米マイクロソフト(MS)が、ゲームソフト大手の米アクティビジョン・ブリザードを約8兆円で買収するという発表を受けて、複数メディアから「MSは将来、買収したゲームソフトを自社のゲーム機で独占して提供するの?」という質問をされました。いわゆる、ゲームソフト(コンテンツ)を自社プラットフォームで独占する「囲い込み」のメリット、デメリットを考えてみます。

◇ゲームファンに根強い「囲い込み」の懸念

 アクティビジョン・ブリザードは、スマホゲームの「キャンディクラッシュ」をはじめ、「オーバーウォッチ」や「ウォークラフト」「ディアブロ」などの人気ゲームソフトを、ゲーム機やPC、スマートフォン向けに出しています。

 その中でも注目は「コール・オブ・デューティ」の動向でしょう。銃を撃って敵を倒していくタイプのシューティングゲームで、スマホ版のダウンロード数だけで5億を突破しました。似たタイプとして、「PUBG」や「荒野行動」「Apex Legends(エーペックスレジェンズ)」「バトルフィールド」「スプラトゥーン」などがあり、世界で大人気のジャンルです。

 今回の買収報道が発表されると「アクティビジョン・ブリザードのゲームソフトは、ソニーのゲーム機に出なくなるのでは?」という見方が出ました。しかしMSは、契約の順守や、ソニーのゲーム機での「コール・オブ・デューティ」の展開は維持すると明言しています。裏返せば、ゲームファンの懸念を解消しようとしているのですね。

 しかし、ビジネスは先のことなど分かるはずもなく、保証などない……というのも確かでしょう。ゆえにゲームファンの間では、アナウンスがあっても「シリーズの新作は独占では?」などという声を挙げるわけです。その背景には、有力なゲームソフトを囲い込んで自社のゲーム機で独占的に供給すると、ゲーム機の普及に有利になるという考えがあるからです。

 人気ゲームソフトが特定のゲーム機のみで出ると、ゲーム機のシェア争いに影響するのはその通りです。20年以上前、スクウェア(現スクウェア・エニックス)の人気ゲーム「ファイナルファンタジー」シリーズが、任天堂からソニーのゲーム機に移籍すると、ソニーがシェアを伸ばし、ソニーは業界の王者になりました。

 ですが時代は変わりました。当時はゲームソフトを出すときに特定のゲーム機に出すのが当たり前で、ソニーか任天堂(もしくはセガ)のどれを選ぶ?となりました。しかし今や複数のゲーム機によるマルチ展開が当たり前ですし、PC、スマートフォンもあります。プレーしたいソフトを遊ぶためにゲーム機を買う消費者もいますが、今や無料でゲームが遊べてしまいます。ゲーム市場の半分はスマホゲームであり、携帯ゲーム機はシェアを失いました。

◇「囲い込み」で困るゲームソフト

 そもそも「囲い込み」という行為は、ゲーム機(プラットフォーム)側には有効ですが、ゲームソフト側からするとメリットが薄いのです。より多くの消費者に触れてもらうため、特定のゲーム機やプラットフォームに依存しない方が好ましいからです。

 そしてこれまでマルチで展開してきた人気ゲームソフトを、特定のゲーム機に「囲い込み」したと仮定しましょう。もちろん、乗り換えてくれる熱烈なファンもいるでしょうが、乗り換えをあきらめる人もいるわけです。すると人気ゲームの売り上げも落ちてユーザー数は減り、コンテンツの価値は下がることになります。

 また、人気ゲームソフトがいなくなったゲーム機には、空いた“スペース”を埋めるように、ライバル企業が同タイプのソフトを提供しようとするでしょう。もちろんシェアを失う覚悟で「囲い込み」をする手もありますが、コンテンツの価値を下げるわけで、経営としては疑問の残るやり方です。

 当たり前ですが、MSも「囲い込み」のメリット、デメリットは理解しているでしょう。2014年にMSは「マインクラフト」のゲームソフト開発会社を買収しましたが、同作はどのゲーム機でも遊べます。「囲い込み」をしても良いのにその選択をしていません。

◇「囲い込み」から「新規層の獲得」へ

 もちろん、任天堂の「マリオ」のように、長年にわたり「独占」をしていれば状況が異なります。その任天堂でさえも長年維持していた「独占」をやめて、スマートフォン用ゲームを配信して新規層の取り込みを図っています。

 特に人気ゲームソフトはより強くなり、スマホゲームはランキング上位が固定されたまま動かず、「勝ち組」「負け組」の二極化が進んでいます。ソニーも自社タイトルをPCで出すなど似たような状況です。「囲い込み」は、多くの消費者に触れさせるというトレンドの戦略に矛盾しているのです。

 そもそも買収して、人気タイトルを囲い込めさえすればライバルに勝てるなら、誰も苦労しません。多くの有力ゲームソフトを保持する任天堂でも、7年前は大苦戦をしたのです。ビジネスは強みが弱みになり、その逆もあるから恐ろしいわけです。

 「囲い込み」は一つの手段に過ぎず、コンテンツの価値を下げかねない後ろ向きな戦略です。そして独占に向くタイトルもあれば、向かないタイトルもあるように、ケース・バイ・ケースです。繰り返しになりますが「囲い込み」には、メリット、デメリットの両方があるからです。そしてMSはソニーとクラウドゲームのソリューション開発で提携しており、単純なライバル関係でありません。

【関連・プレスリリース】ソニーとマイクロソフト、新しいクラウドベースのゲーム体験やAIソリューションの開発に関する戦略的提携に向け意向確認書を締結(2019年)

 MSに求められるのは、「コール・オブ・デューティ」など買収したコンテンツの価値をさらに高めることです。「囲い込み」にしたいなら、アクティビジョン・ブリザードとの開発力を活用し、従来にない斬新な新規コンテンツを生み出してこそですが、それでも多くのファンに触れさせる「導線」をどう確保するかですね。いずれにしても、MSの今後の選択に注目でしょう。