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元日本代表“闘将”&元Jリーガー監督のタッグで、花巻東高が「サッカーで東北8強」

川端暁彦サッカーライター/編集者
延長後半、待望の決勝点を喜ぶ花巻東イレブン(写真:川端暁彦)

開幕した東北新人大会で新鋭が勇躍

 福島のJヴィレッジに、勝利の雄叫びがこだました。高校サッカーの名門・秋田商を下し、「おそらく東北大会で初めての勝利」(清水康也監督)を刻んだのは、高校野球の名門として知られる花巻東だった。

 29日から始まった東北高校新人サッカー選手権大会。コロナ禍の影響から高校サッカー選手権優勝校の青森山田など4校が参加を見合わせる状況となる中で1回戦の4試合が行われた。そのうちの一つが、「ずっと県の8強止まり」(清水監督)だった岩手県を1位で抜けてきた花巻東と秋田商のゲーム。そしてこの試合を延長戦の末に2ー1と制したのが花巻東だった。

 チームを率いる清水監督は1982年生まれの39歳。かつてはベガルタ仙台、サガン鳥栖、そして東京ヴェルディなどでプレーした元Jリーガーで、2018年シーズンを最後にスパイクを脱ぎ、指導者へと転身。翌年からこの岩手へとやって来た。

 清水監督が遠く岩手の地で監督生活をスタートさせた理由は、柱谷哲二テクニカルアドバイザーにある。かつて日本代表のキャプテンを務め、“闘将”の異名で知られた名手は、清水監督にとっては“ヴェルディ”の大先輩であると同時に国士舘大時代に指導を受けた恩師でもある。その“闘将”とのコンビで花巻東の指導が始まり、今年度で3年目(来年度から4年目)となった。

 特待生制度や人工芝グラウンドの整備などの強化策も進んでおり、今年の2年生(新3年生)には県の強豪ヴェルディSS岩手の選手たちが一気に加入し、戦力的にも底上げされた。「本当にまだまだで課題だらけ」と清水監督は言うものの、強化策が実りつつあることは結果が現しつつある。初めて県の1位を奪ってこの東北新人大会に臨んできたのはその現れだ。

柱谷哲二テクニカルディレクター(手前)と清水康也監督。国士舘大の先輩・後輩でもある
柱谷哲二テクニカルディレクター(手前)と清水康也監督。国士舘大の先輩・後輩でもある

待望の岩手制覇から東北8強

 いまより遥かに奔放でヤンチャな選手が揃っていた時代のヴェルディユースで育った清水監督にとって、花巻東での生活は最初からカルチャーショックの連続だったようだ。

「家族4人で引っ越してきたんですが、佐々木洋監督と野球部の選手たちが手伝ってくれたんですが、とてつもなく組織化されていて、部員の教育も行き届いている。挨拶からしっかりしているし、勉強もやるしで……。自分は彼らとは逆にダメ人間だったので、これが勝負どころでの強さにも繋がってるのかと思わされました」

 生徒指導に関しては「自分を反面教師として教えている」と冗談交じりに語りつつ、「自分も一人の人間として勉強させてもらっている」とも言う。選手としては傑出したセンスを持つテクニシャンだったが、だからこそ現役時代の自分が足りなかった部分についても自覚があると言う。「自分は謙虚じゃなかったので」と、選手たちを少しでも伸ばすために工夫を凝らす日々だと言う。

 一方、選手たちは「野球部の良いところをマネして良くしていこうとしている」(FW中村翔大)と謙虚に語りつつ、同時に「花巻東は野球部だけじゃない。サッカー部もあるというところを見せたい」(中村)とも意気込む。この東北新人大会はそのための格好のアピールの場でもあるわけで、選手にとっては自らの進路を切り開くための戦いの舞台でもある。

 県大会制覇は野球部の佐々木監督も「ものすごく喜んでいただいた」(清水監督)快挙だったが、そこで満足する気はない。

「僕は謙虚さを持っていなかったけれど、ちょっと勘違いしているくらいの野心を持っていて、それがサッカーでうまく働いた部分もある。選手たちには謙虚さを持ちつつ、大きな野心も抱いてもらいたい」(清水監督)

 大谷翔平を筆頭に逸材を輩出し続けている野球部の領域には当然まだまだ遠い。ただ、「僕も柱谷も、この高校からサッカー選手を出したいと思っているし、本気でそこを目指している」(清水監督)。この日の勝利は、そんな「花巻東サッカー部の野心」にとって、重要な一歩となるのかもしれない。

サッカーライター/編集者

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。2002年から育成年代を中心とした取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月をもって野に下り、フリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』を始め、『スポーツナビ』『サッカーキング』『サッカークリニック』『Footballista』『サッカー批評』『サッカーマガジン』『ゲキサカ』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。著書『2050年W杯日本代表優勝プラン』(ソルメディア)ほか。

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