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大ヒットのスマホゲーム「ウマ娘」 月100億円稼ぐのは本当? 決算から考える

河村鳴紘サブカル専門ライター
「ウマ娘 プリティーダービー」(C) Cygames, Inc.

 約2カ月で600万ダウンロードを突破したスマホゲーム「ウマ娘 プリティーダービー」。同作を手掛ける「Cygames(サイゲームス)」の親会社であるサイバーエージェントの決算が4月28日に発表され、各メディアから記事も出ました。しかし記事を読んで「ウマ娘」が好調とは書いてあっても、「どれぐらい稼いだのかよくわからない」と思うかもしれません。

 それは当然で、決算と各種資料には各タイトルの売り上げに触れられていませんから、記事でなかなか踏み込めないのです。ゲーム事業の売上高や営業利益は開示していますが、どこまで開示するかは企業にゆだねられています。要するに「ウマ娘」単体の業績は開示しません……と取ることもできます。

 まあ、これはどのゲーム会社も似たようなもので、任天堂のように詳細の数字を明かす企業の方が少数派です。とはいえ、決算を読み解くと見えてくるものもあります。

◇スマホゲーム事業は「安定」

 サイバーエージェントは「9月期」に通期決算をするので、今回は第2四半期決算(1~3月)となります。この3カ月の売上高は約1634億円、本業のもうけを示す営業利益は約258億円の増収増益。前年同期比で2.1倍に膨らんだ営業利益の大きさがポイントで、半年で通期計画に到達する好調ぶりでした。

 同社のビジネス構造を把握するため、昨年10月に発表された2020年度の通期決算を見ます。事業比率ですが、ネット広告事業が5、スマホゲーム事業が3、「ABEMA」などのメディア事業が1といったところ。先行投資の側面があるメディア事業は赤字で、ネット広告とゲームで支えている……というモデルです。赤字だと悪者扱いされそうですが、新規事業で果敢に勝負しているとも言えます。将来、黒字になって稼ぐと「先見の明があった」と絶賛され、そうでないと投資家から叩かれます(笑い)。

昨年10月に発表された通期決算(年間)。ネット広告事業とスマホゲーム事業が、メディア事業の赤字を埋めています=サイバーエージェントの2020年度通期決算資料から
昨年10月に発表された通期決算(年間)。ネット広告事業とスマホゲーム事業が、メディア事業の赤字を埋めています=サイバーエージェントの2020年度通期決算資料から

 スマホゲーム事業ですが、年間の売上高は毎年着実に伸ばしており、2019年度は約1500億円。営業利益はここ5年は年間300億円前後で推移しており、安定しているのです。同社のサイトでもゲーム事業について「2018年から市場成長が鈍化しつつも、主力タイトルが複数あること、定期的な新規タイトルのヒットが奏功し、安定した事業になっています」と説明している通りです。

サイバーエージェントのゲーム事業の年間売上高(左)と営業利益=同社のホームページ
サイバーエージェントのゲーム事業の年間売上高(左)と営業利益=同社のホームページ

 ところが「安定」のゲーム事業に“確変”が発生しました。第2四半期(1~3月)ですが、部門の売上高が約639億円(前年同期比42.7%増)、営業利益は約232億円(同122.3%増)に跳ね上がったのです。

ゲーム事業の直近5年間の四半期売上高推移。前年同期比も好調ですが当四半期は突出。第1四半期と比べると、当四半期の好調がより際立ちます=サイバーエージェントの2021年度第2四半期決算資料から
ゲーム事業の直近5年間の四半期売上高推移。前年同期比も好調ですが当四半期は突出。第1四半期と比べると、当四半期の好調がより際立ちます=サイバーエージェントの2021年度第2四半期決算資料から

 同社のゲーム事業は「安定」というだけに、ここ5年間の四半期売上高も概ね300億~400億円(最大448億円)で推移していました。それが突然600億円を突破したわけです。動画会見での藤田晋社長の言葉の節々から感じられる通り、今回の「ウマ娘」のブレークは経営陣も想定外で、通期業績予想を大幅に引き上げたことからも明らかです。

 スマホゲーム事業の好調について「新規2タイトルの初速が好調」と説明しています。2タイトルは「ウマ娘」と「NieR Re[in]carnation(ニーア リィンカーネーション)」のことで、「ニーア」のダウンロード数は1000万を超えており、数だけなら「ウマ娘」を上回ります。しかし「ニーア」は、スクウェア・エニックスの作品で、成果は分け合う形になります。そう考えると自社IPの「ウマ娘」の方が業績に貢献していることが推測できますし、動画会見での藤田社長の口ぶりからも分かります。

◇「ウマ娘」 月100億円の話は本当?

 「ウマ娘」について、同作単体で月100億円以上を稼いだと報じる記事もありました。真偽はどうなのでしょうか。

【参考】サイバー、初の時価総額1兆円 「ウマ娘」で収益成長期待(日本経済新聞、3月31日)

スマホゲーム事業の5年間の四半期の営業利益。2021年第2四半期が突出しています。第1四半期と比べると一層際立ちます=サイバーエージェントの2021年度第2四半期決算資料から
スマホゲーム事業の5年間の四半期の営業利益。2021年第2四半期が突出しています。第1四半期と比べると一層際立ちます=サイバーエージェントの2021年度第2四半期決算資料から

 ゲーム事業の5年間の四半期営業利益を見ます。2021年度の第1四半期(11億円)の落ち込みがあるだけに、第2四半期(232億円)の突出が浮き彫りになります。

 スマホゲームは基本的はどれだけ面白くても「飽きる」ので、事業で見ると月日の経過とともに売上高、利益ともに右肩下がり(減収減益)になります。そこで既存タイトルの低下をできるだけ食い止め、新規タイトルを展開することで事業の成長を描きます。

 第1四半期と比べると売上高は340億円増、営業利益は221億円増。前年同期と比べても売上高は191億円増、営業利益は128億円増です。仮に「ウマ娘」と「ニーア」が同規模でヒット、既存タイトルも巻き返したと推定しても、「ウマ娘」が月の売り上げ100億円以上を稼いだ可能性が極めて高いという数字しか出てきません。

 同社の経営陣から「ウマ娘」の収益に関する数字の話は出ていませんが、決算の数字、動画会見の内容が雄弁に語っているのです。「ウマ娘」は2月24日のサービス開始なので、わずか1カ月強でこの数字を積み上げたことも恐ろしいですね。

 気になるのは今後、「ウマ娘」の人気がどこまで持続するかです。サイバーエージェントは通期予想の売上高を5000億円から6000億円、営業利益を「300億~350億円」から「575億~625億円」と上方修正をかけました。動画会見でも触れている通り、「ウマ娘」のヒットがどこまで続くかは誰にも分かりませんから、これらは抑え目に見積もった数字となります。

 仮に月100億円の売り上げが、右肩下がりでもそこそこのレベルで半年、1年続けば、すさまじい売上高・営業利益になるわけです。もちろん人気を持続するために、同社はあらゆる手を打っているでしょう。第3四半期(4~6月)の業績は、注目を引き続き集めそうです。

サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

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