米国がん協会 “HPVがんのない世界へ”  HPVワクチン接種率80%を目指すキャンペーン

米国では男の子のHPVワクチン接種も50%以上になりました。(提供:Mono_tadanoe/イメージマート)

コロナ禍で小児科利用が減少

 厚生労働省の調査によれば、日本で今年5月に小児科を受診した患者数は、前年同月の半数近くに落ち込んだという。新型コロナウイルス感染症を懸念した受診控えが多かったのだろう。

 新型コロナの影響が日本より深刻な米国では、4月時点での6歳から17歳の受診は、71%も減少したという。(注1)このため、大事な予防接種を受けそびれる子供の増加が懸念されている。

 米国がん協会は、コロナ禍にあってもがん予防に役立つHPVワクチン接種を後退させないために、「ミッション:HPVがんのない世界へ」をテーマに、HPVワクチンの接種キャンペーンを開始した。(注2)

子宮頸がんだけじゃない

 HPV(ヒトパピローマウイルス)は150種類以上あり、うち一部の発がん性HPV型に感染すると、子宮頸がんなどいくつかのがんを発症する可能性がある。HPVは性的な接触で感染するため、男女を問わず大多数の人が一生涯のいつかの時点で感染する一般的なウイルスだ。 

 

 HPVワクチンは、発がん性HPV型への感染を予防することで、感染で起きる『前がん病変』や、その後のがんの発症を防ぐ。子宮頸がん予防のワクチンとして知られているが、そのほかにも女性のがんでは膣がん、外陰がん、男性のがんでは陰茎がん、そして男女ともに発症の可能性がある肛門がんと中咽頭がんを予防することができる。

 米国ではじめてHPVワクチンが導入されたのは、今から14年前。最初は4つのHPV型を予防する4価ワクチンだったが、2014年には上記のがんに加え性器いぼを起こすタイプを含んだ9つの型に対応するHPV9価ワクチン(ガーダシル9)が承認された。2016年以降、米国では9価ワクチンのみが使われている。

 米国疾病対策センター(CDC)の調査によれば、2012年から2016年の間、米国では年間平均で43,999件のHPV関連がんが報告されている。このうち92%は、HPVワクチン接種で予防できるものだという。(注3)

HPVワクチンの効果は?

 HPVワクチンの効果を調べる研究は、これまで多くの国で行われてきた。そうした過去の研究から、HPVワクチン接種後、最長8年のフォローアップについて6000万人のデータを分析したシステマティックレビューが昨年6月、医学専門誌の『ランセット』に掲載されている。

 それによると、HPVワクチン接種を開始した5年から8年後には、13歳から19歳の女子において、子宮頸がんの原因となるHPV16型と18型への感染が83%減少したという。また接種開始から5年から9年後では、15歳から19歳の女子で、中等度以上の子宮頸部異形成(前がん病変)も51%減少していた。

 軽度、中等度の前がん病変は自然治癒することもあるが、中等度以上のものは、がんになる前でも手術による治療が必要なこともある。また、肛門や性器にできるいぼについても、女子および男子で明確な減少がみられた。(注4)

 2005年には10万人に対し8だった米国の子宮頸がん罹患率も、HPVワクチンの導入と子宮頸がん検診により、2018年では10万人に対し6.5まで下がっている。罹患率が対10万人で4まで下がれば、その病気は地域から排除されたとみなされる。ちなみにHPVワクチンの「積極的勧奨の差し控え」が続いている日本の2018年の子宮頸がん罹患率は14.7だ。(注5 WHO国際がん研究機関まとめより)

男性に多い中咽頭がん予防にも

 一方、HPVが原因となるがんのうち、増加傾向が懸念されているのが男性に多い中咽頭がんだ。中咽頭がんは、口を開けた時の突き当り部分にあたるのどや扁桃腺、舌のつけ根などにできる。

 先のCDCの調査で、新規にHPV関連のがん診断を受けた人の数は、推計で毎年3万4800人。主なものは子宮頸がん(9700人)と中咽頭がん(1万2600人)で、中咽頭がんの方が多い。喫煙や過度のアルコール摂取もリスク要因となるが、原因の70%はHPV感染であることがわかっている。

 米国食品医薬品局(FDA)は今年6月11日、HPV9価ワクチンの効能として「HPV感染による中咽頭がんおよびその他の頭頸部がん」も承認している。HPVワクチンは、今や子宮頸がんだけでなく、HPVに起因するがんの予防ワクチンという位置づけに変わりつつある。(注6)

13歳で接種率80%を目指して

 このためCDCでは、11歳~12歳の男女児を対象に、6カ月から1年の間隔をあけて2回接種を推奨している。15歳以降になると3回接種が必要になるケースもある。性的に活発になる前に接種するのが最も効果的。9歳から接種することも可能で、45歳まで受けられる。

 ただし、すでに感染してしまったHPV型をワクチンで排除することはできないので、10代前半の接種機会を逃してしまった人も、様々なHPV型に感染する前に、出来る限り早くワクチン接種を受けることが推奨されている。

 全米接種調査によれば、2018年の接種率(2回接種を完了)が51.1%だったのに対し、2019年は54.2%にアップした。男子の接種率は51.8%と、女子の接種率(56.8%)より低いが、年々上がっている。また10代のうちに少なくとも1回はHPVワクチンを受けた人の率は71.5%に上昇した。(注7)

 米国がん協会は、HPVワクチン導入の20年目にあたる2026年までに、米国の13歳の80%がHPVワクチン接種を受け、HPV関連がんを「米国から排除する」ことを目標にしている。接種率が高まれば、集団免疫を獲得して子宮頸がんをはじめとするHPV関連がんを制圧することも夢ではないのだ。

 日本でも今年7月21日にHPV9価ワクチン(シルガード9)が正式承認された。残念ながらまだ定期接種の位置づけではなく、この9価ワクチンは自費だそう(2020年8月現在)。日本産科婦人科学会も、日本で子宮頸がんが増加しているとした上で、HPV9価ワクチンが広く接種されることを希望するとの声明を発表している。(注8)

 子宮頸がんだけでなくHPV関連がんを制圧する夢について、日本でももっと考えてほしいと思う。

参考リンク

注1 コロナ禍の医療機関利用調査 コモンウェルス財団 (英文リンク) 

注2 米国がん協会 「ミッション:HPVがんのない世界へ」キャンペーン (英文リンク)

注3 92%のHPVがんはワクチンで予防可能 (CDC、英文リンク) 

注4 HPVワクチンプログラム導入の効果 (ランセット誌、英文リンク)

注5 国際がん研究機関(IARC)各国のがん現況検索ページ(英文リンク)

注6 FDA ガーダシル9で承認されている適応、効果(英文リンク)

注7 米国小児科学会ニュース 10代の54%がHPVワクチン接種を完了(英文リンク)

注8 日本産科婦人科学会 子宮頸がんとHPVワクチンに関する正しい理解のために

 HPV9価ワクチンに関する声明