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「FF 7」 PS4版はリメークだが“新作” リスク覚悟の勝負

河村鳴紘サブカル専門ライター
「FF7 リメイク」

 世界出荷数1億4400万本以上を誇るスクウェア・エニックスの人気ゲーム「ファイナルファンタジー(FF)」シリーズで、屈指の人気を誇る「7」。グラフィックを一新し、戦闘システムも変更するなど作り直した「FF 7 リメイク」が来年3月3日にプレイステーション(PS)4で発売されます。世界最大のゲームイベント「エレクトロニック・エンタテインメント・エキスポ(E3)」で話題となった同作について振り返りました。

 PS4版「FF7」の原作となるPS版(1997年発売)は、ヒロインの一人が非業の死を遂げるドラマチックな仕掛け、映画的な演出を盛り込むなど、後のゲーム制作に大きな影響を与えました。PS版は発売初週で約200万本を売り、10週目で300万本を突破するなど大ヒットとなりました(ファミ通調べ)。当時のPSがゲーム業界の“新参者”であることを考えると驚異的な数字で、業界に大きな衝撃を与えました。

 今回のPS4版「FF7」で感じるのは、スクウェア・エニックスはタイトルにリメークの文字を入れながら、実質は新作として巨額のコストをかけて勝負しているということです。

 人気ゲームをリメークする最大の利点は、短期で制作でき、コストをかけずに一定の売り上げが見込めること。ところがPS4版は、グラフィックは完全に一新され、戦闘システムもPS版とは別もの。これは名作の評価を得ている「FF7」のブランド力を考えたとき、ただのリメークではユーザーの評価が得られないためですが、大規模な手入れを実行に移すことはビジネス面で大きなリスクとなります。特にゲームのシステムに大きな変更を加えるのは、内容調整もかなり必要となるため、相当の期間がかかってしまいます。

 そこで同社が打ち出したのがPS4版「FF7」のリメークを「プロジェクト」にして、1本だけで終わらせない戦略です。ゲームをエンディングまで全部完成させずとも早めに発売できるから、早い段階で収益が確保できます。休眠ユーザーの掘り起こしもでき、話題にもなりやすい。さらにこの方法が成功すれば、他の名作ゲームにも転用できます。

 ただし1作目の出来がカギで、ここで購入者の満足が得られない場合は、2作目以降の売り上げが落ち込み、ブランドに大きな傷がつく危険性もあります。

 そう考えると、プロジェクト第1弾の価格を、「FF15」(2016年発売)の8800円(税抜き)を上回る8980円(同)にしたところは、挑戦的であり、自信の表れともいえます。なおゲームの開発は、開発陣が制作の環境に慣れると驚くような速さで進む傾向にあり、今後はよりスムーズに発売できると踏んでのプロジェクト化でしょう。しかし“続編”の発売に手間取れば、第1弾が好評でもファンが離れることも容易に予想できます。いずれにせよ、もろ刃の剣であるのは間違いありません。

 ただFFシリーズは、これまでもリスクを背負ってきた歴史があります。シリーズの初代FF(1987年発売)は、スクウェア(スクウェア・エニックスの前身)のゲームが売れず“存続の危機”に立たされていたときに「最後(ファイナル)」という意味を込めてつけられたタイトルです。

 そしてPS版の「FF7」の誕生もリスクでした。当時のスクウェアは、ゲーム業界で絶対的な存在だった任天堂と蜜月の関係でしたが、任天堂の新型ゲーム機でソフトの大容量化を望んだことから両社は対立。スクウェアが、大容量化の要望を受け入れたソニーのゲーム機に移籍した経緯があります。その決断は、他社だけでなく、自社からも心配の声があったほどですが、見事に「FF7」は大ヒットし、FFシリーズはさらに飛躍しました。そう考えるとPS4版「FF7」の今回の展開も、同作らしいリスクのある挑戦といえそうです。

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CHARACTER DESIGN: TETSUYA NOMURA/ROBERTO FERRARI

LOGO ILLUSTRATION: (C) 1997 YOSHITAKA AMANO

サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

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