台風と黒潮 未知なる関係

本州の南岸沿いを流れる黒潮 暖かい海流は台風に影響を与えるという(提供:アフロ)

 2017年8月下旬から大蛇行している黒潮。今年初めて上陸した台風6号は紀伊半島沖を流れる黒潮付近で発生した。世界有数の暖流が台風の発生や経路に関係したのだろうか。

大量の熱を大気に放出する黒潮

 天気と海洋の関係といえば、有名なのがエルニーニョ/ラニーニャ現象です。今では異常気象を引き起こす現象として広く認められるようになりました。少し前までは考えられなかったことです。

 一方で、まだ知られていないものもあります。それは黒潮です。世界有数の暖流として知られ、東シナ海から本州の南岸を流れています。黒潮という名の通り、濃い藍色をしていて、海面が1メートルほど盛り上がっているそうです。黒潮によって大量の熱が大気に放出されています。

36年ぶりの長期大蛇行

 今年初めて上陸した台風6号を見ていて、あることに気がつきました。台風6号が発生した海域はちょうど黒潮と重なるのです。こちらの図は黒潮の流れを示したもの(暖色)で、台風6号が発生した場所に×印をつけました。

黒潮の流れと台風6号の発生位置(気象庁ホームページより。×印は著者加工)
黒潮の流れと台風6号の発生位置(気象庁ホームページより。×印は著者加工)

 黒潮は2017年8月下旬より、紀伊半島から大きく南に離岸して流れています。黒潮の流れには3つの形があり、紀伊半島沖で大きく蛇行した流れは大蛇行型と呼ばれます。

 大蛇行型は1965年以降、今回を含めて6回発生していて、1981年11月から1984年5月まで2年7か月続いた大蛇行以来、36年ぶりの長期となっています。

台風6号の発生に、黒潮は関係したのでしょうか?

 台風の発生には海の水温が深く関わっています。たしかに、黒潮に沿うように水温25度以上の海域が見られますが、特別に高いとも言えません。

日表層水温図(深さ50メートル)気象庁ホームページより
日表層水温図(深さ50メートル)気象庁ホームページより

 では、もっと深いところの水温はどうでしょう。こちらは水深200メートル付近の水温です。

日表層水温図(深さ200メートル)気象庁ホームページより
日表層水温図(深さ200メートル)気象庁ホームページより

 黒潮が流れている海域は周囲と比べ水温が高いことがわかりました。台風の発生・発達には暖かい海が必要です。しかし、台風は強い風を伴っているため、海面がかき回されることにより、冷たい海水が湧き上がります。そうなると、海が冷えてしまい、台風の発生・発達が抑制されてしまいます。

 最近の研究で、台風には海面水温よりも、内部の水温が深く関係していることがわかってきました。表面だけ暖かい海より、内部も暖かい海の方が台風は発達しやすいという考えです。これを海洋貯熱量といい、黒潮にも通じる見方です。

台風と黒潮、ほかにはどんな関わり合いが考えられるのでしょう

 黒潮が大蛇行すると、紀伊半島の東側に冷水塊が発生します。この冷水塊には反時計回りの流れがあり、台風が近づくと顕著な高潮が発生することが知られています。最近では2017年10月の台風21号と黒潮の大蛇行が重なり、伊豆半島の西側で潮位がさらに10センチから20センチ高くなりました。

 また、今回の台風6号の動きは冷水塊を避けるように、紀伊半島に上陸したようにも見えます。

2019年台風6号の経路図(ウェザーマップ作画)
2019年台風6号の経路図(ウェザーマップ作画)

 黒潮に沿った水温の高い所は風が強く、水温の低いところは風が弱くなるという調査もあり、相対的に台風の渦が移動したと推測できるかもしれません。

 黒潮が台風や天気に与える影響に興味は尽きません。大量の熱を大気に放出する黒潮がどのくらい影響しているのか、わかっていないことの方が多いようです。未知なる黒潮、今後も事例を重ねていきたいと思います。

【参考資料】

気象庁ホームページ:海洋の健康診断表

気象庁:黒潮が12年ぶりに蛇行、2017年9月29日

市成隆、2006:黒潮流軸上に発生する対流雲―海洋から大気に影響を与えた事例―、天気、53、693-699

MASAMI NONAKA and SHANG-PING XIE, 2003:Covariations of sea surface temperature and wind over the Kuroshio and its extension:Evidence for ocean-to-atmosphere feedback、J. Climate、16、1404-1413