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ドイツとの準決勝で歴史的な大敗を喫したブラジル代表。前半の5失点を検証する。

河治良幸スポーツジャーナリスト

ドイツに1-7という歴史的な大敗を喫したブラジル代表。前半29分までに5失点。この時点で勝敗は事実上、決してしまった。

ネイマールを負傷、チアゴ・シウバを出場停止で欠いたブラジルだが、非常に高い緊張感で試合に入っていた。この時点での“インテンシティー”はむしろブラジルの方が高かったかもしれない。しかし、ドイツはうまくブラジルのプレッシャーを受け流しながら、チャンスを狙っていた。

ドイツの先制点はマルセロがドイツ陣内でボールを失い、ケディラがクロースとのワンツーで攻め上がったところを、マルセロが全力疾走で止めた直後のCKだった。

ゴールのニアサイドに密集した状態で、クロースが右からファーサイドに蹴りいれると、ミュラーがニアから素早くスライドして右足で合わせた。これはおそらくドイツが狙っていた通りのサインプレーで、練習で仕込んでいたものだろう。CK時にマンツーマンで守るブラジルに対し、わざと空けておいたスペースにミュラーが飛び込む。

しかも、ニアの密集状態で数人の選手が細かく動いてブラジルのマークを混乱させたため、ミュラーのあまりにスムーズな動きに、とっさにリアクションしたダビィ・ルイスも付ききれなかった。

クローゼのW杯歴代最多得点を更新するゴールとなった2点目は、今大会でもおそらく最も美しいコンビネーションからのフィニッシュだった。右サイドからのパスを受けたクロースがフェルナンジーニョを引きつけ、DFラインの裏にスルーパス。そこにクローゼとクロスオーバーしたミュラーが左ワイドに走りこみ、中にリターンしたパスをクローゼが決めたのだ。

この得点自体、チアゴ・シウバがいたとしても防げていたかどうかは分からない。問題は0-2になったことで、ブラジルの選手たちが意気消沈してしまったことだ。ラームが右サイドを突いて出したクロスをクローゼが1タッチで左に流し、ミュラーが右足で流し込んだ。

見た目は非常に綺麗なゴールだったが、2点目と違うのはブラジルの守備があまりに淡泊だったことだ。崩したというより、空いているスペースをそのまま使った形のゴールだった。

こうなると、もはやブラジルは完全に集中力を失ってしまった。4点目はダンテのパスを受け損ねたフェルナンジーニョのイージーミス。5点目はルーズになった中盤をディフェンスのビルドアップからシンプルに中央を貫通される形での失点だった。

後半はブラジルが開き直った様に攻撃的なサッカーを見せたが、容赦ないドイツはシュールレが2点を追加した。やはり悔やまれるのは”リードした側にとって最も危険な点差”とあれる0-2から立て直すどころか、それまで張り詰めていたものが切れた様な状態になってしまったことだ。

戦前からメンタルの問題が指摘されてきた今回のブラジル代表。心理状態というのは外から断定できるものではないが、0-2という状況でも折れないビハインドメンタリティを欠いていたのは確かだろう。もっとも、ブラジル代表の背負うものの大きさが、ドイツのしたたかさと相まって、早い時間帯で2点のビハインドを背負った状況で、パニック状態となって表れたのかもしれない。

空席が目立ち始めた試合の終盤、ミネイロンのスタンドにはドイツ国歌が響き渡った。最後はオスカールが意地のゴールを決め1-7としたが、3大会ぶりの優勝を目指し、ある意味で勝負に徹してきた開催国の戦いは、あまりにあっけない形で幕を閉じた。

スポーツジャーナリスト

タグマのウェブマガジン【サッカーの羅針盤】 https://www.targma.jp/kawaji/ を運営。 『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを製作協力。著書は『ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)『解説者のコトバを知れば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)など。プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。NHK『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の”天才脳”」監修。

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