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ニンテンドースイッチ 5年足らずで1億台突破 なぜここまで爆発的に売れたのか

河村鳴紘サブカル専門ライター
任天堂の家庭用ゲーム機「ニンテンドースイッチ」(写真:ロイター/アフロ)

 任天堂の家庭用ゲーム機「Nintendo Switch(ニンテンドースイッチ)」シリーズの世界累計出荷数が1億台を突破しました。この勢いを持続すれば「家庭用ゲーム機史上で最高の出荷数」も達成できるでしょう。なぜここまで爆発的に売れたのでしょうか。

◇“壁”につまづきながらも飛躍

 ニンテンドースイッチは、2017年3月日米欧で世界同時発売されました。5年足らず(4年と約10カ月)で1億台を突破。年平均で2000万台を超える計算になります。今後多少ペースが落ちても、自社の携帯ゲーム機「ニンテンドーDS」や、ソニーの家庭用ゲーム機「プレイステーション2」が達成した1億5000万台の達成も現実味を帯びています。

 ですが、スイッチは最初から順調ではありませんでした。まず前世代機の「Wii U」が予想外の販売不振だったことです。そしてニンテンドースイッチの特徴といえば、据え置き型ゲーム機と携帯ゲーム機を兼ねる「ハイブリッド」ですが、ゲーム関係者の評判は「良い」とは言えないものでした。

 理由は、ハイブリッドという提案に対して、当時展開していた携帯ゲーム機「ニンテンドー3DS」との“すみ分け”をどうするのか?という疑問があったためです。また携帯ゲーム機の市場のシュリンク(縮小)は目に見えていたこともあります。

 ですがニンテンドースイッチは発売後、自社ソフトがけん引する形で出荷数を順調に積み上げていきます。しかし発売3年目に“壁”に突き当たります。当初2000万台の出荷計画に対して、実際は1695万台どまり。計画通りに売れないのがゲーム機という「水もの」の商品の常とはいえ、300万台超の不足は大きいでしょう。

 しかし翌年度(4年目)、出荷計画を1800万台に設定(その後1950万台に引き上げ)し、今度は計画を上回る2103万台を売ったのです。そこからは大きく伸び、5年目は2883万台。6年目となる今年度も2000万台以上の出荷は確実な状況です(計画は2300万台で、2021年12月末現時点では1895万台)。“壁”に一度はつまづきながらも、飛躍したのです。

◇ターニングポイントは「あつ森」

 ゲーム機自体はタダの箱であり、普及はソフト次第……という考えはその通りです。そしてソフト次第といっても、看板となる人気作はもちろん、多彩な種類も遊べる「質と量」の双方が必要になります。任天堂は元々、多くの有力コンテンツを持っており、それがあってこそのブレークです。しかし、決算データの視点からターニング・ポイントを挙げるとすれば、発売4年目の年度末の「瀬戸際」で発売された「あつまれ どうぶつの森(あつ森)」となります。

 「あつ森」は当初の発売時期が延期されて、2020年3月になりました。そして同じ時期、世界が新型コロナウイルスの猛威にさらされ、家に留まる「ステイホーム」が推奨されたタイミングでした。元々の癒やし要素に加え、ゲーム内でモノづくりをする仕様、SNS映えする仕組みも時代の求めるものに合致していました。普段はゲームを取り上げない一般メディアが大きく取り上げ、それが更なる人気を呼ぶ形になりました。

 「どうぶつの森」シリーズは元々国内だけで500万本を売る化け物ソフトでしたが、シリーズ最新作の「あつ森」は倍となる1000万本を超える、追い風のすさまじさが数字に表れています。そして人気ソフトがゲーム機本体の売れ行きを引っ張ります。

 「あつまれ どうぶつの森」の発売前。最大の商戦期である年末商戦に「ポケットモンスター ソード・シールド」が出たのですが、それでもニンテンドースイッチの年度の出荷数は、計画(1950万台)に届くか?というレベルでした。年間出荷数2000万台に届かなかったゲーム機が“リベンジ”を果たしただけでなく、そこから3年連続で年間2000万台以上の突破が確実視されています。

 そして、他のゲームソフト会社も「勝ち馬」に乗るべく、ニンテンドースイッチ向けにソフトを出す流れになりました。こうなるとソフトの種類がさらに充実する“必勝”体制になるわけです。

 普及したゲーム機の“宿命”で、今後はニンテンドースイッチの年間出荷数は基本的に右肩下がりになるでしょう。それでもこれだけの勢いがあり、ゲーム市場の環境などを総合的に考慮すると、売れ行きが一気に急減することは考えづらいところです。唯一、急減の可能性があるとすれば、任天堂が次世代ゲーム機を電撃的に発表することでしょう。しかし、ニンテンドースイッチがこれだけ売れているわけで、経営的にも時期尚早といえます。

◇「一人一台」携帯ゲームの特性もプラスに

 もう一つ。ニンテンドースイッチに、携帯ゲーム機の特性があることは、出荷数の増加につながったのではないでしょうか。テレビに接続する据え置き型のゲーム機は「一家に一台」で終わります。しかし携帯ゲーム機であれば、スマートフォンのように「一人一台」となるからです。

 もちろん、ニンテンドースイッチは1台で複数のアカウントを管理できます。しかし、携帯ゲーム機としても使え、実際に持ち歩けるわけで「自分の専用機にしたい」となるでしょう。人間の所有欲、心理を巧みについています。

 ハイブリッド・タイプにしたことで、ニンテンドースイッチは、個人の価値観に応じて、いろいろな使い方ができます。また専用ソフトを遊ぶと、仕様や言葉遣いも含めて、LGBT(性的少数者)へ配慮したものが目につくなど、時代の求める空気にも対応しています。ダイバーシティ(多様性)に重きを置いており、さまざまな価値観に対応できるため、歓迎されたのではないでしょうか。

 社会現象となる商品・コンテンツは、質が良いという前提は当然として、さらに社会の求めるものを商品に落とし込んで、適切なタイミングで出す「引きの強さ」も求められます。もちろん、それは狙ってできることではなく、失敗を覚悟して挑戦を続けるからこそ手繰り寄せるものです。

 それにしても、据え置き型と携帯ゲーム機を兼備する「ハイブリッド」のゲーム機を作ったことは、経営的には相当な決断が必要だったでしょう。なぜなら「携帯ゲーム機本体の売り上げを切る」という意味になるからです。そして、世界で7594万台売れた商品(ニンテンドー3DS)の後継機はいまだに出ていません。一本化することでソフトのラインナップを充実させるメリットはあるにしても、企業の規模を示す「売り上げ」を失うデメリットは恐怖であり、携帯ゲーム機の市場を狙い通り取り込める保証などありません。

 以前、任天堂の関係者に「任天堂はどうしてヒット商品を立て続けに作れるの?」と質問をしたことがあります。即座に返ってきた答えは「成功ばかり見てるけれど、ウチは多くの失敗をしているから」でした。失敗を恐れずに挑戦ができることこそ、任天堂の強さなのかもしれません。

サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

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