約3カ月半で800万ダウンロード超の人気スマホゲーム「ウマ娘 プリティーダービー」。1~3月に放送されたアニメのブルーレイ・ディスク1巻の販売数が2週間で16万枚を突破しました。ブルーレイを1万枚売るのが難しい時代ゆえに快挙なのでしょう。しかし、その裏にはアニメの抱える課題があるのではないでしょうか。

◇アニメのブルーレイ 売れない厳しい時代

 「ウマ娘」は、2016年に発表され、アニメやスマホゲーム、マンガを展開するマルチメディア・コンテンツです。実在の競走馬の名前と魂を受け継ぎ、ウマの耳と尻尾を持つ可愛らしい美少女「ウマ娘」たちが、学園生活を送りながらレースに挑みます。テレビアニメは2018年4月~6月(第1期)、2021年1~3月(第2期)に放送されました。スマホゲームは、ウマ娘がトレーニングを積み、レースでの勝利を目指すという内容で、今年の2月にサービスが始まると人気が爆発。同作を手掛ける「Cygames(サイゲームス)」の親会社であるサイバーエージェントの業績が驚異的な伸びを示しています。

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 今回大ヒットしたアニメ(2期)のブルーレイ・ディスクは、全4巻予定。ちなみに「ウマ娘」のアニメは、アマゾンプライム・ビデオなどのサブスクサービスでも現在視聴できます。アニメやゲーム好きでなければ、なぜ売れるか不思議に思うかもしれません。

 アニメのブルーレイは現在、サブスクの普及もあり、苦戦しています。「1巻あたり1万枚売れたら大ヒット。ほとんどのアニメはそこまで売れない」(大手アニメ会社社員)という状況。DVDやブルーレイの売り上げがそれなりに当てにできたのは昔。現在のアニメは、海外での配信権やグッズ販売など手広く収益を集めてカバーしています。

 社会的現象にもなったテレビアニメ「鬼滅の刃」のブルーレイでさえ、1巻あたり2万枚前後です(全巻累計でも20万枚超)。アニメのブルーレイの大ヒットの限界を2~3万枚と推定し、「ウマ娘」の売り上げを見ると10万枚以上の「上積み」は何か?と考えてしまうわけです。

 現在、ブルーレイを売るため、声優イベントの優先抽選券やグッズなど特典を付けるのが常態化しています。特に効果抜群とされるのが、人気スマホゲームのアイテムで、書籍の付録なども使われています。イベントの集客目的で人気ゲームのアイテムを配布すると、ユーザーが殺到するのは珍しくありません。ゲームアイテムは、他の特典よりも大量生産のコストが圧倒的に抑え込めるため、コストパフォーマンスが極めて良いというのもポイントです。

◇「特典」アイテム 課金より効率的

 今回の「ウマ娘」のブルーレイを購入すると、ゲーム版で育成に使え、育成で有利になるアイテム「サポートカード(SSRという最上級ランクで最大レベル)」が手に入る仕組みです。ゲームを遊ぶ人なら「SSRのサポートカードが1万円弱(ブルーレイの価格)で手に入る。入手とカードの育成の手間を考えれば得」と考えるわけで、豪華な特典なのです。

 「ウマ娘」の「10連ガチャ」を回すのに、課金するならおよそ2000~3000円です。ガチャでSSRのサポートカードが出る確率、さらにレベルを限界まで伸ばす手間などを総合的に考えると、ブルーレイを買う方が、ゲームの課金より圧倒的に効率が良いのです。

 金を使う優良な顧客(ゲームの課金プレーヤー)を取り込め、売り上げ増につなげられる人気ゲームのアイテムは、音楽CDの特典につくアイドルの握手券や投票権などと似た部分があります。アニメ「ウマ娘」の場合、ブルーレイ全4巻をそろえると、さらなる特典もつきます。違うとすれば、「ウマ娘」のブルーレイの特典は、全巻セット以上の「上限のない複数購入」を促す仕組みなどになっていないことでしょうか。

 複数購入を上限なくあおる雰囲気のある音楽CD、高額化が問題になっているライブ配信者の課金「投げ銭」に比べ、ある意味適度?な距離感があるともいえます。ファンもその雰囲気を敏感に感じ取り、批判的な意見はあまり見られません。特典で売り上げを伸ばすような商品を「特典商法」と言って嫌う声もありますが、ビジネスとしては見事で、企業と作り手を潤しています。

 そもそも基本利用料のスマホゲームのビジネスは、少数の課金ユーザーがビジネスを支えており、彼らを納得させる仕組みを作り上げた……ともいえます。なおアニメ「ウマ娘」のブルーレイ2巻にも引き続き豪華なサポートカードが付くことが発表されていますから、次の巻も同じだけ売れる可能性が高いでしょう。

 しかし「特典頼み」なのは変わりません。アニメの力では売れないから、ゲームの力に頼りました……という現実が残るのです。

◇アニメは「名作」なのに…

 「ウマ娘」に限らない話ですが、深夜アニメの課題は、人気が出ても大きな収益増加に直結しづらい悩みがあります。マンガであれば単行本が爆発的に売れ、ゲームであればソフトが飛ぶように売れます。アニメについて「無料で見られるし、画は動いて声も付く。アニメはマンガの上位互換」という声もあります。無料が前提だから誰もが触れやすい反面、利用者は金を払うのが惜しくなるのです。普通のテレビ番組は人気が出ると視聴率(広告)でカネに変換されるのですが、深夜アニメはそういきません。基本利用料無料のスマホゲームのビジネスモデルと比べると、アニメは見劣りします。

 「ウマ娘」のプロジェクトを展開するサイゲームスとしては、ゲーム・アニメも含めての総合的なビジネスなので問題ないでしょう。しかしアニメの視点で見ると、アニメの立場は弱いままです。残酷な物言いになりますが、ビジネスは稼ぐ側の発言権が強く、そうでない側の立場は弱いからです。

 アニメのビジネスの限界もあり、大幅な収益増を狙ってスマホゲームとの並行展開をするアニメも増えています。しかしアニメとゲームを同時展開しようとして、ゲームが失敗してアニメが人気になる……というパターンもあるようになかなかうまくいきません。

 特典次第で、商品の本体であるはずのアニメのブルーレイの売れ行きが左右される「特典頼み」の構図は、豪華な付録目当てで買う雑誌と似ています。そんなアニメのブルーレイのランキングであれば、音楽CDのように形骸化しかねません。今回のアニメ「ウマ娘」の驚異的なヒットについて、何人もの関係者に聞きましたが、「アニメ本編のパワーで売れた」と言う人は(残念ながら)いませんでした。

 誤解してほしくないのですが、「ウマ娘」の2期アニメの出来は良いのはその通りで、「名作」という評価も理解できます。ブルーレイのヒットが証明するように、ビジネスとしても成功しているのも確かです。ですが、名作なのにアニメ本編が「付録」のようになって、付録の力でブルーレイの売れ行きが左右されるような構図は、いびつです。繰り返しますが、ビジネスとしては成功していますし、「特典商法」自体は別に悪いわけではありません。その一方でアニメ業界的には、「他力本願」の大ヒットともいえるわけで悩ましいわけです。

 消費者の本音が透けるのがフリマアプリです。アイテムコードのないアニメ「ウマ娘」のブルーレイが低価格で大量に売り出されているのを見ると、複雑な気持ちになります。アニメが「無料の客寄せツール」のような扱いになり、豪華な特典(アイテムコード)が「本命」という状況は、あまりに寂しいのです。