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米FDA、レムデシビルをCOVID-19治療に緊急使用許可

片瀬ケイ在米ジャーナリスト、翻訳者、がんサバイバー
抗ウイルス治験薬のレムデシビル(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

レムデシビルで入院期間が短縮

 米国食品医薬品局(FDA)は5月1日、レムデシビルをCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)で入院治療が必要な成人、および子供の患者に対し使用できるよう、緊急使用許可を発表した。(注1)レムデシビルは米バイオ医薬品大手のギリアド・サイエンシズ社がエボラ出血熱治療用に開発した抗ウイルス作用のある治験薬。

 以前に報告した通り、今年2月からCOVID-19治療への有効性と安全性を調べるランダム化二重盲検比較臨床試験が開始されていた。

米で新型コロナウイルス治療のランダム化試験はじまる

 レムデシビルを使った臨床試験は、米国内の47カ所の医療機関および、日本の国立国際医療研究センターを含むアジアやヨーロッパにある21医療機関でも実施されている。1000人以上を登録しているこの大規模な臨床試験はまだ終了しておらず、最終的な結果はでていない。しかし試験実施機関からは独立した立場の委員会が参加患者400人の初期データを見て、明らかな効果を認めた。

 具体的には、レムデシビルの投与を受けた患者では、プラセボ投与の患者と比べ入院期間が平均で15日間から11日間に短縮された。この臨床試験は重症のCOVID-19患者を対象にしている。多くは人工呼吸器をつけており体への負担が重く、4日間の短縮は、大きな改善と言える。

臨床試験で有意な恩恵が示される

 国立アレルギー感染症研究所(NIAID)のアンソニー・ファウチ所長は、この初期の結果について「この薬はウイルスをブロックすることが示された。明らかに有望であり、プラセボ投与を受けている患者にも、すぐにレムデシビルを使わせる倫理的義務がある」と述べている。

 

 緊急使用許可は、あくまでも臨床試験の初期のデータをもとづいて判断されたもので、通常のFDA承認ではない。最終的に承認するには、引き続き臨床試験を行い、データを詳しく検討する必要がある。

 レムデシビルは、血中酸素濃度が下がり、病院での酸素療法や人工呼吸器が必要な重症のCOVID-19患者に点滴で投与される。副作用には、肝臓の炎症を示す肝酵素の上昇や血圧低下、悪心、吐き気、悪寒や発汗などあるという。

 レムデシビルの臨床試験を2月に始めたネブラスカ大学医療センターのAndre Kalil医師は、レムデシビルの投与で回復が早まっただけでなく、「COVID-19の死亡率が4%下がった。回復時間の短縮と生存の改善を考えれば、非常に有望な薬だ」と述べている。また次の段階では、レムデシビルと抗炎症薬との併用による臨床試験に進むという。(注2)

臨床試験でも迅速に判断できることも

 トランプ大統領は、「時間のかかる臨床試験など待っていられない」として、抗マラリア薬を適応外使用でCOVID-19の治療に使うよう推奨する発言をしていたが、FDAはその後、心拍の異常など深刻な副作用が報告されているとして、臨床試験または医師が経過観察できる病院でのみ使うよう警告した経緯がある。(注3)

 新型コロナウイルス感染症には、有効性が確認されFDAが正式承認した治療薬がない。FDAは「コロナウイルス治療迅速プログラム」を設定し、できる限り早く、新たな治療薬の有効性と安全性を判断できるよう取り組んでいる。4月19日時点では、72の治験薬について臨床試験を行っており、さらに211の治験薬が臨床試験を開始する計画を持っている。(注4) 

参考リンク

注1 レムデシビルの緊急使用許可に関するFDA発表(英文リンク)

注2 レムデシビルに関するネブラスカ・オマハのテレビ局KETVの報道(英語)

注3 FDAのヒドロキシクロロキンの使用に関する警告(英語)

注4 FDAのコロナウイルス治療迅速プログラムについて (英語)

在米ジャーナリスト、翻訳者、がんサバイバー

 東京生まれ。日本での記者職を経て、1995年より米国在住。米国の政治社会、医療事情などを日本のメディアに寄稿している。2008年、43歳で卵巣がんの診断を受け、米国での手術、化学療法を経てがんサバイバーに。のちの遺伝子検査で、大腸がんや婦人科がん等の発症リスクが高くなるリンチ症候群であることが判明。翻訳書に『ファック・キャンサー』(筑摩書房)、共著に『コロナ対策 各国リーダーたちの通信簿』(光文社新書)、『夫婦別姓』(ちくま新書)、共訳書に『RPMで自閉症を理解する』がある。なお、私は医療従事者ではありません。病気の診断、治療については必ず医師にご相談下さい。

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