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ブラジルW杯の敵討ちはならず。U-19日本代表、国際ユース大会初戦でコロンビアに苦杯

川端暁彦サッカーライター/編集者
君が代を聴く日本のイレブン。集中力を持って試合に入ることはできていたが……

恒例の国際ユース大会が開幕

8月14日、藤枝総合運動公園サッカー場(静岡県)を舞台に、SBSカップ国際ユース大会が開幕した。1977年に創始された50年近い歴史を持ち、現存する中では日本最古の国際ユース大会である。地元TV局であるSBS(静岡放送)の冠大会であることからも分かるように、TV放送と連動することで地域に定着。今日まで歴史を刻み、お盆の時期の恒例行事となってきた。幾多の日本代表選手に加えて、過去にはロナウジーニョやクライファートといった世界的な名選手も足跡を残している大会である。

恒例行事だけに客入りも好調。とりわけ地元の静岡ユースには熱い声援が贈られる
恒例行事だけに客入りも好調。とりわけ地元の静岡ユースには熱い声援が贈られる

今大会には来年のU-20W杯を目指し、10月にアジア最終予選を控えるU-19日本代表に加えて、ブラジルW杯でもグループリーグ最終戦で当たったU-19コロンビア代表、そしてアジアのライバル・U-19韓国代表が参戦。地元の静岡ユース(静岡県の高校年代オールスターチーム)を加えた4チームによる総当たり戦で優勝を競うこととなった。

第1戦が14日、第2戦が15日、第3戦が17日開催。40分ハーフとはいえ、かなりのハードスケジュールとなる。

アジアのライバルは危機的状況?

「相手が年上であっても引かないで前から行こう。"静岡らしい"良いサッカーで勝とう」

第1試合、武田直隆監督からそう送り出された地元・静岡ユースは士気高く、アジアの虎・韓国へと挑んだ。開始5分にはいきなりの先制点。左CKから最後はヘディングに定評のあるDF松原后(浜松開誠館高校)が頭でねじ込み、1-0とリードを奪う。リズムを掴めない相手に対して静岡が完全に主導権を握る時間も作り出した。

しかし、韓国も29分にFWチョ・ジェワンが同点ゴール。そのまま勢いに乗るかと思われたが、静岡が上背のない左SB水谷拓磨(清水ユース)が「相手に狙われていた」(武田監督)ことを察して高い位置へ配置転換したことが攻撃面でも奏功。その水谷のゴールとPKで追加点を奪い、逆に韓国のパワープレーを含めた反撃を1点でしのいで、試合終了。3-2で国家代表を地方選抜が破るアップセットを為し遂げた。次の相手は日本代表だが、臆するところは何もなさそうだ。

敗れた韓国のキム・サンホ監督は「皆さんが観たとおりだ。われわれのチームの完成度は5~60%程度に過ぎない。組織力、ディフェンスの力が不足していた」と脱帽の様子だった。もっとも、この言葉を額面どおりに受け取るのも危険だろう。この試合だけを観れば、アジアのライバル国が危機的状況にあるという解釈すら可能だが、この静岡戦の先発メンバーでAFC・U-19選手権予選にエントリーしていたのは主将のDFイム・スンギョム(高麗大)ら、わずかに3名。Kリーグに所属する選手はほとんど招集できないなど主力の多くが不在で、メンバー構成的に格落ちの印象があったのは否めない。このチームがそのまま秋の最終予選(日本と同グループ!)に現れると思わないほうが良さそうだ。

韓国から先制点を奪ったDF松原后。アトランタ五輪代表FW松原良香の甥っ子だ
韓国から先制点を奪ったDF松原后。アトランタ五輪代表FW松原良香の甥っ子だ

日本vsコロンビア、再び

第2試合はブラジルW杯の再戦となる日本とコロンビアの一戦。ユニフォームを観るだけで自然と観る側のモチベーションも上がってくるのだが、入場を待つ選手たちを観ていると……、驚愕。デカイ、そしてゴツい。本当に19歳以下なのかと疑わざるを得ない巨体の選手たちである。ディフェンスラインは左から185cm、188cm、183cm、180cm。両ボランチは189cmと183cm。そしてGKアルバロ・モンテーロ(サン・カエターノ/ブラジル)は195cm・92kg。単に長身というだけでなく、肉厚で骨太。威圧感すら感じさせる立ち姿に「本当にデカかったよね」とU-19日本代表・鈴木政一監督も苦笑いを浮かべた。

試合前の集合写真。いつもの感覚で距離を取ったら、大きすぎて足が入らなかった……
試合前の集合写真。いつもの感覚で距離を取ったら、大きすぎて足が入らなかった……

同時にそれは「我々にとって良い経験」(鈴木監督)ともなった。「普段の彼ら(日本の選手)であれば、悪い状況で受けたときにワンタッチ、ツータッチでプレーはできている。でも今回は相手の身体能力・足の長さで奪われて悪いリズムで奪われて守備に回されてしまった。特に中盤で奪われることが多くてリズムを崩してしまった」と指揮官が語ったように、身体的な能力差が確実にある中で、日本はなかなか普段のようにボールを動かせずに苦しんだ。前半はドリブル突破で一人気を吐いていたMF金子翔太(清水エスパルス)も後半に入ると相手のマークにつかまり、「後半は何もできなかった。最後の局面での1対1や球際は本当に強かった。抜いた後でもファウルで止めてくる。日本でやっていると感じられない、そんな感覚があった」(金子)。

「このチームは特に攻撃の選手で狭間の世代が多い」と鈴木監督が言うように、攻撃陣はU-17W杯など大きな国際舞台を経験せず、タフな国際経験の蓄積がない選手が多い。その意味でも、コロンビアのような相手とやれたことで得た収穫はあった。ただ一方で、試合の中でそんな相手に慣れて、なおかつ打開していくような強さを発揮してほしかったというのは少し欲張りだろうか。いや、そこまで求めておかないと、やはり「W杯で勝つ」という究極目標を満たすのは不可能だろう。

試合はCBフアン・キンテーロ(デポルティーボ・カリ)を核とするコロンビアの守りを崩せない日本に対し、日本もGK中村航輔(柏レイソル)、三浦弦太(清水エスパルス)&中谷進之介(柏レイソル)の両CBが奮戦。スコアレスで推移する展開となった。だが両チームに消耗が見えてきた72分だった。交代出場のFWダリオ・ロドリゲス(サンタフェ)がクサビのパスから巧みに前を向いてボールを運んで右足シュート。チャレンジ&カバーの関係性が崩れていたところで小さなスペースでも技術を発揮する見事なプレーで、日本のゴールネットは揺らされ、この1点で勝負は決した。

コロンビアのカルロス・レストレポ監督は「日本は非常に秩序があって整ったプレーをするチームだった」と評価する一方で、「日本は湿度が高く、長旅の疲れもあった。非常にハードなコンディションだった」と見事に勝ち切った選手たちをねぎらった。その秘訣として同監督が挙げたのは「80分間のパワー配分ができていて、忍耐強くゴールチャンスが来るのを待てたこと」。逆に言えば、日本が欠いたのはまさにこの点でもあったのかもしれない。

果敢に突破を仕掛ける金子。惜しいシーンも作ったが、得点には至らず
果敢に突破を仕掛ける金子。惜しいシーンも作ったが、得点には至らず

試合記録

U-19日本代表 0-1 U-19コロンビア代表

[得点]

72分:ダリオ・ロドリゲス(コロンビア)

[先発]

GK

中村航輔(柏レイソル)

DF

石田崚真(ジュビロ磐田U-18)

中谷進之介(柏レイソル)

三浦弦太(清水エスパルス)

内田裕斗(ガンバ大阪)

MF

川辺駿(サンフレッチェ広島)

大山啓輔(大宮アルディージャ)

金子翔太(清水エスパルス)

汰木康也(モンテディオ山形)

FW

表原玄太(愛媛FC)

越智大和(産業能率大学)

[交代]

51分:汰木→坂井大将(大分トリニータU-18)

55分:表原→諸岡佑輔(福岡大学)

サッカーライター/編集者

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。2002年から育成年代を中心とした取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月をもって野に下り、フリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』を始め、『スポーツナビ』『サッカーキング』『サッカークリニック』『Footballista』『サッカー批評』『サッカーマガジン』『ゲキサカ』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。著書『2050年W杯日本代表優勝プラン』(ソルメディア)ほか。

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