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ソニーがエピックに三度目の出資 続くゲーム業界の大型買収・出資の狙い

河村鳴紘サブカル専門ライター
(提供:イメージマート)

 ソニーグループが、人気ゲーム「フォートナイト」で知られるエピックゲームズに10億ドル(約1250億円)を追加出資すると発表しました。大手ゲーム会社の大規模な買収・出資が続くのですが、なぜでしょう。考察してみます。

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 ソニーグループのエピックへの出資は、2020年7月(2億5000万ドル)2021年4月(2億ドル)に続いて三度目で、出資総額は計14億5000万ドル(約1800億円)になります。三度目ゆえに(メディア視点では)ニュースにする価値は薄れますが、金額は今回が突出しています。

 エピックの事業は、ゲームソフト制作だけではありません。ゲームはもちろん、映像、製造業にも利用される開発ツール「Unreal Engine(アンリアルエンジン)」の存在が強みと言えます。そして2020年の最初の出資時、両社は協業についてゲームの分野に限らない考えを既に示していました。そしてソニーが三度も出資をするところにエピックへの評価がうかがい知れます。

 ちなみにエピックの発表を見ると、異なる風景が見えてきます。エピックは、ソニーから10億ドル、デンマークの玩具ブランド「レゴ」の親会社・KIRKBI(キアクビ)から10億ドル、計20億ドル(約2500億円)を調達しています。エピック側もソニーの色が強くならないようにしているとも取れます。

 出資の狙いについては発表でも触れている通り、インターネットに仮想世界を構築して提供するサービス「メタバース」事業の強化を挙げています。エピックやソニーの場合、元々メタバースに近いとされるゲーム事業を展開しているわけですから、将来的なコンテンツ・サービスの強化というと納得できます。そして「メタバース」というキャッチーなキーワードを使い、投資家にもうまくアピールしています。

【関連】Sony and KIRKBI Invest in Epic Games to Build the Future of Digital Entertainment

 なおゲーム会社の巨額買収・出資はここ数年の流れですが、特に今年に入っても大きな発表が目立ちます。

 ちなみに30年以上前の1989年にソニー(現ソニーグループ)が米大手映画会社コロンビア・ピクチャーズ・エンターテインメントを買収したときの金額は34億ドル(約4800億円)と報じられました。そのときは「日本企業による最大の買収」と言っていましたから……。時代は変わったものです。

 ゲーム業界で大規模な買収・出資が続く狙いは、まず自社で世界的なコンテンツを抱えたいこと、キーになる企業との良好な関係の維持です。さらに優れた人材を確保して未来の人気コンテンツを確保する布石を打っておくことも念頭にあるでしょう。そして買収や出資は、事業展開のスピードもあります。他業種からの参入があるように、ゲームビジネスの動きは激しくなっていますから、事業展開のスピードは重要です。

 なおゲームソフト開発は他産業と比べて特殊要因があります。創造力や斬新さといったクリエーティビティが要求される上、そのウエートが高く、他産業ではありえない高収益をたたき出すことです。一方、買収でコンテンツの権利を獲得しても、エース級の開発者が抜けてしまえば、その後の展開(続編の制作など)がうまくいかないことも起こりえます。

 しかし開発者をリスペクトして任せすぎると、商品の完成度を高めることを理由に発売延期を繰り返すこともあるわけです。これはゲームに限らず「作り手の本能」のようなもので、ある意味仕方ありません。かといってゲームもビジネスなので投じた開発費に見合うだけの収益がないと、立ち行かなくなります。一時期、日本の大手ゲーム会社がこぞって、エース級の開発者らを子会社のトップに据えた時期があったのですが、そのトレンドが続くことはありませんでした。

 つまり買収も重要ですが、買収したゲーム会社のかじ取り(コントロール)、「その後」も同じだけ重要なのです。建国する「功業」と、長きにわたって優れた統治を続ける「守成」の難しさの関係に似ていますね。買収した側が力関係を利用して、買収された側を「いうことを聞け」と締め付けすぎてもダメなのです。

 逆に任天堂のように、買収時にもこれまでの関係性を重視して、育成(採用強化)に重きを置くケースもあります。ちなみに同社の基本方針は、私の知る限り20年間変わっていません。現金だけで1兆円以上保有する企業なので、やる気さえあればバンバン買収できてしまうはずですが、いつ買収の質問をしても慎重な答えが返ってきます。意地悪く言えば保守的ともいえますし、よく言えば手堅く経営方針が一貫しているとも言えますね。

任天堂は21年11月の経営方針説明会で、27年3月期までの5年間をめどにゲーム開発者の採用強化などに最大1000億円を投じる計画を発表していた。

任天堂、ソフト開発会社を買収 「あつ森」でも協業(日経新聞)

 どちらが「良い」「悪い」の話ではありません。買収を含めた中長期の戦略は、数年後の結果が出るまで判断できませんし、社風や関係性、状況によって変わります。

 そして積極的な買収・出資ができるのは、ゲーム業界にまだ成長の余地がある証拠です。大手ソフト会社の社長への取材後、「金はあるけれど人手が……」というボヤキを聞かされたことがありますが、豊富な資金力があるのにマンパワーが不足しているわけです。そう考えると、驚くような買収劇は今後もあるのかもしれません。

サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

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