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【Jリーグ】重要なピースになる期待大。2021シーズンのJ1唸らせ補強セブン

河治良幸スポーツジャーナリスト
浦和vs仙台でマッチアップした長澤和輝と長沢駿。長澤は名古屋、長沢は大分に加入(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

Jリーグはすでに多くのクラブが2021年の新体制発表会を行い、いよいよプレシーズン・キャンプに向けた準備が進められています。

2021シーズンの第一登録期間は3月27日までで、さらに補強するクラブもあるはずですが、所属選手の契約更新もおおよそ完了しており、あとは現在もフリーの選手や外国人選手に限られてきそうです。

今回はJリーグ全体を取材・分析対象にしている筆者が「この補強は効果的だ」と唸らされたJ1の補強を7件チョイスしました。

長澤和輝(名古屋グランパス) 

浦和レッズより完全移籍で加入。ACLの本戦から出場する名古屋にとって、これ以上ない補強と言えます。

4ー2ー3ー1を基調とする名古屋は各ポジションにスペシャリストの主力選手を揃えていますが、過密日程やACLを考えるとどうしても各ポジションで不安になります。しかし、1つ1つ補強すると大所帯になりすぎてしまいます。

しかし、この長澤という選手は中盤のあらゆるポジションで機能でき、試合中のシステムや組み合わせの変更も苦にしません。ポジション、役割と”十徳ナイフ”のような選手で、先発でも途中出場でも安定したパフォーマンスを出せる。有事にはサイドバックすらこなします。

それだけなら”便利屋さん”となってしまいますが、アジアでは持ち前の球際の強さと集中力をフルに発揮して一際輝きを放つことができる。2017年には浦和のACL優勝に大きく貢献、2019年にも準優勝を経験しています。

「ACLはJリーグとは戦い方が違う、特徴の違うチーム。グループステージもトーナメントもあるし、難しい状況もあるが、自分のよさも出せる状況もあるので、しっかり求められたことを出せるようにやっていきたい」

そう語る長澤。名古屋の主力ボランチである稲垣祥とは大学時代からの親友という長澤ですが、1年目にして名古屋にフィットする期待は大です。

山本脩斗(湘南ベルマーレ)

”常勝軍団”鹿島アントラーズで多くのタイトル獲得を支え、酸いも甘いも噛み分けたベテランの獲得は湘南に大きなメリットをもたらしそうです。

新体制発表会では「14年目になるので、その経験を生かし、自分の持っているものをチームのために出したい」と語った山本脩斗。最大の持ち味は状況判断と筆者は評価していますが、本人は「ヘディングと運動量」と言い張り、35歳でもバリバリ働く気持ちは満々に見えます。

基本ポジションは左サイドバック。湘南は3バックをベースにしているため、そのまま鹿島のプレーを当てはめられる訳ではないですが、左ウィングバックだけでなく3バック左の起用も予想されます。むしろ3バック左が非常にハマるかもしれません。

本人も強みとしてあげるように、サイドバックの選手としてはかなり空中戦に強かったので、3バック左でもその強みは出せますし、バックラインの空中戦は湘南のウィークの1つでもあったので、山本脩斗の特長を生かさないてはありません。

山本が3バック左で主力に定着すればU-20日本代表の田中聡をボランチで使いやすくなります。ボランチの主力だった齊藤未月がロシアのルビン・カザン、金子大毅が浦和レッズへ移籍。山本と同じ鹿島から名古新太郎を補強したものの、田中聡のボランチ起用は浮嶋敏監督もプランにあるでしょう。

志知孝明(アビスパ福岡)

横浜FCから完全移籍で加入。これに関しては事情を知っているJリーグのファンならほぼ異論はないでしょう。昨シーズン就任1年目にしてアビスパ福岡をJ1昇格に導いた長谷部茂利監督が水戸ホーリーホックの監督時代に指導していた選手の一人であり、2019シーズンの水戸を象徴する存在でした。

左サイドバックの選手としてアップダウンできる運動量は言わずもがな、相手陣内で多彩な飛び出し、持ち上がりを見せてチャンスを切り開ける特徴があります。長谷部監督はシンプルに攻守の切り替えや素早い攻撃を整理して、先制したら負けないチームを作り上げましたが、J1では早い時間帯にリードを許す試合も増えるでしょう。

そうした状況でも志知孝明のようなサイドバックがいれば、攻撃の強度を高めてバリエーション、さらにフィニッシュの厚みを加えることが可能です。アビスパには輪湖直樹という経験豊富な実力者がいますが、5枚の交代枠を考えると仮にベンチスタートでも状況を変えられる貴重なカードになっていきそうです。

仙頭啓矢(サガン鳥栖)

横浜F・マリノスからの完全移籍ですが、昨シーズンは古巣の京都サンガで半年間プレー。19試合で6得点を記録しました。残留、さらに躍進を目指すサガン鳥栖にとって攻撃に鋭さと決定力をもたらせるキーマンの一人です。

右ウィングからインサイドハーフまで、攻撃的なポジションであればどこでもハイレベルにこなせる選手で、チャンスメイクとフィニッシュの両面で期待のできる選手です。個人で仕掛けるだけでなく、コンビネーションを駆使した打開も得意ですが、素早い攻撃であるほど輝けるタイプです。

やはり楽しみなのは京都橘の強力2トップとして選手権を沸かせた小屋松知哉とのコンビが復活すること。もっともプロになってからの二人のポジションやサガン鳥栖での起用法を考えれば4ー4ー2の左右サイドハーフとか4ー3ー3であればウィングとインサイドハーフと言った布陣で、近い距離感で絡むケースは多くないはずですが、個人能力が高い二人が繰り出す仕掛けは相手ディフェンスの脅威になりそうです。

片山瑛一(清水エスパルス)

セレッソ大阪から完全移籍。清水エスパルスの新監督に就任したミゲル・アンヘル・ロティーナ監督が唯一、引っ張ってきた選手ですが、左右のサイドバックとウィングバックをこなせる上に、類まれな身体能力で攻撃と守備にか関わり続けることができます。

繊細なテクニックで何か違いを生み出すタイプではないですが、チームに活動量と推進力、プレーの強度をもたらせる選手です。何よりロティーナ監督のプレーモデルを熟知しているということ。いつどういうプレーが必要なのかを把握して動ける選手がピッチにいることは新監督が采配を振るう上で大きな強みでしょう。

そして身体能力の高さが膠着した状況を打開する鍵にもなり得ます。弾丸ロングスローという武器も持っており、スタメンでも途中からでも必要に応じて起用でき、ほぼ期待を裏切らない片山の存在は新生エスパルスに多くのものをもたらしそうです。

長沢駿(大分トリニータ)

ベガルタ仙台から完全移籍した長身FW。これまでガンバ大阪で2017シーズンに記録した10得点がキャリアハイですが、”カタノサッカー”とも呼ばれる片野坂知宏監督のプレーモデルにピタリとハマれば、大幅に上回る可能性もあります。

清水エスパルスのアカデミーから知っていましたが、当時は細身で柔らかいボールタッチを特長とする選手であり、特にヘディングが強かった印象もありません。しかし、プロで経験を重ねる中で力強さが増し、今ではJリーグを代表する”ハンマータイプ”のストライカーに成長しました。

大分トリニータの生命線がダイナミックな展開を生かしたサイドアタックであり、最前線のターゲットマンとして、左右からのクロスに合わせるフィニッシャーとして攻撃にパワーをもたらしそうです。

これまで大分というと藤本憲明(ヴィッセル神戸)をはじめとした裏ぬけを得意とする選手が1トップを担うことが多かったですが、ポゼッション時に相手に引かれるとかなり苦しくなる傾向がありました。J1で3シーズン目となる大分としては何か新しいものを加えていくとなった時に、長沢駿の高さとパワーはかなり強力な武器になり得ます。

右サイドからの正確なクロスを武器とする黒崎隼人(栃木SCから)や長沢と全くタイプの異なる機動力抜群のFW渡邉新太(アルビレックス 新潟から)と言ったプレーモデルに合うタレントを加えており、彼らが”カタノサッカー”にハマると過去2シーズン以上に相手にとって厄介な存在になりそうです。

ディエゴ・ピトゥカ(鹿島アントラーズ)

これまでの6人と少し違う視点で外国人から”ラストワン”を選びました。ブラジルのサントスから完全移籍。大卒、高卒、ユースから昇格の新人選手をのぞき、補強を外国人選手のみにとどめた鹿島は就任2年目となるアントニオ・カルロス・ザーゴ監督のもと、完全な継続路線となっています。

その鹿島にあってMFアルトゥール・カイキ(アルシャバブから)とともに加入が決まったディエゴ・ピトゥカは鹿島が再びリーグ戦やカップ戦のタイトルを獲得するための重要なピースになりうるタレントです。

1月30日に予定されるリベルタドーレス杯の決勝に参加してから来日、さらに新型コロナウイルス禍における隔離期間を経てのチーム合流となりますが、まず南米王者を決めるリベルタドーレス杯の決勝に進出しているチームの主力を担っている実績と経験を軽視できません。しかも準決勝の2ndレグでアルゼンチンの名門ボカを相手に先制ゴールを奪ったのが外でもないディエゴ・ピトゥカです。

攻撃的なボランチという位置付けの選手で、中盤の底から的確にボールを捌き、機を見てバイタルエリア、時にはボックス内に走り込んでチャンスやフィニッシュに絡んで行くことができます。チームの戦術ベースが固まってきたザーゴ監督の鹿島がもう1つ進化するために必要なものを持っている選手と言えます。

もう1つ重視したいのはブラジル国内からの移籍でありながら、スムーズな戦術フィットが期待できること。近年のサントスが積極的に”欧州化”を進めるブラジル国内でもモダンなスタイルのチームであるということです。

ディエゴ・ピトゥカは2018年に率いた”鬼才”ホルヘ・サンパオリやポルトガル人のジェズアルド・フェレイラのもとレギュラーに定着。現在は経験豊富なブラジル人のクカ監督が率いるサントスの主力を担っていますが、ザーゴ監督のもとでも、鹿島が熱心に追い続けただけのものをもたらす可能性はかなり高いと思います。

スポーツジャーナリスト

タグマのウェブマガジン【サッカーの羅針盤】 https://www.targma.jp/kawaji/ を運営。 『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを製作協力。著書は『ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)『解説者のコトバを知れば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)など。プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。NHK『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の”天才脳”」監修。

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