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木枯らし1号に思うこと

片山由紀子気象予報士/ウェザーマップ所属
30日正午の東京都心は快晴、風は北北西の風3.6メートル(ウェザーマップ)

 2年連続で木枯らし1号なし。史上初といわれるが、木枯らし1号がいつから定着したのか、はっきりしない。木枯らし1号の記録は1946年から残る。

わずかに届かず

 木枯らしとは晩秋から初冬にかけて吹く強い季節風のことで、いつしか気象庁が発表する「木枯らし1号」に注目が集まるようになりました。東京地方の木枯らし1号は10月半ばから11月末までの期間限定のため、今日中(30日)に強い北風が吹かなければ、今年は木枯らし1号がなかったことになります。

【東京地方の木枯らし1号の発表基準】

1.期間は10月半ばから11月末まで

2.気圧配置は西高東低の冬型で、東京で強い季節風が吹く

3.風向は西北西~北で、最大風速は8メートル(風力5)以上

 しかし、まったく吹かなかったとは言えません。こちらは今月20日午前9時の地上天気図です。

2019年11月20日午前9時の地上天気図(気象人より)
2019年11月20日午前9時の地上天気図(気象人より)

 

 この日は冬型の気圧配置が強まり、東京では最大風速7.2メートル(北西の風)を観測しました。しかし、わずかに風の強さが基準に達せず、木枯らし1号の発表は見送られました。冬が近づいていることを知らせる意味合いが強いので、あまり厳密にしてもそぐわないと思うのですが。

木枯らし1号は天気図日記から

 木枯らし1号という言葉が初めて使われたのは1956年10月20日の天気図日記です。当時は木枯らし一番、木枯らしNo.1、初のこがらしと呼ばれ、決まった名称はありませんでした。

 そして、条件を初めて示したのは元気象庁天気相談所所長の宮沢清治さんです。「気象」1973年11月号に掲載された木枯らしの季節というエッセイで次のように述べています。

【木枯らし1号の条件(東京)】

1.気圧配置が西高東低の冬型となること

2.風向が北から西北西の間になって最大風速が10メートル以上となること

3.風が吹き出した翌日の最高気温が2~3度低くなること

4.10月早々や12月になってからの吹き出しは季節感からして採用しない

 風の強さが今とは違うものの、現在の木枯らし1号の原型はここにありそうです。

季節の感じ方は人それぞれ

 いつ頃から現行の木枯らし1号となったのか、はっきりしませんが、1960年代になると、毎年のように木枯らしという言葉が天気図日記に登場するようになりました。そのころから徐々に、木枯らし1号が定着してきたように思います。

 また、宮沢清治さんはエッセイのなかで、小山博さんと大沢重雄さんが木枯らし1号の期日を1946年までさかのぼって調査したことを明かしています。

 これまでに木枯らし1号がなかった年として、1959年、1962年、1977年、1979年、2018年があります。小山さんらの調査では1959年は該当なし、1962年は12月2日としています。このような事情を踏まえれば、2年連続で木枯らし1号の発表がなくても、わざわざ史上初という必要はなく、珍しいわけでもないでしょう。季節の感じ方は人それぞれでいいと思います。

【参考資料】

気象庁天気相談所:東京における気象の記録、東京地方の木枯らし1号

天気図集成(1956年~1965年)、(財)日本気象協会創立15周年記念

宮沢清治、1973:木枯らしの季節、「気象」1973年11月号、(財)日本気象協会

気象予報士/ウェザーマップ所属

民放キー局で、異常気象の解説から天気予報の原稿まで幅広く天気情報を担当する。一日一日、天気の出来事を書き留めた天気ノートは117冊になる。365日の天気の足あとから見えるもの、日常の天気から世界の気象情報まで、天気を知って、活用する楽しみを伝えたい。著作に『わたしたちも受験生だった 気象予報士この仕事で生きていく』(遊タイム出版/共著)など。

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