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子供のゲーム高額課金どうすれば良い? 防止策は複雑なのか 問われるリテラシー

河村鳴紘サブカル専門ライター
(提供:kagehito.mujirushi/イメージマート)

 国民生活センターが12日、子供のオンラインゲーム課金トラブルについて注意を促す発表をしました。課金をした当事者が小学生・中学生・高校生という相談件数が2020年度に過去最高の3723件になったそうです。各メディアで記事が配信されましたが、読者との間に「行き違い」があるのではないでしょうか。

 国民生活センターの発表によると、相談件数について2016年度と2020年度を比較した場合、小学生が約4倍、中学生が約2.8倍、高校生が2.3倍に増えています。理由は、新型コロナウイルスの感染拡大の影響が長引き、外出を控えて自宅で過ごす時間が長くなっているからですね。

 記事の見出しは「課金トラブル増加」や「課金で150万円請求も」などという感じです。そして共通しているのは、トラブルの内容は詳しいものの、子供のゲームの熱中ぶりに悩む読者が一番知りたいであろう防止策への言及はそっけないことです。

◇ペアレンタルコントロール もはや必須の知識

 防止策は、親が子供のアカウントを管理、制限する「ペアレンタルコントロール」を活用すること……となっています。

 もちろんそれは事実なのです。ただ「ペアレンタルコントロール」は、対策というより、今やスマートフォンやPC、家庭用ゲーム機を使う上で必須知識です。「知らなかった」では、すまされないところにきています。

 さまざまな企業が「ペアレンタルコントロール」について啓蒙活動をしていますが、一番分かりやすいのが任天堂のサイトのマンガ解説でしょう。

 問題は、各社の活動にもかかわらず、子供の高額課金相談が依然として増えていることです。その背景には「ペアレンタルコントロール」の重要性が、まだ一部では理解されていないことがあるでしょう。同時に「ペアレンタルコントロール」は有効ですが、完璧に近づけるには消費者(親)に相応の努力も求めるからです。

 親の言い分にある「機器の設定が複雑すぎる」という声も、理解できます。PCやスマートフォンの扱いに慣れている人は「何を言ってるの?」でしょうが、不慣れな人も一定数いるのです。だからといって「よくわからないし、面倒だから勉強しない」という理由を正当化できるわけではないのですが……。子供のためを思えば勉強するべきで、知人の助けを得るのも手です。何事もチャレンジです。

国民生活センターの啓蒙資料にあるゲーム課金対策
国民生活センターの啓蒙資料にあるゲーム課金対策

◇試される親の本気度

 ですが、設定はハード的な防止策に過ぎません。重要なのはソフト的な防止策……子供が自ら考えて、自らの行動と感情をコントロールできるかです。「ペアレンタルコントロール」をしたからといって、子供がスマホやゲーム機で何をしているかについて、親が「興味ない」ではトラブルの温床のままです。場合によっては子供が、うそのプロフィールを作ったり、パスワードをつきとめて機器の設定を勝手に解除したりすることもあるでしょう。

 子供のゲームの高額課金を防ぐ最大のカギは、子供と普段からコミュニケーションを取り、子供の趣味を理解した上で寄り添うことです。

 トラブルが起きたときに「スマートフォンの没収」「ゲームの禁止」をすれば、その場は解決するかもしれませんが、子供はゲームの代替を探すだけのことです。親に隠れてゲームをやることもありえるでしょう。また子供の趣味を一方的に否定することは、親子間のコミュニケーションの断絶を意味します。

 自分が子供時代に、親から自分の考えや趣味を頭ごなしに全否定された人もいるのではないでしょうか。一つの人格を持つ子供の趣味を否定し、表向きは変えられたとしても、内面(考え方)を変えるのは大変です。

 親子でコミュニケーションを取るということは、親も子供たちに目を向けて、子供の世界の情報収集をし、やはり勉強(努力)をすることを意味します。多忙である親は「面倒」というのが、本音ではないでしょうか。もちろん、親が何も言わずに理解する「良い子」もいるでしょうが、そうでない子をどうするかです。

 そして子供に対して、表層的に共感するだけではダメということです。人間は賢いので相手の「ウソ」を割と簡単に見抜くケースがあるからです。親も少しでもゲームを触ってみると、子供の心境が分かるかもしれません。親の本気度が試されているわけです。

◇自主性と学び 重要な努力の継続

 課金トラブルはもちろん起きない方が良いのですが、起きた場合はアラート(警告)として捉え、最大限利用するべきです。自分の身の回りでおきたことは理解しやすく、問題の意味を子供に真剣に考えさせられる具体的な「材料」になるからです。

 例えば高額の課金をしたら、家計簿を見せながら、家庭にどんな悪影響があるのかを話し合ってみるのも手でしょう。マヒした金銭感覚は人生を危うくすること。他人の信用を失うことは金では簡単に取り返せないこと。またトラブルを可視化するため、節約して食事を変えたり、請求書を見せたりするのも手かもしれません。

 理解できないのであれば、次の手を打つしかありません。今後も同じことが起きる可能性があるからですね。ゲーム以外の問題……、生活などでのトラブルなどの環境が背景にあるのかもしれませんから、専門家や公的機関に相談するのも手でしょう。

 ただゲームを遠ざけたり、禁止して課金の問題が解決したりするのであれば、誰も苦労しません。家庭ごとに教育方針が異なるのは当たり前で、それぞれの事情があるのも確かでしょうが、「多忙で子供に向きあう時間がない」というのは“免罪符”にはなりませんし、「~のせい」と決めつけず、親に問題がないかも含めて、今一度考えてほしいところです。

 これは「ゲーム課金」だけではなく、インターネットにも通じる問題でもあります。ゲームの課金は、ネットと連動しています。そしてネットは社会インフラとして不可欠です。一方で、ネットは怖い世界です。誹謗中傷をはじめ、いじめの温床にもなり、子供を狙ったり、他人を“食い物”にしたりする人たちもいます。高額課金のトラブルを起こさなくても、人種差別発言や犯罪行為をSNSにアップするようなトラブルを起こしては同じことです。

 最終的には親の力を借りずとも、子供自身がトラブルを察知して回避し、自分の手に負えないと判断すれば、遠慮せず周囲に助けを求める的確な判断力をつけてもらうしかありません。それでも人は完璧ではなく、失敗はあるでしょうから、一生かけて学んでいくしかありません。その姿勢こそ最も大切ではないでしょうか。ネットに限らずリテラシーは必要で、知らないゆえに損をすることがあるから、学ぶしかないのです。「知らない」「興味がない」といった瞬間、そこで終わってしまいます。

 また同時にゲーム業界の側も、ゲームの高額課金の問題について、より真剣に考え続ける必要があります。課金はゲーム会社の収益に直結していますが、トラブルが報道されるたびに、ゲームに対する社会のイメージは悪化しているのも確かです。ゲームに興味のない人たちは、スマホゲームと家庭用ゲーム機のビジネスの違いを考慮しませんから、「すべてのゲームが悪い」となりがちです。だからこそトラブル防止のさらなる啓蒙活動、将来に禍根を残さない仕組み作りも重要です。

サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

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