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グランアレグリア、ラヴズオンリーユー、クロノジェネシスが分け合った19年牝馬三冠を振り返る

勝木淳競馬ライター

18年牝馬三冠はアーモンドアイの独壇場。その後の活躍は周知の通り。最強女王として20年ジャパンCまで競馬界をけん引、国内外で芝G19勝の偉業を達成した。

ずば抜けた成績を誇る女王も素晴らしいが、その下にあたる19年牝馬クラシック世代の層の厚さも負けていない。

桜花賞馬グランアレグリア、オークス馬ラヴズオンリーユー、そして秋華賞を勝ったクロノジェネシス。短距離、海外、そしてグランプリで主役を張った3頭が今年、相次いで引退。これを機にこの19年牝馬クラシックを振り返り、その足跡を改めて称えたい。

■桜花賞 グランアレグリア

19年牝馬クラシック第一戦桜花賞。グランアレグリアとクロノジェネシスが出走。ラヴズオンリーユーは当日9R忘れな草賞へ。2歳11月、2勝目をあげた白菊賞こそマイル戦だったが、そのレースでマイナス14キロだったことを踏まえ、陣営は暮れの2歳G1をパス。放牧に出し、成長を促した。その後はアクシデントで休養が長引き、桜花賞出走権を獲得できなかったことから、最大目標をオークスに切りかえ、賞金加算のために忘れな草賞に回った。その思惑通り、同レースを快勝。ひとあし先にオークスの出走権を手中に収めた。

さて、桜花賞だ。クロノジェネシスは暮れの阪神JF2着。負けたのはグランアレグリアに新馬戦で敗れたダノンファンタジー。その後、年明け初戦のクイーンCで重賞タイトルを獲得。本番に駒を進めた。桜花賞では着実に歩みを進めてきた堅実派という評価を受け、3番人気だった。

対照的だったのがグランアレグリア。牡馬相手のサウジアラビアRCを序盤、折り合いを欠きながら勝ったことで、陣営はペースが遅くなる牝馬同士ではなく、少しでも間隔がとれる朝日杯FSを選択。2番手から抜け出しながら、最後は内にささり、3着。

その後はトライアルをパス、中111日という異例の出走間隔で桜花賞に向かった。アーモンドアイと同じく、これまでの常識を覆すローテーションだったためか、最終的にはチューリップ賞も勝ったダノンファンタジーに譲る形で2番人気だった。

レースは前半800m47.7の超スローペース。グランアレグリアもクロノジェネシスもスムーズではなかった。これ以上は我慢できないとばかりにグランアレグリアが先に仕掛けると、最後の600mは10.8-11.0-11.5、以後も最大の武器になる瞬発力を発揮、一気に後ろを引き離した。最後は暮れのG1と同じくラチを頼る若さをのぞかせながらも、2着シゲルピンクダイヤに2馬身半差つけ、圧勝した。

クロノジェネシスはスローペースの内枠が災いに。前半で外から馬に入られ、スペースがなく、道中はどんどん位置を下げることになった。4コーナー出口で外に進路を求めるも、前が開かず、直線半ばでようやく進路ができると、残り200mだけ末脚を伸ばして3着。脚を余し気味な内容から距離延長に希望をつないだ。

■オークス ラヴズオンリーユー

桜花賞馬グランアレグリアはNHKマイルCに向かい、不出走。以後、マイル以下のG16勝をあげる名牝はここから自分の得意な道を歩む。クロノジェネシスとラヴズオンリーユーがここで激突。舞台は東京芝2400m。クロノジェネシスは予想通り、中距離戦になったことで、同じ内枠でも桜花賞のように下がることはなく、好位4番手へ。ソツのない立ち回りでインから一旦先頭をうかがう。

しかしこのレース、前半1000m59.1と息が入らない流れ、かつ残り800mからコントラチェックやカレンブーケドールが早めにスパート。最後800m11.7-11.4-11.6-12.3と好位勢に厳しいラップになった。好位から攻めたクロノジェネシスも結果的にキツイ競馬になり、最後は先に動いた2着カレンブーケドールとの競り合いで遅れ、またも3着に敗れた。

先行勢に厳しいペースのなか、ラヴズオンリーユーはスタート後から急かすことなく、中団の外目を追走。流れが向いたことは確かながら、馬群がひと塊で進んだため、後方までどの馬にとっても消耗戦。最初から後方にいた馬しか最後に脚をつかえなかったなか、ラヴズオンリーユーは中団から上がり最速34.5を記録。

ラスト100mで前にいたカレンブーケドール、クロノジェネシスを一気に捕らえた。タフな流れに強く、スピードの持続力と爆発力を証明。この長所がBCフィリー&メアターフなど年間海外G13勝につながった。

■秋華賞 クロノジェネシス

ラヴズオンリーユーがアクシデントのため、秋華賞を回避。結果的に2歳G1、牝馬三冠皆勤は3頭のなかでクロノジェネシスただ一頭。そのクロノジェネシスもオークスからぶっつけで秋華賞に出走。夏をゆったりと休養させたことで、馬体重はプラス20キロの452キロ。春は脚長で華奢な印象だったが、秋華賞のパドックでは四肢を大きく伸ばし、力強さが際立った。

それでも休み明けで大幅な馬体増が嫌われたか、最終的に4番人気。いま思えば低すぎないかと思うが、当時は春クラシック3、3着、堅実ながらあと一歩足りないという評価は当然だった。

だが、そんな善戦タイプは夏の休養で心身ともにたくましく変身。ビーチサンバにコントラチェックが絡み、前半1000mは11秒台連発の58.3。オークス以上の厳しいペースになったなか、クロノジェネシスは中団のインコースをキープ。

後半はペースが上がらず、追走に苦労する馬が目立つ、脱落戦を馬なりの手応えのまま最後の直線へ。京都内回りのキツめのコーナーを利用し、外に出る。そこから追い出されると、その爆発力に抵抗できる馬はいなかった。

さらに勝つごとに体をグングン増やし、それとともにパフォーマンスを向上、最終的に引退レースの有馬記念では478キロ。オークスで記録した最低馬体重432キロから46キロも増えた。

その成長力はグランアレグリアやラヴズオンリーユーをしのぐほどだった。成長によって身につけたスタミナを武器にグランプリ三連勝を達成。欧州最高峰の凱旋門賞にも挑んだ。

スピードと瞬発力のグランアレグリア、海外で強い爆発力を発揮したラヴズオンリーユー、タフでスタミナに優れたクロノジェネシス。

三者三様。それぞれが違う個性をもち、様々な舞台で女王に輝いた。こんな世代、そうはない。さらに同期にはBCディスタフを勝ち、歴史的大偉業を遂げたマルシュロレーヌまでいる。まさに牝馬最強世代だ。

同期三頭の顔合わせは残念ながらクラシック以後も見られなかった。果たして5歳で対決したらどうなっていただろうか。もちろん舞台にもよるだろうが、夢の対決もぜひ見てみたかった。その夢の続きはやがてターフに帰ってくる産駒たちに託したい。

競馬ライター

かつては築地仲卸勤務の市場人。その後、競馬系出版社勤務を経てフリーに。仲卸勤務時代、優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)、AI競馬SPAIA、競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』にて記事を執筆。近著『競馬 伝説の名勝負』シリーズ(星海社新書)

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