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所詮は初戦。U-17W杯、勝って兜の緒を締めたい第2戦のポイントとは?

川端暁彦サッカーライター/編集者
オランダ戦は守備で効きまくった158cm「小さな巨人」三戸舜介(写真:佐藤博之)

まだ慌てるような時間じゃない

 ポチリとメッセージを開いて目が点になった。

「川端さん、もし日本が優勝したらこんなテーマで原稿をお願いしたいんですが……」

 いやいやいやいやいや。

 待て待て待て待て待て。待てィ。

 取らぬ狸の皮算用にも程がある。確かに日本の若きイレブンは、U-17W杯の初戦で欧州王者のオランダに3-0での勝利を収めた。内容的にもスペシャルだった。認めよう。すごく気持ち良かった。最高だった。

 だが、所詮は初戦である。

 勝ち点3を手にしたに過ぎず、グループステージ突破は欠片も決まっていない。ラウンド16のことを語るのだってはばかられるというのに、優勝? 気が早い。早すぎる。

 そもそもこのグループDが「死の組」と評されていたのは、オランダが同組だからというだけではないし、もちろん「DグループだからDEATH(死)」というダジャレからでもない。残り2戦の相手であるアメリカ合衆国(以下、米国)とセネガルが手強い相手だと分かっていたからである。先を見るのは早すぎる。

 同じような懸念を森山佳郎監督も感じていたのだろう。「この年代は凄く良い試合をした次の試合は必ず難しくなる」と表情険しく語る。

「メディアの皆さんからも色んな話が出てきているので、『勘違いするなよ』ということはかなり言って締めました。あれだけの集中とハードワークがあったからこそ、あのゲームができたんです。『俺たち強いぜ、うまいぜ』となった瞬間から、まるで違うゲームになってしまう可能性がある」

 指揮官から問題を喚起されたメンタル面については改めて選手側も感じているようで、「ホントにみんなでもっともっと集中して、オランダ戦のような雰囲気を作っていかないといけない」とMF三戸舜介(JFAアカデミー福島U18)も強調する。

 メンタル面に加えてもう一つの懸念材料は、フィジカルコンディションの部分にある。圧倒的なハードワークで相手を凌駕した戦いから中2日という短いインターバルで迎える第2戦は簡単ではない。指揮官はこうした点を見据えて大会前から「毎試合数人ずつ、消耗の激しい選手から先発を入れ替えて戦うイメージを持っている」と語っており、実際にそうした起用になりそうだ。代わりに先発する選手、そしてベンチから登場する選手たちは肉体的にも精神的にもフレッシュなので、彼らのパフォーマンスは大きなポイントとなる。

 中2日の練習のうち、1日はリカバリーに充てているため、試合への準備ができたのはわずか1回のトレーニング。戦術的支度という意味では、現地入りしてから入念に練り込めたオランダ戦のようにいかない部分もある。森山監督が「本当は実際に体を動かしながらやったほうがいいのだが、ここで運動負荷は上げられない。言葉でイメージさせるほうを大切にした」と言うように、前日練習では11対11の形に選手を並べつつ、実際にゲームを行う時間は限定的にして、相手の戦術的な動きや選手の特長を説明しながら、その対策を示すことにとどまった。それだけに、第1戦以上に選手たちの自主的な思考力・判断力が重要になるだろう。

ドルトムントの俊英が引っ張る米国

U-17米国代表メンバー。4人の欧州組を含むラインナップだ
U-17米国代表メンバー。4人の欧州組を含むラインナップだ

 U-17W杯最多出場という地味な記録を持つ米国は、今回の予選を北中米カリブ海地区の2位で通過してきた。ただ、「メキシコとの決勝も内容では米国が上回っていた」というのが森山監督の見方である。実際、大会1カ月前の親善試合で米国はオランダも破っており、「油断できるような相手じゃない」(同監督)のは間違いない。第1戦ではセネガルに結果として1−4の大差をつけられて敗れてしまったが、「あれが本当の米国の姿だとは思わないほうがいい」(同監督)というのは、第2戦に向けて肝に銘じておくべきだろう。

 米国の基本システムは[4−3−3]([4−1−4−1])。外へ外へという展開が多く、結果として「クロスボールが多い」(GK鈴木彩艶=浦和レッズユース)チームである。このクロスに対する入り方はかなり徹底されており、逆サイドの選手を含めて怖い位置へ入ってくるので、ここの対応(そもそも上げさせないことを含めて)は一つの鍵になりそうだ。米国の伝統的なスタイル通り、かなりメカニカルな(アメフトやバスケなどのアメリカンスポーツを彷彿とさせる)スタイルはこのチームにも共通するものなので、試合の中で相手のチームとしての狙いをしっかり把握しながら対応していく必要がある。

 もちろん警戒すべき「個」もいる。最も有名な選手としては今季開幕前にドルトムントのトップチームにも帯同していた10番のジョバンニ・レイナの名前が挙がるだろう。かつて米国代表の大黒柱だったクラウディオ・レイナの子息であり、早くから将来を嘱望されてきたタレントだ。左ウイングに位置する彼は、攻撃の起点としても機能しつつ、フィニッシュワークでも脅威となる。

 また「かなりの曲者」と前日練習で森山監督も選手に警戒を促していたのが7番のインサイドハーフ、ジャンルカ・ブシオ(スポーティング・カンザスシティ)だ。運動能力の高さと技術的な精度、嫌な位置取りをする戦術的なセンスを持った選手で、急所へのパス供給源であり、得点力もある。このチームでは通算15試合7得点と、このポジションの選手としてはかなりハイペースでゴールを決めてきた実績もある。

 もう一つケアしておくべきは、やはり「パワーのある選手が揃っている」ことから来るセットプレーの破壊力。世界舞台でのパワー勝負でも負けないであろうGK鈴木彩艶という頼もしい存在もいるが、そもそも危険地帯でファウルしない部分は改めて徹底しておく必要があるだろう。前日練習では相手のセットプレーに対する術策も伝授されていたが、ショートCKやクイックリスタートなどを使った奇襲もあるチームだけに、臨機応変な即応力も問われることとなる。

とはいえ、自信は持っていい

 オランダ戦の大勝から中2日を経て迎える米国戦。兜の緒を締める必要があるのは間違いない。先を見すぎるのは自滅への道だ。

 ただ、あの試合が偶発的なパフォーマンスでなかったことも間違いない。積み上げてきた戦術的な練度をしっかり表現し、メンタル面でも自分たちをコントロールすることができていたし、二つのゴールシーンに代表されるテクニカルな要素でもしっかり“らしさ”は出したし、通用していた。

 そしてもちろん、個人として“戦う”部分でも負けていなかった。「対面がリバプールの結構注目されている選手だったので燃えていました」という158cmの三戸がコンタクトプレーでも怯まずに向かっていって実際にボールを奪い取っていたのは一つ象徴的な部分だった。ああしたテンションを保ちつつ、積み上げてきたものを出せれば、勝てない相手でないことも間違いない。

 油断は大敵だが、自信は持っていいし、どこが相手でも恐れる必要がないことは第1戦で十分に示せた。堂々と戦い、そして勝ってノックアウトステージへの権利を掴み取るのみだ。

サッカーライター/編集者

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。2002年から育成年代を中心とした取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月をもって野に下り、フリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』を始め、『スポーツナビ』『サッカーキング』『サッカークリニック』『Footballista』『サッカー批評』『サッカーマガジン』『ゲキサカ』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。著書『2050年W杯日本代表優勝プラン』(ソルメディア)ほか。

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