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FF7リメイクのPS5版発売 二極化するゲームファンの反応とは

河村鳴紘サブカル専門ライター
「ファイナルファンタジー7リメイク インターグレード」に登場するユフィ

 昨年4月に世界で発売され、500万本以上を出荷した人気ゲーム「ファイナルファンタジー7リメイク(FF7R)」のPS5版「ファイナルファンタジー7リメイク インターグレード」が6月10日に発売されると発表されました。ところが発表後、ネットでは批判の意見が目立ったようですが、なぜでしょうか。

◇ユフィ活躍の新エピソード スマホゲーム2作も

 「インターグレード」(9878円)は、PS4・PS5向け新作ソフトの映像配信イベント(2月26日)で明らかになりました。内容はPS4版と同じで、FF7の主要キャラクターの一人・ユフィの新エピソードが追加されます。2章構成で、ミッドガルに潜入したウータイ国の「シノビ」たちが、巨大企業「神羅カンパニー」から究極マテリアを盗むミッションに挑む……という内容です。

 既にPS4版を持っている人は100円でPS5版にバージョンアップでき、ユフィの新エピソードは2178円でプレー可能になります。

 なお、PS4やPS5で利用できる有料配信サービス「プレイステーションプラス」の加入者が遊べる今月のゲームにFF7Rが加わりました。

 また「FF7」シリーズのスマホゲームが開発中であることも発表されました。FF7以前の世界を描いたバトルロイヤルのアクションゲーム「FF7 ザ ファーストソルジャー」(2021年配信予定)と、オリジナル版に近い姿でFF7の世界が楽しめる「FF7 エバークライシス」(2022年配信予定)の2タイトルです。

◇キーワードで逆転する「ポジティブ感情」

 ネットで批判が目についたので、傾向を知るために「ヤフー!リアルタイム検索」で「FF7R」と入れてみると、発表から約1週間で「ポジティブ感情」が約4割にとどまっていました。批判の声は総じて「FF7Rの続編を早く出して」「発売から1年でPSプラスに出すのが早すぎる」「ユフィのエピソードがPS4で遊べない」などといったところでしょうか。

 スクウェア・エニックスの広報室に念のため尋ねたところ、ユフィのエピソードはPS4向けに発売する予定はなく、FF7Rの続編ソフトについても「(現時点で新しく言えることは)特にございません」とのことでした。

 さて興味深いのは、上記のリアルタイム検索で「ユフィ」で調べると「ポジティブ感情」が約6割になり、評価が逆転することです。

 私も映像配信イベントを視聴していましたが、欧米好みのソフトが多く、そのためか日本人らしき視聴者のコメントは荒れ気味でした。ところがFF7Rとユフィの姿が映された瞬間、盛り上がりました。ただFF7Rの続編ではなく、同一内容のPS5版と分かった瞬間、テンションは下がりましたが……。それでも、ファンの感情を高ぶらせたのは確かで、キラーコンテンツと再認識しました。

 ただしFF7Rは、PS版とは異なり、1作のみでは終わらず、今後続編が出ることが明かされています。そのため発売前から「分作商法」「価格が高すぎる」などの否定的意見もありました。しかし発売後のプレーした評価は、見る目の厳しい海外の批評サイトなどでも良く、私がプレーしても文句なしの出来でした。それでも否定的な意見がくすぶっている……という感じです。

・FF7 リメーク批判ものともせず3日間で350万本出荷 人気の理由は(昨年4月の発売直後に配信し、ヤフートピックスに採用された記事です)

 PSプラスで気軽に遊べるので、ぜひ未プレーの人はFF7Rを触って欲しいし、今後のコンテンツ展開にも有利に働くでしょう。もちろん考え方は人それぞれでして、「昨年春に1万円弱を出したのに……」と、PSプラスの展開に不満は出るかもしれません。

 ただし、それはFF7Rに限らず、他のソフトも同じです。PSプラスに出すメリットとデメリットは重々承知の上でしょう。そしてPSプラスにソフトの提供を決定する権限は、メーカー側にあり、その恩恵を受ける人がいるだけのことではないでしょうか。

◇巨額の開発費をカバーする多面展開

 今回の批判で感じるのは、FF7Rの続編に対するユーザーの期待の高さ、続編を待つ「飢え」の反動です。ゲームに限らず大作コンテンツは、そう順調には仕上がらない傾向にありますが、「原作のPS版があるのだから続きを早く!」という空気感があるのかもしれません。

 同時にスクウェア・エニックスがFF7Rの世界出荷数(500万本以上)に満足せず、さらなる拡大を期待していることです。PSプラスの展開の意味するところは、ユーザーの獲得であり、PS版をプレーしたユーザーの“掘り起こし”でしょう。そして「プレーしてもらえれば、今後の作品を買ってくれる数が増えるはず」という自信の表れです。スマートフォン用タイトルの2本も、スマホのユーザーを取り込む客層拡大の狙いといえます。

スマホゲーム「ファイナルファンタジー7 エバークライシス」
スマホゲーム「ファイナルファンタジー7 エバークライシス」

 一方で「エバークライシス」の配信時期が2022年になっていること、「インターグレード」の発売が6月であることを考えると、FF7Rの続編の発売は、なかなか大変そうです。そう思っていたら、案外さっくり出てファンを驚かせるというのもありえるのですが……。

 ファンが焦れているように、発売時期の遅れが不利に働く可能性があるのは確かです。FF7Rのシリーズ1作目で盛り上がった熱量が冷めること、かつ発売が遅れるほど開発コストが増大し、ビジネスを難しくするからです。

 ゲームソフトの開発費ですが、PS4やPC用のある程度本格的なタイトルであれば10億円以上と言われています。大作になると天井知らずで、100億円を超える例もあります。FF7Rの場合、費用がかさむグラフィックの出来、本格的な内容、開発期間などからはじきだすと、10億円どころですまないのは明らかです。

 そして「インターグレード」の発売と、スマホゲームの展開は、FF7Rの有効活用という意味もあるのでしょう。今や本格的なゲームソフトでは、開発コストの増加を緩和するため、他コンテンツへの流用というのは常に意識されています。

◇開発者も一人の人間

 繰り返しになりますが、時間をかけると不利なのは、作り手も痛いほど理解しているはずです。それでも「PS版の思い出を壊さず、それ以上の内容に。ファンの期待に応えたい」と考え、品質重視のためにもコスト増をある程度許容しているのは、これまでの動きや経緯から考えても明らかです。仮にビジネス(利益)だけを考えれば、一定レベルまで作って出せばいいはずですが、そうしてないのです。

 皮肉なことに、FF7Rシリーズの質にこだわって時間がかかるほど、一部ファンは「続編まだ?」といらだつ構図です。期待値が高いから、言葉も荒くなるのでしょう。ユフィの新エピソードも「ファンのために」と懸命に作ったはずですが、その感謝よりも、「それより続編は?」と当たりが強くなるわけです。

 私の知る限り、ゲームクリエーターは、ネットの評判を気にしています。そして残念ながら、心無い言葉はわずかであっても、多数の応援よりも印象に残り、相手に深く突き刺さるのもまた事実です。開発者の中には、顔の見えない一部ファンの心無い言葉をスルーできず、打ちのめされることがあるのです。開発者だって人間ですし、立場上言えないこともあるのですから、その配慮は忘れてほしくないと思います。

 ゲームソフトはビジネスで、利益を出さないと続けていけません。それなのに「続編を早く。ゲームの映像や内容の質は高く。分作だから値段は安くね。PS4とPS5の双方に配慮すべき。PSプラスに出したり、リメークをするときは、ユーザーの機嫌を損ねないようキチンと配慮してね」などと言われても、コスト的に不可能でしょう。

 FF7Rシリーズで、何を優先しているかと言えば「クオリティー」でしょう。そうなると発売時期や価格など他の要素の順位が落ちるのは仕方ありません。

 そして批判をするのは自由ですが、せめて言葉を選び、批判する相手に面と向かって言えないような表現は使わないなどの配慮はあるべきではないでしょうか。発売前の人気ゲームに強い言葉で「ダメ出し」をするのはスカッとするでしょうが、それがネットの殺伐とした雰囲気を作り、相手を傷つけている可能性があるのは認識してほしいのです。

 何より作り手を委縮させず、後押しをする方が、最終的にはゲームファンの利益になるのでは……と思うのです。

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サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

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