ソニーのゲーム事業は任天堂の倍 でも巨大すぎて困る話

ソニー本社(写真:アフロ)

 ゲーム事業などを手掛けるソニーの2020年3月期第1四半期(19年4~6月)決算が7月30日に発表されました。先日、任天堂の決算に為替差損・差益の視点で触れたので、ゲーム業界のもう一つの雄であるソニーについても少し違う視点で話をしたいと思います。

 まず、PS4を発売するなどゲーム事業を展開しているソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)はソニーの子会社となります。ソニーのゲーム事業(ゲーム&ネットワークサービス)の成績がSIEの実質的な決算となります。

 ソニーの第1四半期ゲーム事業の部門別売上高は約4575億円、部門別営業利益は約738億円です。前年同期(18年4~6月)の売上高は約4721億円、営業利益は約835億円で、いずれも下回っており減収減益なのですが、ここ数年のソニーのゲーム事業はPS4の欧米でのヒットもあって好調。グループに大きく貢献しています。

【参考記事】決算が苦手な人のために… 2点だけ覚える超簡単な決算の見方」

 部門の減収減益の理由も明確で、PS4の出荷数のピーク(2000万台)は2016年度に迎えており、年々下がっています。今や携帯ゲーム機事業もなく、次世代ゲーム機(PS5)の発表・発売を控えているのを考慮すると、下げ幅が少なく、奮闘しているというのが率直な印象です。しかし、ソニーのゲーム部門の業績を見ても、企業規模のイメージがつかみづらいと思います。そこでわかりやすいよう、比較対象を挙げますね。

 ソニーのゲーム事業の今年度(2019年4~2020年3月)の業績見通しは、売上高が2兆2000億円、営業利益が2800億円です。同じく任天堂の今年度予想は、売上高が1兆2500億円、営業利益が2600億円ですね。単純に比較をすれば、意外に思うかもしれませんが、ソニーのゲーム事業の方が倍近くの売上高予想となります。ぶっちぎりの差があるわけですね。ただし利益率の予想は任天堂の方が良いので、どちらが上なのかは読者の判断にお任せします。

 さて個人的に興味深かったのは、決算そのものでなく、ネットで配信された両社の第1四半期決算記事の本数ですね。任天堂よりも、ソニーのゲーム事業の記事はかなり少なかったのです。ブランド力や規模を単純に考えると、同じくらいか、それ以上に注目を集めそうですが、なぜなのでしょうか。

 それはソニーの事業そのものに関係しているでしょう。同社は大きな六つの事業があり、ゲーム事業といえども、グループ全売上高の約4分の1に過ぎません。従って会見では、ゲーム事業の業績説明や見通し、記者からの質問回数・時間は減りますし、ゲーム機の出荷数も地域別などの詳細な数値は非開示ですから、さらに記事に書くことが減ります。ちなみに任天堂はゲーム機の地域別出荷数、主力ソフトの出荷数は開示しますから、ゲームメディアの注目は薄れるのは否めません。そしてソニーの決算資料のゲーム事業のページを見ても「これは実質的にSIEの決算です」と書かれていませんから、これもスルーの要因にはなりえるでしょう。もちろん、記事として取り上げたいことがないからかもしれませんが、任天堂よりも売上高が上のゲーム会社の決算なのですけどね……。まあそんな事情もあり、売上高が日本一のゲーム会社なのに、その決算記事が薄いということが起きています。

 さらに付け加えれば、ソニーの決算説明会は、ゲームだけでなく、多様な分野の記者がいるので、細かい質問がしづらいことも大きいでしょう。例えばゲーム好きであれば「スマホゲーム『魔界戦記ディスガイアRPG』のサービス延期トラブルをどうするのか」と意地の悪い質問をしたいところですね。しかしソニー(資本金8742億円)からすると、SIEのトラブルならまだしも、SIEの子会社のフォワードワークス(資本金1000万円)の抱えるトラブルです(もちろんファンにとっては大問題ですが)。8兆6000億円(今年度の売上高予想)を差配するソニーの経営陣の視点で見れば、当惑するでしょう。

 そもそもディスガイアのトラブルがソニー本体にダメージであれば、決算で自ら言及しないと会社の信用問題になります。さらにいえば、質問をしたとして、ゲームに関係ない記者からは「質疑応答の時間は限られるのに、そんな小さな質問をするな」という空気になるわけです。他の決算説明会でも、下調べをしていない記者の的外れな質問があると場の雰囲気が悪くなることがあるのですが、それに似た雰囲気になるわけです。記者が鋭い質問をして、経営陣がムキになって返答して場の雰囲気が悪くなることはあるわけですが、それとは全然違うわけです。

 何が言いたいのかと言えば、ソニーの事業が多岐にわたっていて、巨大すぎて困るのです。これがSIE主体の決算であれば、ディスガイアの質問は「あり」でしょうし、任天堂のようにゲーム機の地域別出荷数、主力タイトルの出荷数も開示してくれるはずです。ですがSIEは、ソニーの要の事業となってしまったので、もう切り離しようがないでしょう。こうした事情から、ソニーの決算でゲーム視点のニュースが少なくなるのは、必然なのかもしれません。

ゲームを愛するものの、ゲームには愛されないヘタレなゲーマー。ゲーム好きが高じて、記者として兜倶楽部にも出入りし、決算やメーカーの各発表会、PS3の米国発表会、中古ゲーム訴訟、残虐ゲーム問題など約20年間ゲーム業界を中心に取材をする。合わせてアニメやマンガにも手を伸ばし、作品のモデルになった場所をファンが訪れる“聖地巡礼”現象も黎明期から現地に足を運ぶなどしている。マンガ大賞の選考員も担当しており、好きなジャンルはラブコメ、歴史もの。

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