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ニンテンドースイッチ初の年間出荷2000万台 任天堂2年越しの“リベンジ”【決算解説】

河村鳴紘サブカル専門ライター
任天堂本社(写真:アフロ)

 任天堂の2020年3月期の通期連結決算(2019年4月~2020年3月)が発表され、売上高は前年同期比9.0%増の約1兆3085億円、本業のもうけを示す営業利益は同41.1%増の約3524億円で、3期連続の増収増益でした。他の産業が新型コロナウイルスの感染拡大で苦戦する中で見事な成績ですが、三つのポイントに絞り、もう少し掘り下げてみましょう。

◇スイッチ念願の大台突破

 まず今回の決算の最大のポイントは、「ニンテンドースイッチ」と「ニンテンドースイッチライト」を合わせて、年間2103万台を出荷し、前年度(2019年3月期)に計画未達だった大台の2000万台を突破したことです。2年越しの“リベンジ”で、発売4年目で初の達成となります。年間出荷数2000万台は、PS4なども到達しており、任天堂が突破したかった指標の一つでしょう。

 次はさらなる高みを目指したいところですが、これまでの年間出荷数最高はWiiが2595万台、ニンテンドーDSは何と3118万台と高いハードルになります。

【参考】<ニンテンドーDS>ゲームの“常識”を変えた携帯ゲーム機

 ちなみにWiiとDSは同年度(2009年3月期)にこの数字を達成しており、任天堂の最高益(売上高1兆8386億円、営業利益5552億円)を記録しています。

 今年度(2021年3月期、2020年4月~2021年3月)のスイッチの計画は、1900万台ですね。現段階発表済みの最有力ソフトと言えば、「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」続編になるのでしょう。ただし同作はアクション要素が強く、どちらかと言えばバリバリのゲーマー向けです。よりライトユーザー向けの大きな“隠し玉”がありそうな気もしますが、どうなるか楽しみですね。

◇“天国”の後に“地獄”

 二つ目のポイントは、好調な決算も決して油断できないことです。任天堂の増収増益は3期連続になるのですが、ではスイッチを発売した年、2017年3月期はどんな業績でしょうか。売上高は前年同期比3.0%減の4890億円、営業利益は同10.7%減の293億円でした。今の業績と比べると、売上高は3分の1程度、営業利益は1割以下で、天と地の差があります。

 任天堂は2014年3月期、ゲーム機「Wii U」の販売不振などもあり3期連続の赤字に転落、そこからずっと苦戦していたのです。ゲーム機のビジネスモデルは、これまでも何度か触れた通り、ピークの数年後は確実に下降期があり、“天国”と“地獄”の極端な面があるのです。ライバルであるソニーのゲーム事業(ソニー・インタラクティブエンタテインメント)がまさに“地獄”でして、次世代ゲーム機「PS5」の発売前ゆえに(仕方ないのですが)売上高と営業利益は減る一方です。

 要するに、“天国”の時期に稼ぎ、次のゲーム機など研究開発費に投じることが重要(そして課題)となります。ちなみに任天堂の2020年3月期の研究開発費は、前年度比20.9%増の841億円を計上し、抜かりはないようです。そしてこの結果が、次の「Wii U」になるか「スイッチ」になるかは神のみぞ知る……というわけです。前者になると目も当てられず、後者になればウハウハ。3年後を想像するとゲームビジネスの恐さ(可能性)をひしひしと感じるわけです。

◇不確定要素 悪魔の誘惑も

 そして、新型コロナの動向という不確定要素があります。決算説明資料の最初は、業績ではなく新型コロナの悪影響が列挙されています。消費行動が変わり、ソフトの開発が止まれば、窮地にもなりえるわけです。

 その考えは、今年度の計画にも出ており、売上高は1兆2000億円、営業利益は3000億円。減収減益の予想です。

 あと昔からなのですが、任天堂は「ヒットは水もの」と言われるゲーム開発を担保するため多額の現金(約8900億円、販管費で約3年相当)を保有しています。ところが投資家だと「もったいない」と思うわけですね。つまり「現金をもっと投資に回して収益を上げ、株主に還元しろ」という意見は根強いのです。それに耳を貸さないのは英断だと思いますが、それにしても半分(約4500億円)を運用して年数%でもすごい金額になります。投資に回すと即時の現金化が難しいケースもあり、今回の新型コロナのような不確定要素で一気に株価が下落すれば、当然資産価値は激減します。悪魔の誘惑に抵抗するのはなかなか大変といえます。

◇ダウンロード販売急伸

 最後のポイントは、販売方法の変化によるダウンロード販売の急伸です。もちろん新型コロナによる外出自粛の影響で、ゲームメーカーの追い風になっています。任天堂のゲームソフト全体におけるダウンロード販売の割合ですが、2020年3月期の第4四半期(1~3月)は何と48.5%でした。他社の人気ゲームでもほぼ似たような割合ですが、ビッグヒットの時はパッケージの割合が多くなるため、ここまで伸びるとは驚きです。

 そしてダウンロードの販売比率の高さは、営業利益の増加に直結します。かつダウンロード販売の増加は、中古ゲーム市場にソフトが流出しないことを意味しますから、売上高増にも直結するでしょう。またソフトの期間限定の割り引きセールなども展開できるので、ビジネス的なうまみは増えるかもしれません。

 なお2019年3月期の年間比率は24.8%。2020年3月期は34.0%なので加速度的に進行しています。今年度はどこまで伸び、数年後にパッケージ販売とダウンロード販売の比率がどうなるでしょうか。小売店の影響はどうなるかも含めて、興味深いところです。

サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

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