウイルスの巣ごもり効果で特別だった。スイッチの売れ行きは落ちて当然だし、比較するのはおかしい」という感じでしょうか。確かにニンテンドースイッチは現在でも飛ぶように売れているのです。それだけに、「売れなくなった」というイメージのある記事に対して、モヤモヤする違和感があるのでしょう。

 しかし、メディアとして記事にするなら、数字という客観的な事実である以上「減収減益」と書くしかないのです。むしろ「減収減益」という言葉を避けて書くと、かえって不自然です。決算記事の元になる決算短信では、前年度(2021年3月期)と今年度(2022年3月期)の二つのデータを比較していますから、白黒がハッキリするのです。

 モヤモヤの正体は、ピークを迎えたニンテンドースイッチの出荷数が減っている事実があっても、ファンの目に見えて売れなくなるわけではないからです。もともと驚異的に売れている商品の売れ行きが多少落ちても、変わらず売れてるように見えるので、仕方ないと言えます。

◇3期連続の出荷2000万台突破

 ただし、決算を2年間ではなく、もっと長い期間で見ると、視点が変わって別の景色が見える……“逆転”するのです。

 それは、ニンテンドースイッチの出荷数が、通期で3期連続の2000万台を突破したことです。社会的ブームを起こした「Wii」や、1億5000万台を売ったソニーの「PS2」でさえ、2000万台は2期連続まで。偉大な“先輩”たちを超えたのです。

 そしてニンテンドースイッチの2023年3月期(1年間)の出荷計画は、2100万台。……ということは、計画を達成すれば4期連続になるわけで、「ニンテンドーDS」と並んで、家庭用ゲーム機の最高記録となります。

 スイッチはニンテンドーDSが成し遂げた3000万台には、まだ届いていません。しかし、今は無料で面白いゲームが遊べてしまうスマホゲームがあり、スマホゲームは世界のゲームソフト市場(20兆円)のうち半分を支えていて、家庭用ゲーム機のシェアは4分の1にすぎません。専用ゲーム機を取り巻く状況は、DSの時代よりも厳しいだけに、より価値があるのではないでしょうか。

 そう考えると、2022年3月期の減収減益、スイッチの出荷数500万台減も「些細なこと」になります。そもそもピークを超えたゲーム機は売れなくなるのは当然ことで、その減少幅をいかに緩めるかが勝負です。

 もちろん、減収減益でもうなるほどの現金を保持し(現金・預金だけで1兆1000億円以上!)、経営的に盤石すぎる任天堂にも課題はあります。決算説明会の質疑応答でも触れている通り、スイッチの計画(2100万台)の達成には、新規購入と複数台購入の最大化が必要でしょう。またサブスク「ニンテンドースイッチオンライン」の会員数は現在の3200万(2021年9月末時点)から増やす必要もあり、いつかは来るであろう新型ゲーム機の世代交代に向けて準備しないといけません。

 それでも、スイッチが累計出荷数を今後どこまで積み上げられるのかは、興味の尽きないところです。

サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

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