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「日本代表は全員に開かれている」。ハリルホジッチの目が大いなる競争を刺激する。

河治良幸スポーツジャーナリスト

ハリルホジッチ監督が就任して最初の合宿が23日からスタートするが、代表メンバー発表の記者会見後に霜田正浩技術委員長が行った記者向けのブリーフィング(囲み取材)で、メンバー選考に関していくつか興味深い情報が入った。

まず今回招集する31人に関して、霜田委員長の談話によれば、周囲からのアドバイスはあったものの、基本的にハリルホジッチ監督が自らチェックして招集を決めたということだ。

「僕がこいつどうだ、あいつどうだと聞かれて答えることもありましたけど、だいたい自分で1試合、2試合のビデオは観ていますので、こっちに来て観た選手もいる。ほとんど彼が、彼が全て選んだ訳ではないですけど、自分で手元に置いてみたいというメンバーがこの31人です」(霜田委員長)

もちろん海外組は合流の2週間前には招集レターを出さなければいけないため、あらかじめ固まっていた部分があるのは仕方ないが、31人という大人数になった背景には、目に留まった選手をより多く手元に置きたいという意図が表れている。

「このリストを作るのは本当に簡単ではなかった。まだ十分に各選手のことを知っているわけではない」とハリルホジッチ監督は語っていたが、それを承知で可能な限り自分が選びたい選手を入れたということになる。

就任会見では従来のメンバーとほぼ同じになることを示唆していたが、特にJリーグに関しては実際に視察やチェックを重ねる中で、より自分のチョイスを反映させたい強まったのかもしれない。

また12人のバックアップメンバーに関しては合宿には参加せず、怪我などで欠員が出た場合、必要に応じて招集を要請するということ。それは豪州のWSWでプレーする高萩洋次郎、スイスのバーゼルに所属する柿谷曜一朗にも当てはまるが「レターは送ってない」(霜田委員長)ため、いざ招集する場合は交渉が必要になる。

彼らに関しては事実上、チームの構想に入っているというメッセージを示す目的がメインだろう。いやむしろ、招集レターが間に合わない彼らをバックアップメンバーに加えたということは、ハリルホジッチ監督が非常に評価している可能性が高い。高萩にしても柿谷にしても、今後しっかり高いパフォーマンスを継続できれば、6月に向けては正規メンバーに入るチャンスが大きいのではないか。

そもそも今回は31人という大所帯で、バックアップメンバーを含めて各ポジションで直接ライバルになる選手も明確にしている通り、ダイナミックな競争をあおっていることは間違いない。

選外となったベテランの遠藤保仁や大久保嘉人に関しても、必要なタイミングが来た時に良い状態を維持できていれば招集する可能性があることをハリルホジッチ監督も明言している。

「今回はフレンドリーマッチで色んな制約がないので、これがW杯の予選になると23名以上はピッチにいられないとか制約が出てきます。ですので、常に30人、40人を呼ぶと決めているわけではありません」

そう語る霜田委員長が「ラージグループに入るのも競争」と説明する様に、その時によって招集される人数も変わってくるのだろうが、重要なのは次のラージグループが誰になるかは確定していないということだ。

「まだまだ入る可能性のある選手もたくさんいます」という霜田委員長の言葉を裏付けるのが、メンバー発表の記者会見におけるハリルホジッチ監督の発言だ。

「ある試合を見た。我々のスタッフは誰も教えてくれなかったのだが、ある選手に目がいった。これは将来に向けて良いかなと思った」

この“ある試合”が生で視察した2試合(3/14 FC東京×横浜F・マリノス、3/18ナビスコカップの川崎フロンターレ×名古屋グランパス)なのか、どこかの試合映像なのか定かではないが、ハリルホジッチ監督にそこまで言わせる可能性のあるメンバー外の選手がいるということだ。

また今回はアジア予選のため対象外となったU-22日本代表にも言及しており、今後タイミングを見ながらメンバーに加えていくはず。手倉森誠監督がアギーレ体制から引き続き、コーチングスタッフに入ることもあり、所属クラブはもちろんU-22日本代表でのパフォーマンスがA代表につながってくる。

まずは31人の選手が最初の合宿と2試合でどうアピールするのか。怪我の内田篤人、長友佑都、今野泰幸はプレーできないが、切磋琢磨して今後の定着を目指してほしい。

同時に、今回はバックアップメンバーに選ばれた選手、さらに選外となった選手たちもJリーグで、海外クラブでしっかり結果を出し、次のチャンスにつなげてほしい。もちろん、それは所属クラブの勝利に貢献することが前提になる。

今朝、ブンデスリーガの中継でハンブルク×ヘルタ・ベルリンの試合を観たのだが、原口元気が途中出場ながら、攻守に渡る意欲的なプレーでチームの勝利に貢献した。

前節のシャルケ戦に続く連続ゴールこそならなかったが、左ウィングで守備にも奮闘し、攻撃に転じれば自陣から懸命にスペースを走ってチャンスに絡もうとする姿があった。

ゴール前に走り込んでパスが来ないと、がっかりした態度で次の準備が遅れてしまう姿は見られたものの、懸命にボールを追い、懸命にしかける姿は浦和ユースに昇格したばかりの彼を思い出させた。

「6月の合宿に向けては、もっと知識があると思う」と語るハリルホジッチ監督は日曜日には大分の宿泊施設に入り、週明けの合宿に備えるそうだが、可能な限り週末の試合もチェックするはずだ。

「日本代表は全員に開かれている」といった言葉は過去の代表監督も口にしたが、ハリルホジッチ監督は最初のメンバー選考でそれを実証した。選手たちには今まさに、日本代表への大きなチャンスが開かれている。ただし、その要求は非常に高い。

スポーツジャーナリスト

タグマのウェブマガジン【サッカーの羅針盤】 https://www.targma.jp/kawaji/ を運営。 『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを製作協力。著書は『ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)『解説者のコトバを知れば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)など。プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。NHK『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の”天才脳”」監修。

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