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「目標は一人の脱落者も出さないこと」(東福岡・森重監督)。コロナ禍の高校サッカー選手権、無観客で開幕

川端暁彦サッカーライター/編集者
リモート中継で石倉潤征主将の選手宣誓が行われた(写真提供:オフィシャルサポート)

大晦日の等々力にて

 2020年の大晦日、青空の下で99回目の高校サッカー選手権が始まった。コロナ禍の影響により開会式と開幕戦は見送られ、リモート録画での開会式を実施。試合前には各会場を映像で繋いだ上で、前橋商業高校・石倉潤征主将により選手宣誓も行われた。

 等々力陸上競技場で行われた第1試合では地元の桐蔭学園高校と東福岡高校が対戦。一回戦屈指の好カードだった。前半は桐蔭が押し気味に試合を進める時間帯もあったが、東福岡は隙を逃さず左サイド攻撃からFW日高駿佑が2得点。見事に東福岡が初戦突破を決めた。

「プレーどうのこうのよりも大切なことがあった」

例年とは違った雰囲気の中で、1回戦に臨んだ東福岡高校イレブン(写真提供:オフィシャルサポート)
例年とは違った雰囲気の中で、1回戦に臨んだ東福岡高校イレブン(写真提供:オフィシャルサポート)

 試合後、ビニールで遮られる形の特殊な取材対応スペースへ現れた東福岡・森重潤也監督は「勝ててホッとしている」としながらも、誇らしげな雰囲気をまとうこともなく、神妙な表情でこう語った。

「今日に関しては、プレーどうのこうのよりも試合ができたことがまず良かったです。僕らも感染者を出して医療従事者の皆さんに負担をかけるようなことがないように、練習で言う以上に(コロナ対策について)気を付けるように選手たちには言ってきました」

 また今大会の目標についても、「もちろん福岡県の代表として出るからには勝利を目指す」としつつ、「選んだメンバーの中に一人の脱落者も出ないこと」を何よりの目標として挙げた。試合後となれば、どうしても「じゃれついたりする選手たちもいる」が、そこは厳しく注意を喚起し、サッカーのことであっても「話があるなら部屋の外でするように」と促すなど、神経をすり減らしながら準備してきた。

「バスケットボールでも全国大会を辞退するチームが出ていて、サッカーでも起こり得ることだと思っていた」(森重監督)

 子どもたちの大会への思いを知るからこそ、チームの責任者としてこの大会へ無事に参加できたことに安堵した様子で、会見冒頭の「ホッとした」に込められたのは、単に初戦で勝ったからというだけでなく、そうした思いもあったのだろう。

 敗れた桐蔭学園・八城修監督も、「細心の注意を払いながら準備してきた」とした上で「こうした中で試合をさせていただいたことは、本当に感謝しかありません」と述べ、選手たちがコロナ禍の中で、最後の大会に臨めることが何より大切だったことを表した。

 リモートの選手宣誓で前橋商業の石倉主将は、公式戦を戦えないままに引退を余儀なくされた他競技の3年生たちにも思いを馳せる一文を挿入していた。関係者のみに観戦が許されるイレギュラーな環境の中とはいえ、「何とかやらせてあげたい」という関係者の思いが詰まった99回目の高校サッカー選手権が、静かな開幕を迎えた。

サッカーライター/編集者

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。2002年から育成年代を中心とした取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月をもって野に下り、フリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』を始め、『スポーツナビ』『サッカーキング』『サッカークリニック』『Footballista』『サッカー批評』『サッカーマガジン』『ゲキサカ』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。著書『2050年W杯日本代表優勝プラン』(ソルメディア)ほか。

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