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消化試合ではなく、離陸試合。イラクに5-0大勝のU-19日本代表、いざ完全アウェイマッチへ

川端暁彦サッカーライター/編集者
イラクに5−0と圧勝したU-19日本代表の選手たち(写真:橋立拓也)

グループ第3節という転換点

 グループステージ第3節は、その先にある決勝トーナメントを占う材料になる。グループステージとノックアウトステージで構成される、いわゆる「W杯方式」の大会における鉄則だ。これは3戦目にチームの命運が懸かるシチュエーションならば当たり前の話に過ぎないが、すでに勝ち抜けが決まっているチームの場合にも当てはまる。

 ありがちなパターンは、すでに2連勝してグループ突破を決めているチームが控え組の選手を出すこと。ただ、ここでショボショボな試合をしてしまうと、2連勝で沸いていた勢いが雲散霧消してしまうのもよくある話である。控え組の頼りなさというのは不思議なほどに主力組へ悪影響を及ぼすもので、突き上げを感じなかったチームは下降線へと入っていく。何しろ練習で主力組が常に「対戦」することになるのは控え組なのだ。その相手がパワー不足とあっては、チーム力の向上は望めない。もちろん、控え組から「下剋上」を果たす選手が出てくれば、それは戦力の向上に繋がるわけだ。

 25日にAFC U-19選手権グループステージ第3節を迎えたU-19日本代表も、似たようなシチュエーションにあった。2連勝してグループ1位通過は確定済み。影山雅永監督は「消化試合とは考えていない」ということを強調してトレーニングに臨み、ここまで出番のなかった選手たちからは「俺たちの番だ!」と言わんばかりのテンションの高さも感じられた。影山監督はそんな「試合に飢えている選手たち」(影山監督)を軒並み先発に組み込み、この一戦に臨んだ。

イラク戦のスターティングイレブン。MF山田康太(19番)ら6名が初先発(写真:橋立拓也)
イラク戦のスターティングイレブン。MF山田康太(19番)ら6名が初先発(写真:橋立拓也)

 イラクと対峙したこの第3節、先発メンバーではGK大迫敬介(広島)、DF小林友希(神戸)、荻原拓也(浦和)、MF滝裕太(清水)の4人が今大会初出場。MF山田康太(横浜FM)とFW原大智(FC東京)も初めて先発メンバーに名を連ね、これで日本は3人目のGK若原智哉(京都)を除いた23名中22名が先発出場を経験する形となった。

日の丸を背負う特別な舞台で

 GKの大迫は、この一戦に期するものがあった一人だろう。年下のGK谷晃生(G大阪)にポジションを奪われる何とも悔しい形で、大会が始まってから難しい時間を過ごしてきた。だが、いざ練習となれば溌剌としたプレーを見せ、率先して荷物運びをこなすなどチームの雰囲気を悪くするような振る舞いは決してしなかった。むしろ「俺と智哉で支えないといけない」と谷への気遣いも欠かさなかったが、胸中が穏やかだったわけでは当然ない。

「正直言って悔しい思いはあります。でもその思いを出すのはあくまで、こうやってグラウンドに立ったとき。僕らにとって、こういう国際試合の公式戦に日本代表として出るのは、本当に特別なことなので」(大迫)

GK大迫は様々な思いを胸に秘めつつ、勇ましくピッチに立った(写真:橋立拓也)
GK大迫は様々な思いを胸に秘めつつ、勇ましくピッチに立った(写真:橋立拓也)

 並々ならぬ気迫を漂わせていた大迫は開始3分で、イラクのFWと1対1になる決定機を阻止。「自分でも凄く落ち着いていて、ボールを持っている選手も、パスを受ける選手もしっかり見えていた」と振り返ったとおり、ラストパスが出る絶妙なタイミングでシューターとの距離を詰めたビッグセーブだった。結果的に日本の圧勝となった試合だったが、久々の試合になる選手が多い中でここで先制点を献上していたら、果たしてどういう試合になったか分からない。大きな意味を持つセービングだった。

 11分にはこの試合のファーストチャンスにしてファーストシュートとなる形で、久保建英(横浜FM)のラストパスを受けた初出場の滝が先制ゴールを流し込む。悔しい思いを溜めてきた二人による攻守の大仕事は、チームの士気を自然と高めるものだった。

滝(16番)の先制点を久保(左)、山田(19番)、原(大きい人)らが激しく祝福(写真:橋立拓也)
滝(16番)の先制点を久保(左)、山田(19番)、原(大きい人)らが激しく祝福(写真:橋立拓也)

 そこから始まったのは日本のゴールラッシュ。27分には、こちらも初出場となる荻原のアシストからエース格のFW田川亨介(鳥栖)が今大会初ゴール。34分には初先発のFW原も決めると、後半にも原、そして交代出場のFW斉藤光毅(横浜FCユース)のゴールで2点を追加した日本が大量5得点。守っても初先発のDF小林が落ち着いた対応を見せ続け、今大会初完封を達成。5-0の大勝で、グループステージ最終戦を締めくくることとなった。

 

小林友希(左)や荻原拓也(右)といった今大会出場機会のなかった選手たちがしっかり仕事をこなした(写真:橋立拓也)
小林友希(左)や荻原拓也(右)といった今大会出場機会のなかった選手たちがしっかり仕事をこなした(写真:橋立拓也)

「(試合に出られていなかった選手は)いろいろ複雑な胸中もあっただろうし、『この野郎!』とそういう気持ちがなかったらウソになると思う。でもそれを押し殺しながらチームのために献身的に戦ってくれた結果だと思う」(影山監督)

 今回のU-19日本代表は「タレント軍団」との声も多く、実際にJリーグや年代別日本代表でのキャリアを持つ選手がズラリと揃っている。それだけに、実績のある選手たちをベンチに座らせることにはある種の困難が伴う。そうした選手が雰囲気を悪くするのは至って簡単な話で、そこに大会の大きなポイントがあった。

 だからこそ、この第3節は勝ち点計算の上では紛れもない消化試合でありながら、世界大会出場権の懸かる準々決勝を前にした準備試合として重い意味を持つ一戦でもあった。控えに回ってきた選手たちの大爆発による大勝利は、そうした不安要素を木っ端微塵に叩きつぶす、そんな価値があったわけだ。

「ピッチの外で悔しさを出すべきではないと思うし、逆にこうやって機会が巡ってきたときに、(谷)晃生にいい刺激を与えられるようなプレーを見せれば、(若原)智哉を含めたGK3人の関係がもっと良くなると思ってプレーしました」

 そう語った大迫の笑顔は、何よりこのチームの強さを象徴していたと言えるし、大一番へ向かうチームにとっての追い風となったに違いない。

勝てば世界、負ければ解散の大一番

ベンチの選手とピッチに立った選手が一つになって喜び合ったこの感触は、決戦への推進力に変わる(写真:橋立拓也)
ベンチの選手とピッチに立った選手が一つになって喜び合ったこの感触は、決戦への推進力に変わる(写真:橋立拓也)

 地元インドネシアとの準々決勝は、5万人の大観衆が詰め寄せると目され、まさに完全アウェイの戦いとなる。技術や戦術以上に、まず心理面の強さが問われるであろう戦いに向けて、チーム一丸の雰囲気が醸成される“離陸試合”を演じられた意義は極めて大きい。

「23名の選手全員、スタッフ全員で戦い抜く」

 28日の準々決勝は、そう強調し続けてきたU-19日本代表にとっての一大決戦。「まだ何も為し遂げていない」(影山監督)チームが、来年のU-20W杯出場権獲得という大事を為し遂げるための大切な戦いとなる。

サッカーライター/編集者

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。2002年から育成年代を中心とした取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月をもって野に下り、フリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』を始め、『スポーツナビ』『サッカーキング』『サッカークリニック』『Footballista』『サッカー批評』『サッカーマガジン』『ゲキサカ』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。著書『2050年W杯日本代表優勝プラン』(ソルメディア)ほか。

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