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世代融合の象徴「NMDトリオ」、森保ジャパンの船出は疾走感と共に

川端暁彦サッカーライター/編集者
「世代融合」の新たな風、南野拓実(右)と堂安律(中央)が輝きだした(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

鋭く、楽しく、小気味良く

 鋭敏にして俊敏、巧緻でいながら野性味も漂う。個が際立ちながら、連動性と共有感もあり、シンクロするプレーの連続は、心地良さすら感じさせてくれた。NMDなのか、DMNなのかは知らないが、中島翔哉、南野拓実、そして堂安律が居並んだこの日の日本代表のセカンドラインに何か「名前」を付けたくなった感覚はよく分かる。

「『楽しくやろう』と言ってしまったら楽しくできない」と言った中島が「自然と湧き上がってくる楽しさがあった」と語っていたのも印象的だった。観ているわれわれも同様に「楽しそうだな」と思っていたわけで、そういう意味で観衆との一体感もあったように思う。そう、W杯ベスト8のウルグアイを向こうに回したこの試合、純粋に面白かったのだ。

 漂う野心と使命感を隠さない20歳の堂安の言葉が象徴的かもしれない。

「これからの日本を強くするのは僕たち次第だと思っていますし、もしこれで負けていれば、何か言われていたと思うので。世代交代の話もある中で、『自分たちが』というのを国民の皆さんに示せたかなと思います」

 ロシアW杯に出場していた選手が徐々に合流してくる中で、次代を担うのだと自負する堂安たちが最も言われたくない言葉は「香川真司がいれば」「本田圭佑なら」といったフレーズだったことは想像に難くない。ウルグアイ相手に勝つことでそうした外野の雑音を黙らせてやろう。そういう気概もあったわけだ。

堂安の「変化」、南野の「進化」

 かつての堂安は、こうした入れ込み具合が裏目に出てしまうことも多かったと思うのだが、この日の彼に力みはなく、先月からの進歩を強烈に感じさせるものだった。印象的だったのはボールへボールへと寄るばかりでなく、あえてサイドに張って我慢したり、オトリの動き出しになることも苦にしないプレーぶりだが、これも森保一監督の薫陶、そして“NMD効果”なのだと言う。

「森保さんのサッカー(で要求される部分)として、縦パスが入ったときに3人目(ボールの受け手と出し手に加えて、さらにもう一人の動き出し)として関わるところは、代表に入って変わったところだと思います。今日も何回も裏へ抜け出してという形がありましたけれど、今までの自分にはなかったシーンだと思う。走るだけで点を取れるというか、それは今までにない感覚。(中島)翔哉くんとか(南野)拓実くんが個人のところで打開してくれるので、すごくやりやすいですし、すごく楽しかった」

 堂安個人に限った感覚ではない。1.5列目で躍動して2つのゴールを叩き込んでみせた南野もまた「翔哉も律もどんどん前に仕掛けて相手を翻弄していたので、すごく自分としてはやりやすかった」と振り返る。

 攻撃のユニットとしての機能性というだけでなく、個としての進歩も強烈に感じさせる内容だった。南野は「(所属チームで)スタメンで出られなくとも成長できることはあると思って腐らずにやってきて、変わらずプレーし続けていたからこそ、ちょっと成長しているなと感じられている」と噛みしめるように話した。代表から離れた期間が長く、W杯のメンバーからは落選。ただ、その苦節の流れ自体、この若者を一回り成長させたように見える。

 優しげな語り口で試合を振り返りつつ、「これでアジアカップのメンバーに入れなかったら意味がないし、そこにいてもワールドカップのメンバーにいなかったら意味がない。自分は前回のW杯で悔しい思いをしているので、チームに帰ってもレギュラー争いが待っているので地に足着けてもう一回、やっていきたい」という言葉からは、独特のギラギラした感覚ものぞかせた。

偉大な先輩たちの「融合」

 オフ・ザ・ボールやハードワークの部分で目に付いた堂安だが、個人的にちょっとビックリしたのはボールキープの部分である。ちょっと今までにないトライをしているように見えたからだが、これについて堂安が語るのは「めっちゃ収まる」大迫勇也の影響だ。

「練習から(大迫を)『どうやってキープしているんだろう?』と思って観ていた。(吉田)麻也さんからもアドバイスをもらって、先に体を当ててとかいろいろやってみて、言葉にするのは難しいんですけれど、『ああ、この感覚か』みたいなところもあって……」

 ウルグアイ戦は序盤のデュエルで手ごたえがあったと言い、「右手と右のお尻あたりでキープできるなという感覚はあって、無理そうなところでも腕でこうグッと行けるところがあった」と振り返る。欧州での「練習からバチバチやる」日々を通じ、純粋に肉体的な強さも増し、デュエルの感覚的な部分が磨かれたところもある。そして代表では「本当に凄い先輩たち」からの刺激でさらなる進化の糸口も掴んだ。

 森保監督が掲げる「世代融合」の効果も見えてきた。W杯組について堂安は「本当にサッカー以外のところでもおもしろい人たちで、毎回の食事で話を聞くのが楽しみだった」と笑顔で語ったオフ・ザ・ピッチでの刺激に加え、ピッチ上でも彼らが果たしていた役割は大きい。挑戦的な若者たちを陰ながらサポートし、できそうな穴は未然に塞いだ。

 この試合で大いに目立ちまくったNMDトリオだったが、「全然競り負けることなく、しっかり収めていたし、守備でチームを助けるプレーもしている」と南野が舌を巻いたセンターFWの大迫、「安心感があります」と中島が語った左サイドバックの長友佑都、そして「何をしてもあの人が合わせてくれる」と短期間で堂安が全幅の信頼を置くようになった右サイドバックの酒井宏樹といったW杯組の安定したプレーがあったからこそ成立したバランスがあったのも確かだろう。

 堂安と中島が「攻撃では自由にやらせてもらった」という趣旨のことを語っていたにもかかわらず、攻撃がカオスになるどころか、むしろ戦術的な秩序が感じられた。堂安が中に入れば、酒井が高い位置を取る、あるいはその逆の動きを取るといったバランシングの部分をナチュラルな形で表現できていて、攻撃に関して「いて欲しいところにいない!」というストレスを感じるシーンが極めて少なかった。この辺りもまた、「察しと思いやり」をベースにした、“日本人らしい”サッカーの萌芽が見えたと言えるのかもしれない。

「森保丸」の可能性は見せ付けた

 当然ながら、この日の試合内容、あるいは試合結果をもって「森保ジャパンの未来は安泰。アジアカップも貰った!」などと言うのは早計に過ぎる。親善試合であることは割り引いておくべきで、この試合を観たアジア各国の監督は、日本との真っ向勝負を避ける決断を下すことだろう。真価が問われるのはこれからだし、うまく行き過ぎたチームが硬直的になって進化を止めてしまうのもよくある話。アルベルト・ザッケローニ監督が誕生し、香川真司が代表の軸になっていったあの時代と似た匂いを感じた10月シリーズだったが、逆に言うと、あの流れを繰り返す愚は避けておきたいところでもある。

 もっとも、進化と変化を求められる流れになったとき、A代表監督が五輪代表監督を兼任している効果が出てくるとも思うので、ことその点に関しても過度に悲観する必要もないかもしれない。

 いずれにせよ、「世代融合」をテーマにしている新生日本代表の船出は順風満帆のものとなった。きっと嵐は来るだろうし、風が吹かないこともあるだろうけれど、「森保丸」という船そのものの可能性と、未来への航路図の存在を、存分に感じさせる一夜となった。

サッカーライター/編集者

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。2002年から育成年代を中心とした取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月をもって野に下り、フリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』を始め、『スポーツナビ』『サッカーキング』『サッカークリニック』『Footballista』『サッカー批評』『サッカーマガジン』『ゲキサカ』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。著書『2050年W杯日本代表優勝プラン』(ソルメディア)ほか。

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